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美術史上初の工芸作品「レースの地球儀」完成!

手工芸×エンジニアリングで「ありえない」を形にする

創作は極端であるほど、おもしろい。「そんな無茶な」と思わず叫びたくなる発想から名作は生まれる。今回編集部が挑戦したのは手工芸とエンジニアリングを組み合わせた作品。手工芸側の作り手として、30年以上にわたり、第一線で活躍する手芸アーティスト「ニットの貴公子」こと広瀬光治さんを起用。服飾以外にもレース編みを駆使した作品なども手がける斯界を代表する匠だ。そこに新人モデラーと中堅エンジニアが参加。企画から完成までに渡る苦闘の日々を語ってもらった。(撮影:香川賢志)

レースで表現された南米大陸。花柄模様で細部まで埋めつくされている。 レースで表現された南米大陸。花柄模様で細部まで埋めつくされている。
レースのネットで表現された大西洋。球形のため、赤道と極地でネットの大きさが異なる。 レースのネットで表現された大西洋。球形のため、赤道と極地でネットの大きさが異なる。
台座からのびた支柱にもレースの花がはさみこまれている。 台座からのびた支柱にもレースの花がはさみこまれている。
接合部。北極と南極の2点で支持する構造。エンジニアリングの見せ場となった。 接合部。北極と南極の2点で支持する構造。エンジニアリングの見せ場となった。
台座から伸びた支柱の先端。独特のフォルムにこだわった。 台座から伸びた支柱の先端。独特のフォルムにこだわった。
レースの地球とのマッチングを考慮しつつ、曲線の美しさも生かした台座部分。 レースの地球とのマッチングを考慮しつつ、曲線の美しさも生かした台座部分。
基底部にあたる南極大陸。気がつきにくい部分だが手は抜かない。 基底部にあたる南極大陸。気がつきにくい部分だが手は抜かない。
プロジェクトに関わった3人。手芸アーティスト広瀬光治さん(右)、モデラー宇田川真希さん(左奥)、エンジニア吉田真樹さん(左手前)。 プロジェクトに関わった3人。手芸アーティスト広瀬光治さん(右)、モデラー宇田川真希さん(左奥)、エンジニア吉田真樹さん(左手前)。

プロジェクト始動「世の中にないものを作ろう!」

編集部から広瀬さんに話が持ちこまれたのは昨年の6月。最初は漠然とした話だった。

「服飾以外の作品を作るという経験はありました。レース編みの新しい可能性を探る、というのは自分のテーマでもあるので。言われた条件は『世の中にない』『デザインと機能がある』『1年以内に完成する』の3つだけ。

いろいろなアイデアの中から地球儀はどうだろうか、と。確かに3条件を満たせそうだし、地球は編み物、台座はエンジニアリングと役割も分担できそうなので、これに決めました。見栄えもする大きさということで、目指すは直径30cm。なかなかの大作です。当初は編み物の技術で、糸の代わりに細い針金を編んでみました。編めはしますが、できあがりが美しくない。早々にあきらめました。

しかし、地球は球体だし、曲面をうまく出さなくてはならない。強度も必要です。レースで編めるのかと悩みました。レースで作る立体物はないわけではありません。ただ、それには太い糸を使います。それではレースの繊細さが出せません。細い糸で編み上げてこそ『世の中にないもの』になります」(広瀬さん) 

広瀬さんによる初期のデザイン案。当初は台座にもレースをあしらう予定だった。 広瀬さんによる初期のデザイン案。当初は台座にもレースをあしらう予定だった。

「強度を出すためにレジン(紫外線硬化樹脂)で固める案が編集部から出てきました。これならレースの質感も生かせます。まずは地図を見ながら各大陸の型紙を作りました。ちょっと編んでみて球面にまとめようとしたのですが、うまくいきません。

よく考えれば、いくらレース編みに柔軟性があるからといって、単純に平面をつなぐだけでは球面にはなりませんよね。最初はそんなことも分かりませんでした」(広瀬さん)

地図を見ながら大陸や島をレース編みで表現していった。 地図を見ながら大陸や島をレース編みで表現していった。

培った編み物テクニックを駆使

「大陸は『かぎ針編み』という技術を使っています。レースの基本となる編み方のひとつです。最初から大陸の形に編むことも可能でしたが、それをやらずにモチーフを設けてパーツの組み合わせで仕上げていくことにしました。レース編みの繊細さが出て華やかな仕上がりになります。モチーフとしては花と葉。その国の花を使いたかったのですが、そこはケースバイケースで。

湖には『かがり編み』という、モチーフをつないだり、端をそろえたりするときのテクニックを使い、陸地とは異なるスペースを作りました。海と球面全体は『ネット編み』です。赤道部分と頂点では網目の数が違いますが、そこは計算で出しました。

私も含めて4人の編み手の共同作業だったのですが、それぞれの個性がレースの花にも出ています。ただ各人のパーツを合わせたとき、大陸部分のレースの密度が違わないよう注意しました」(広瀬さん)

なぜ、密度に注意する必要があったのだろうか?

花や葉をモチーフに大陸を表現。細かいレース編みが美しい。 花や葉をモチーフに大陸を表現。細かいレース編みが美しい。
繊細なレース編みに広瀬さんのテクニックがさえる。 繊細なレース編みに広瀬さんのテクニックがさえる。

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