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ガラスやプラスチックの経年変化プロセスは、ある観点からは時間可逆的であるという結果——「物質時間」の計測に初めて成功

物質の経年変化プロセスを研究している物理学者らが、ガラスの「内部時計」が時を刻んでいることを初めて計測し、その経年変化プロセスは特定の観点からは時間可逆的であることを示した。この研究は、独ダルムシュタット工科大学を中心とした研究チームによるもので、2024年1月26日付で『Nature Physics』に掲載された。

日常生活では、床に落ちて割れたコップが自然に元の状態に戻るのを見ることはなく、時間は1方向にしか進まないと私たちは感じている。しかし、運動を説明する公式は時間の方向に関係なく適用されるため、物理学者にとってこれは直ちに自明なことではない。

物質の経年変化は、ガラスが割れるのと同様に不可逆的であると思うかもしれないが、今回の研究で研究チームは、ガラスやプラスチック中の分子の動きを研究する際に、ある視点から見れば、その動きが時間可逆的であることを発見した。

ガラスやプラスチックは分子の絡まりでできていて、その粒子は絶えず運動しており、繰り返し新しい位置へと滑り込んでいる。粒子はより良いエネルギー状態を絶えず探し求めているため、時間の経過とともに物質の性質が変化し、その結果、経年変化する。ただし、窓ガラスのような有用な物質では、経年変化には何十億年もかかる。

このプロセスは、「物質時間(material time)」として知られる概念によって説明できる。物質には内部時計があり、この内部時計は実際の壁掛け時計とは異なる時を刻むもので、物質内の分子の再組織化がどれだけ早いかによって物質時間は時を刻む。

この概念が50年ほど前に発見されて以降、物質時間の計測に成功した者はいなかったが、研究チームはその計測に初めて成功した。まず、ガラス製の試料にレーザーを照射したところ、試料内の分子は光を散乱させた。散乱ビームは重なり合い、カメラのセンサー上に明るい点と暗い点の不規則なパターンを形成した。これには極めて精密な測定が必要であり、最先端の超高感度ビデオカメラを使って、分子の極めて小さなゆらぎを記録した。時間の経過につれてこのゆらぎがどのように変化するかということは、物質の内部時計がどのくらいの速さで時を刻むかということであり、統計的手法を用いて研究チームは計算した。

分子ゆらぎの統計解析によって、分子のゆらぎは物質時間という観点から見ると時間可逆的であるという驚くべき結果が出た。つまり、物質時間を逆行させても変化しないということだ。

ただし、これは物質の経年変化を逆行させて元の状態に戻せるという意味ではない。むしろ、この結果は物質の経年変化に関する不可逆的な部分すべてを表しているので、物質時間という概念が適切であることを立証している。物質時間が時を刻むことは、問題となっている物質の時間の経過を具体化していて、この時間尺度に関連する物質の中で動く他のものすべては、経年変化の一因とはならない。例えて言うなら、車の後部座席で遊び回る子供たちは車の動きに寄与していないのと同じことだ。

このことは一般に不規則物質に当てはまると考えた研究チームは、ガラスおよびプラスチックを調べ、モデル物質のコンピューターシミュレーションを行ったところ、双方の物質で同じ結果が得られた。

物質時間の観点から観測された可逆性が、自然の物理法則の可逆性によるものなのか、また、内部時計の時間の刻み方が物質によってどのように異なるのかということは、まだ解明されていない。研究チームは、このような点についてさらに研究を進める予定だという。

fabcross for エンジニアより転載)

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