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「ハクト」インタビュー

「ハクト」インタビュー(前編)月面で無人探査機を走らせたい——国の宇宙開発よりも先に

宇宙開発。その言葉から、最先端の科学技術と天文学的な資金を投じて挑む国家プロジェクトが浮かんだとしたら、認識を改めたほうがいい。なぜなら、袴田武史氏の率いる宇宙開発チーム「ハクト(白兎に由来)」は、既存の技術を応用して調達可能な資金を元手に活動している民間企業だからだ。現在の目標は、月面探査を競う国際宇宙開発レース「Google Lunar XPRIZE」でミッションを達成すること。成功の暁には、「日本初の月面無人探査」となる。(撮影:水戸秀一)

「Google Lunar XPRIZE」とは

Googleがスポンサーとなり、アメリカのX PRIZE Foundationによって運営される「Google Lunar XPRIZE」。2007年に開幕したこのレースの特徴は、民間企業が月面探査を競い合う点にある。賞金総額は3000万ドル(約30億円)。ミッションは、「月面に純民間開発の無人探査機(ローバー)を着陸させ、月面を500m以上走行すること」、「指定されたHD動画や静止画を地球に送信すること」、そして、「2015年12月31日までに遂行すること」だ。エントリーはすでに締め切られ、世界各国から22チームが参加を表明。その一つ、袴田氏率いる「ハクト」は日本から唯一挑戦するチームである。
http://www.googlelunarxprize.org

エンジニアはたくさんいる。自分のやるべきことは他にある

今回お話を聞いたチーム・ハクトの袴田武史氏。手元にあるのは現在開発中のローバーと、月面での熱対策として車輪に用いる予定の発泡系素材サンプル。自身もGeorgia Techで修士号(航空宇宙工学)を取得し、かつて宇宙開発のエンジニアを志した一人だ。

——袴田さんはチームの立ち上げ当初からメンバーに加わり、2013年1月にはプロジェクト全体のリーダーに就任されていますが、そもそも宇宙開発にはどのような経緯で参加されたのでしょうか?

「まずチームの成り立ちからご説明しますと、我々の前身となるチームがヨーロッパで2008年に結成されました。ESA(欧州宇宙機関)に勤務する若手が中心で、彼らは月への“着陸船”を手掛けるエンジニア集団でした。月面で活動するには当然“無人探査機(ローバー)”のエンジニアも必要になります。

そこで、現在もチームで開発の中心的役割を担っている東北大学の吉田和哉教授(航空宇宙工学)に白羽の矢が立ちまして、これがGoogle Lunar XPRIZEに日本が参加するきっかけになりました。

そして、ヨーロッパサイドには日本での活動や資金調達にも力を入れたいという意向があったので、調達コストの最適化を図る経営コンサルティングファームに在籍していた私にも声が掛かったというわけです。 新卒で入社して3年目、2009年の夏でした。

チームの立ち上げ時から行動をともにする東北大学の吉田和哉教授は、小惑星探査機「はやぶさ2」の小型ローバー開発なども手掛ける宇宙ロボティクスの第一人者。

当時の私は宇宙開発に携わっていたわけではありませんが、民間での宇宙開発を発展させたいという想いはすでにありました。

最初のきっかけは、映画“スターウォーズ”です。小学生の頃にテレビで観て面白さに魅了されたことを覚えています。“宇宙船が飛び交う世界を作りたい”と思った原体験です。中学生の頃にはエンジニアを志すようになり、航空宇宙工学が学べる大学へ進学しました。ただ、入学してみたものの、これだ! と思える研究室がなかったのです。材料や制御といった分野ごとには最先端の研究が行われていても、色々な技術を組み合わせて“宇宙船を造る”という、自分のやりたかった研究をやっているところはありませんでした。

そこで興味を持ったのが、さまざまな分野を混合して一つのモノをつくり出す“システム”でした。具体的には多領域最適化設計などのシステム工学をベースにした世代航空宇宙システムの概念設計手法で、日本で学べないならとアメリカの大学院へ留学しました。

そして現地で学ぶうちに、経済的な合理性やメリットなども含めた全体設計ができないかと考えるようになりました。コストを下げて収入を得る仕組みがないと民間での宇宙開発は発展しないと思ったからです。

卒業する頃には、自分はエンジニアではなく、エンジニアが活躍できるフィールドを作ろうと思うようになっていましたね。それが就職先に経営コンサルティングファームを選んだ理由でもあります。宇宙開発に将来役立つ見地を仕事の中で加えていこうと思いました。そして、3年目にチーム参加の話をいただいて、いいチャンスなのでやってみようと飛び込みました」

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