新しいものづくりがわかるメディア

RSS


スマートウクレレ「Populele」はいかに成長を果たしたか——中国ハードウェアスタートアップの躍進を支えるシャオミエコシステム

数多くのユニコーン企業や有力スタートアップがひしめく中国。ドローンや360°カメラといったハードウェアが躍進するなか、スマートフォンと連動するギターやウクレレが販売台数を伸ばしていることをご存じだろうか。2018年9月7日に東京大学本郷キャンパスで開催されたイベント「中国のハードウェア・スタートアップ~シャオミエコシステムとPopuMusicの挑戦~」から、スマート楽器を手掛けるPopuMusicが量産/販売の壁を越え、短期間で大きな成長を果たした背景をお伝えしよう。

誰でも演奏を楽しめるスマート弦楽器

北京発のベンチャー企業PopuMusicは気軽に演奏を楽しむためのスマート弦楽器として、ギター型の「Poputar」とウクレレ型の「Populele」の2機種を販売している。

スマートウクレレ「Populele」の紹介映像。

PoputarとPopuleleのネック部分には、ギターコードとウクレレコードに対応した位置にLEDが埋め込まれている。スマートフォンの専用アプリとBluetoothで接続することで、曲の進行に合わせてLEDが点灯するようになり、ユーザーは簡単に演奏を楽しむことができる。類似の仕組みは他の電子楽器にも見受けられるが、PopuMusicのアプリには独自の機能が多く搭載されている。

ひとつの特徴が、映像形式でのチュートリアルだ。全くの初心者であっても演奏を楽しめるよう、細かなパートに分かれた講義が用意されており、演奏のコツをビジュアルで理解することができる。講義中に指示されたコードの位置も本体のLEDが点灯して教えてくれるため、直感的に理解することができる。講義の後には「音ゲー」のような実践形式のテストが用意されており、既定のスコアを満たせば次のパートに進むことができる仕組みだ。

イベントはPopuMusicの共同代表であるLuo Shichuan氏を招いて行われた。 イベントはPopuMusicの共同代表であるLuo Shichuan氏を招いて行われた。
Luo氏によるPoputarの実演。スマートフォンには自動でスクロールする楽譜が表示されている。 Luo氏によるPoputarの実演。スマートフォンには自動でスクロールする楽譜が表示されている。

演奏時のタイミングの良しあしを判断するだけでなく、楽器自体のチューニングもアプリがサポートしてくれる。こうした音声解析のためのAI技術がPopuMusicの体験の核となっており、今後は演奏データの収集や解析を通じて自動作曲などに展開していく計画もあるという。

会場の未経験者も10分ほどで簡単な曲を演奏することができた。 会場の未経験者も10分ほどで簡単な曲を演奏することができた。

PopuMusicは2016年にPoputarを発売して以来、後継機も含めて世界で10万台以上を売り上げており、アプリの課金ユーザーも6万人を超える見通しだ。ハードウェアスタートアップが直面する量産と販売の壁を越え、PopuMusicが短期間で大きな成長を果たした背景には、いったいどのような要因があったのだろうか。

独自のエコシステムを構築するシャオミ

イベントを主催した伊藤亜聖氏(東京大学社会科学研究所准教授)によれば、近年の中国におけるイノベーションの事例は大きく4パターンに大別できるという。Alibabaに代表されるデジタルプラットフォーム型、モバイル決済システムによって無人コンビニを実現するような社会実装型、そして科学技術によるイノベーション型とサプライチェーン型が加わる。

サプライチェーン型に分類されるスマートフォン業界の成長は著しく、世界の市場でも大きな存在感を示している。2017年のスマートフォン出荷台数世界トップ10社のうち6社は中国企業であり、SamsungとAppleに続く第3位のHuaweiは電波塔を建設するなど堅実な展開を見せている。Xiaomi (小米科技、以下シャオミ)は出荷台数こそ6位に留まっているが、前年度比の伸び率は56.1%とトップ10の中でも随一だ。

こうしたシャオミの成長を支えているのが、独自に構築された「シャオミエコシステム」の存在だ。シャオミはスマートフォンを開発し販売するだけではなく、独自OSである「MIUI」やECサイト、ゲームや映画などのコンテンツ提供プラットフォーム、投資部門など幅広い領域を開拓してきた。ユーザーや企業との接点を多面的に持ち続けることで、根強いファンや収益のポイントを獲得している。

Luo氏によるシャオミエコシステムの解説。 Luo氏によるシャオミエコシステムの解説。

さらにシャオミは数々のベンチャー企業のアイデアを活用し、その製品をマーケットに届ける役割も果たしている。プロダクトを開発する企業は、製品にシャオミの名前を冠する代わりに、シャオミの運営する実店舗「シャオミストア(小米之家)」やECサイトで製品を販売することが可能になる。

PopuMusicのプロダクトも、シャオミエコシステムに組み込まれ、広い販路を利用することで大きく製造台数を伸ばしてきた事例のひとつだ。PopuMusicがシャオミエコシステムの一員となるまでの経緯を、Luo氏の解説に基づいて追ってみよう。

シャオミストア購入できるデバイスが机上に並ぶ。リュックサックのような非電化製品まで扱っている。 シャオミストア購入できるデバイスが机上に並ぶ。リュックサックのような非電化製品まで扱っている。

クラウドファンディングを越えて実店舗へ

Luo氏は2013年に天津科技大学でコンピュータサイエンスの学位を取得している。2013年当時、中国では政府によるスタートアップの支援が始まりつつあった。中でも大学が集中する北京市の海淀区にはスタートアップのためのカフェやコワーキングスペースが多く作られ、政府の誘致を受けた投資家やメディアと若者の交流が盛んに行われていたという。

翌2014年、ヒューストン大学大学院の在学時に中国でハードウェアへの投資ブームが起こり、北京発のスマートピアノ「The ONE」が大きな成功を収めた。自身も10年以上のギター演奏経験があったLuo氏は、音楽とテクノロジーを組み合わせて教育やエンターテインメントの分野で活用するアイデアを思いつく。

大学院修了後、海淀区のスタートアップストリートに戻ったLuo氏はCEOのBohan Zhang氏と共に、エンジェルラウンドの投資家であるBob Xu氏から調達した850万人民元を用いてPoputarを開発。Alibabaが立ち上げたTaobao(中国最大のコンシューマー向けECサイト)でのクラウドファンディングなどを経て販売してきた。

PopuMusicのウェブサイトで会社の歴史を確認できる。 PopuMusicのウェブサイトで会社の歴史を確認できる。

その後、新商品であるPopuleleの開発と並行して、PopuMusicはシャオミエコシステムに組み込まれていくようになる。2016年11月にはシャオミとShunwei(順為基金:シャオミのCEOである雷軍氏の設立したベンチャーファンド)から資金調達を実施。2017年2月にシャオミのクラウドファンディングサイトにPopuleleが登場すると、わずか10時間で3600万円を売り上げた。

この成果が認められ、PopuleleはシャオミのECサイトや実店舗で購入できるようになり、強力な販路を獲得するに至った。Luo氏によれば、シャオミエコシステムを用いてハードウェアを販売したい場合、まずはクラウドファンディングで可能性を試されることが定番になっているようだ。

販売台数の変化がプロダクトを変容させる

PopuMusicでは現在、木製のPopuleleの後継機としてABSを基本とした新素材による「Populele2」を開発中だ。素材変更の背景には、売り上げ台数の加速的な増加がある。Populeleは現在世界中で月に8000台を販売しているが、シャオミ側はシャオミストアだけでも同期間でそれ以上の売り上げが見込めるとしていて、人手と時間のかかる木製から新素材へ移行し、安定した供給を目指している。シャオミエコシステムは、プロダクトの仕様にも影響を及ぼしている。

もちろん、素材が変われば生産地も変わる。現在は深センから車で1時間半ほどかかる恵州市で月産4000台のペースで製造しているが、東莞市に拠点を切り替えることで移動時間が1時間に短縮され、製造台数も月産1万2000台程度まで向上させることができるという。

PopuMusicの生産部門がある深センは「来了就是深圳人(来ればすなわち深セン人)」という言葉に代表される通り、世界にオープンな姿勢を持ち若い活気にあふれている。大学が多く政府の支援も豊富な北京とともに、スタートアップにお勧めの都市だとLuo氏は伝えてくれた。

北京と深センに次ぐ、いま中国でスタートアップを始めるのにお勧めの都市として、第2位にはAlibabaを有し先進的な取り組みが集まる杭州市、第3位には金融都市としてFinTechなどが栄える上海などが挙げられた並ぶ。 北京と深センに次ぐ、いま中国でスタートアップを始めるのにお勧めの都市として、第2位にはAlibabaを有し先進的な取り組みが集まる杭州市、第3位には金融都市としてFinTechなどが栄える上海などが挙げられた並ぶ。

創業から3年でグローバルベンチャーとなったPopuMusic。その躍進を支えたのは、誰にでも分かりやすいプロダクトと良質な体験、そしてシャオミが抱える独自のエコシステムであった。

関連情報

ニュース

編集部のおすすめ

連載・シリーズ

注目のキーワード

もっと見る