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中国武術 vs. 3Dプリント4番勝負!——その素材は鉄の武器に耐えられるか

読者の皆さんこんにちは! 2019年度も終わりに近づき、出会いや別れの季節がやってきますね。自分で作ったプレゼントを渡す方もいらっしゃると思いますが、ここで気にしたいのが、ものや素材の耐久性。せっかく渡したプレゼントが壊れてしまったら、元も子もありませんよね。僕(淺野)も普段使っている3Dプリントの素材が、どれだけ丈夫なのか調べてみたくなりました。

素材の丈夫さを確かめるためには、何かで衝撃を加えるのが手っ取り早そうです。そういえば、以前の企画で「武術にハマっている」と話してくれた方がいたような。(撮影:三浦一紀)

ということで、いかにも動きやすそうな戦闘服で登場したのは、中国出身のギーク系モデル梨衣名さん。6年ほど前、ブルース・リーの映画をすべて見終えた翌日に道場の門をたたき、中国武術を習い始めたそうです。師匠は中華人民共和国体育運動委員会で最高の称号「武英級」を獲得し、中国武術を普及するために日本で武術会を立ち上げたという凄腕の達人。毎週のように達人の指導を受け、徒手空拳から武器を使った演武まで、バリエーション豊かな武術を身につけてきました。

さすがの身のこなし。 さすがの身のこなし。

かたやライターを務める僕(淺野)は分かりやすい運動不足。中高時代は柔道部に所属していたものの、今では健康診断で心配される程度の肥満になり、とても生身では梨衣名さんの武術を受け止められません。しかしこのサイトはfabcross。「新しいものづくりが分かるメディア」として、テクノロジーを最大限に活用して立ち向かおうではありませんか。

ヤバい科学者ではありません。 ヤバい科学者ではありません。

国産3Dプリンターを手掛けるMagna Rectaさんにお願いし、4種類の異なる素材で分厚い板を3Dプリントしてもらいました。これだけあれば、きっと師匠に「センスがある」と認められた梨衣名さんの武術にも対抗できるはず。さあ、瓦割りならぬ3Dプリント板割りで勝負してみましょう!

異種格闘技戦にもほどがある! 異種格闘技戦にもほどがある!

異色の戦い! 第1試合 PETG vs. 峨嵋刺(がびし)

3Dプリントした板のサイズは、幅200×奥行き150×高さ15mm。一般的な少年漫画の単行本よりちょっと大きい程度のボリュームです。

(3Dプリント愛好家への解説)ノズル径0.8㎜、Loop2周、ソリッドレイヤーは上面4層、底面3層でプリントしました。インフィルパターンと密度は写真を参照のこと。 (3Dプリント愛好家への解説)ノズル径0.8㎜、Loop2周、ソリッドレイヤーは上面4層、底面3層でプリントしました。インフィルパターンと密度は写真を参照のこと。

さて、チームの先鋒を務めるのは、重量152gのPETG(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)製の板。ペットボトルに使われている素材に近く、強度と耐衝撃性、さらに粘りを兼ね備えた物性に期待が高まります。

対する梨衣名さん、何やら見慣れない道具を取り出しました。

梨衣名

梨衣名

「これは峨嵋刺(がびし)という暗器(身体に隠し持つことができる小さな武器)で、中指に通した輪を軸にして使います。中国の四川省には似た名前の峨嵋山(がびさん)という山があるんですよ♪」

とても楽しそうに話していますが、本気の刃物です。梨衣名さんの演武で盛り上がる撮影メンバーをよそに、僕の心は穏やかではありません。中3で初めて臨んだ柔道地区大会の個人戦決勝、緊張と穏やかさが混ざりキンと張り詰めたあの感覚がよみがえる。さぁ、安全に十分気を付けながらも、いざ尋常に勝負……!

淺野

淺野

「うぉ~~っほほおお~~~!」

回転が止まるや否や、掛け声とともに勢いよく迫る峨嵋刺。生命の危機を感じて強く握ったPETGの板は、無情にもその刃に貫かれてしまいました。

数十センチ先の板から刃物が飛び出すビジュアルはかなりの衝撃で、驚いた後になぜか笑ってしまいました。感情をつかさどる回路がパニックになったのかもしれません。

黒く塗られた部分は梨衣名さん用の目印。 黒く塗られた部分は梨衣名さん用の目印。

戦いに敗れた板をよく見ると、ちょうど内部の構造体(インフィル)のない隙間部分が貫かれてしまったようです。造形の弱点を狙われた3Dプリント板チーム、残念ながら黒星スタートとなりました。

密度で勝負! 第2試合 PLA vs. 刀(とう)

次の試合に臨むのは、家庭用3Dプリンターでは最もポピュラーな素材のひとつ、重量109gのPLA(ポリ乳酸)製の板。プリント時の反りが少なくイヤな臭いも発生しない優等生ですが、耐久性ではPETGやABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)に劣ります。その弱点をカバーすべく、内部構造の密度を高めに設定してもらいました。

峨嵋刺におびえる僕を見かねて、演武に使うための「刀(とう)」を取り出した梨衣名さん。刃はついていませんが、ずっしりとした重みがあり打撃力が高そうです。

3Dプリント板を椅子の間に渡し、そこに刀を振り下ろして勝負。

梨衣名

梨衣名

「刀で何かを殴るのは初めてですが、頑張ります!」

梨衣名

梨衣名

「ハァッ!」

淺野

淺野

「くっ……!」

高い密度も何のその、分厚い刀がPLAを切り裂きました。粘りのない性質のせいか、破片もパキパキと細かく飛び散っていきます。普通に3Dプリントする際にはニッパーなどで切り離しやすく便利なのですが、武術相手には分が悪かった。

梨衣名

梨衣名

「動物の骨をさばいているみたいで気持ち良かったです♪」

ご満悦の表情を見せる梨衣名さん。PLA破壊はストレス解消に役立つのかもしれません。

3連敗を阻止せよ! 第3試合 Bronze vs. 中国武術

手痛い2連敗を喫した3Dプリント板チーム。悪い流れを止めるため、真打ちを投入します。

こちらの茶色くずっしりしたBronze素材には、名前の通り銅が配合されています。きれいに研磨すれば銅製品のような美しい見た目になりますが、今回は重さと丈夫さに期待しての登用です。重量はチーム最高の582gとなりました。

淺野

淺野

「ちょっとやりすぎたかもしれません。負ける気がしない」

梨衣名

梨衣名

「これはちょっと厳しいかな……?」

まずは峨嵋刺の攻撃をガード! 刺突の勢いがそのまま体に伝わるほど、しっかりと防御できています。

梨衣名

梨衣名

「刃先が吸いつく感じがしました。ガトーショコラみたい!」

続いて刀の一撃を受けるも、表面に少し傷がついただけで大きな破壊はなし。盤石の耐久力を誇ったBronze、チームに初の白星をもたらしました。

制作側としても、これほど物性が異なるのは想像以上でした。金属プリンターはまだまだ個人にはハードルが高いですが、金属入りのフィラメントでもある程度の丈夫さは確保できそうです。

トリの一戦! 第4試合 Woodlike vs. 中国武術

ラストを飾るのは重量112g、PLAに木粉を35%混ぜて作られたWoodlikeフィラメント製の板。ザラザラとした手触りで、木のような風合いになるのが特徴です。耐久力には不安が残りますが、木のぬくもりで優しく包んでくれることを期待しましょう。

梨衣名

梨衣名

「ハァッ!」

……残念ながら不安は的中。きれいに貫かれ、おまけに空いた穴をグリグリされてしまいました。ぬくもりに期待している場合ではなかったようです。

勢いそのままに、PETGもあわせて刀で破壊。よく見てみると、壊れ方にも違いが見て取れます。

淺野

淺野

「Woodlikeは木くずのような細かい破片が出ていますね」

梨衣名

梨衣名

「ボソボソしていて、ウエハースみたいです」

淺野

淺野

「PETGは大きなパーツに分かれました。これが『粘りがある』ということなのかも?」

激戦を終えて——次なる挑戦者を待つ!

こうしてあっという間に4試合が終了。3Dプリント板で生き残ったのはBronze製のみ、PETG、PLA、Woodlikeは中国武術の前に砕かれるという結果になりました。戦績では負けたとはいえ、梨衣名さんの武術や暗器を前に、なかなか健闘したのではないでしょうか。

それにしても、素材によってここまで性質が異なるものなんですね。内部構造のパターンによっても結果は大きく変わりそうです。いやー、3Dプリントって本当に奥が深い。我こそはという素材やデータをお持ちの方は、ぜひ編集部までご一報を!

※デモは専門の指導者監督の元、行っています。

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