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小さな活版印刷機の版を自作するためのテンプレートを作ったので使ってほしい

漢字を印刷してみる

常用漢字として定義されている漢字は2136字もあり、かなや英数字の比ではない。吉野さんは「謹賀新年」などの汎用性のある漢字の活字を付属したかったそうだ。さすがに2136字も用意するのは難しいので、浄土真宗のお経「正信偈」(正信念仏偈)の冒頭77字を版のサイズに合うようにAdobe Illustratorでレイアウトし、レーザーカッターの彫刻版によって印刷してみる。正信偈は、手頃な漢字の羅列であり筆者が小さい頃から唱えていてなじみがあるというだけで選んでいる。

左:位置合わせ用の目印が彫刻された3mmアクリルを活字台に貼り付けた状態。 右:漢字の彫刻された3mmアクリルをさらに重ねて貼り付けた状態。加工にはレーザー彫刻のスタンプモードを使った。 左:位置合わせ用の目印が彫刻された3mmアクリルを活字台に貼り付けた状態。
右:漢字の彫刻された3mmアクリルをさらに重ねて貼り付けた状態。加工にはレーザー彫刻のスタンプモードを使った。

レーザーカッターで版を作るために、今回は3mmのアクリル板を使った。付属の活字の厚みは6mmなので、アクリル板を2枚重ねて使う。版の下側にくるアクリル板には位置合わせのために、垂直水平方向の中心線と、もとの活字台にある穴を彫刻してある。正信偈は印刷範囲目一杯に彫刻したので位置合わせは不要のため、そのまま重ねて印刷した。

実際に小さな活版印刷機で印刷したものはムラができてしまったが、「帰命無量寿如来……」と続いているのが分かる。 実際に小さな活版印刷機で印刷したものはムラができてしまったが、「帰命無量寿如来……」と続いているのが分かる。

結果はにじみやかすれが目立った印刷になってしまったが、うまく印刷できている箇所もある。全面がきれいに印刷できなかった原因は、アクリル板を広い面積でレーザー彫刻すると彫刻時に発生する熱によって板自体が反ってしまうからだ。この反りを解消するには、文字をまとめて彫刻せずに付属の活字のように1文字ずつのピースにすることがもっとも確実だ。しかし、せっかくレーザーでまとめて彫刻できるのに1文字ずつバラバラにし、文字組みをするのは手間がかかる。レーザーカッターの設定で、彫刻のDPI(彫刻の密度)を下げると反りづらくなるが、粗くなってしまい印刷の品質が下がってしまう。レーザー彫刻版を作成する際はこのあたりに注意して加工するとよりきれいな版ができるだろう。

活字の3Dデータを作って印刷してみる

3Dプリントした活字。左の活字に見える細い棒はすぐに折れてしまう。 3Dプリントした活字。左の活字に見える細い棒はすぐに折れてしまう。

前述のとおり寸法が分かったので、今度はAutodesk Fusion360で活字の3Dデータを作成する。3Dプリントは出力方向に対して上に向いている面が比較的きれいに造形できるので、活字のデータも文字面を上にして出力する。出力に使用した3Dプリンターはボンサイラボの「BS CUBE」だ。また、付属の活字には直径にして約1.4mmの、活字台の穴に差し込むピンがあるのだが、3Dプリントの特性上細いピンはやはり折れやすい。そのため実際にはピンのないデータを作成/出力し、付属の活字台に両面テープで貼り付けることにした。

左:3Dプリント活字、右:付属の活字 左:3Dプリント活字、右:付属の活字

左に3Dプリントの活字、右に付属の活字を配置して印刷してみる。付属の活字はアルファベットとひらがなしかないが、参考のためにカタカナも3Dプリントで用意した。文字のサイズは縦方向を基準に約5mm(20Q)ほどで出力すると、3Dプリントのノズルで1本の線(約0.4mm幅)で出力される。ただし、文字によっては部分的に出力されないものもあるので、3Dプリンターのソフト側で出力プレビューをして確認する必要はあるだろう。

左:付属の活字で印刷したもの、右:3Dプリント活字で印刷したもの 「A」の左下、「ア」の左上などに小さな点が印刷されているのが分かる。 左:付属の活字で印刷したもの、右:3Dプリント活字で印刷したもの
「A」の左下、「ア」の左上などに小さな点が印刷されているのが分かる。

実際に3Dプリントした活字で印刷してみると、フォントサイズの違いはあるものの丸ゴシック体のような印刷になった。活字の元にしたフォントはFusion 360のCAD上で使うことの出来たHGPゴシックEであるが、これは3Dプリントのフィラメントの端が丸く処理されるためこのような見た目になっている。

また、文字によって元のデータにはない小さい点が印刷されているのはとても興味深い。この点は、3Dプリンターのノズルの動きによって発生しているようだ。ノズルは小さく動く際、押し出しているフィラメントを切るために一時停止する。その際にノズルからちょっとだけ出力される樹脂がこの活字に印された点となっている。まさにセリフ体の飾りが石を刻むときにできたように、3Dプリントされた活字は独特の装飾を生み出したと言っていいだろう。

写真を印刷してみる

通常のインクジェットやレーザープリンタでのカラー印刷は、CMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の4色を使って印刷されている。「小さな活版印刷機」を使った印刷でもCMYKそれぞれの色の版を用意すればカラー写真が印刷できるはずだ。まずAdobe Illustratorを使い、サンプル用に用意した猫の写真をCMYKに分解する。

上段左からシアン、マゼンタ、イエロー、下段左はブラック、下段中央がオリジナルの写真だ。色分解の方法はこちら。 上段左からシアン、マゼンタ、イエロー、下段左はブラック、下段中央がオリジナルの写真だ。色分解の方法はこちら。
1色印刷するごとに、インクの吸収紙やインクローラーのフェルトシールを交換しなければならない。 1色印刷するごとに、インクの吸収紙やインクローラーのフェルトシールを交換しなければならない。

レーザー彫刻は正信偈と同じだが、こんどは印刷可能な範囲よりひと回り小さく版を作成したため、位置合わせ用の枠もMDFをレーザーカットで用意した。印刷はブラック→シアン→マゼンタ→イエローの順で行った。こちらも正信偈の版同様に版の反りによって印刷のかすれなどが発生してしまったため、予備も含めて20枚×4色の合計80回印刷をして、よりきれいに印刷できたものを選抜した。

最初に印刷した画像。これはこれでちょっとアートっぽい。 最初に印刷した画像。これはこれでちょっとアートっぽい。

印刷結果はごらんの通り……。単純にCMYK分解した画像のグラデーションでは、ほぼ2階調化した各色の印刷にしかならず、またインクのアクリル絵の具が不透明のため、色が重なった部分はどうしても濃い色が勝ち、きれいに印刷できなかった。そこで、画像をハーフトーン化することにした。ハーフトーンとは、印刷された写真を拡大したときに見えるドットで表現された画像のことで、この画像をCMYKの色ごとにAdobe Photoshopで作成した。

Adobe Photoshopでハーフトーン化した画像。よく見るとCMYKのドットで写真が表現されている。 Adobe Photoshopでハーフトーン化した画像。よく見るとCMYKのドットで写真が表現されている。
ハーフトーンの版での印刷。かなり引いてみればそれっぽく見えるような気もする。 ハーフトーンの版での印刷。かなり引いてみればそれっぽく見えるような気もする。

ハーフトーンの印刷結果も思ったほどきれいにできなかった。最初の印刷と比べて印刷自体のムラは少なくなった。しかし、レーザー刻印で再現できるハーフトーンのドットのサイズはこれ以上小さくすることができず、結果として印刷の解像度が低くなってしまった。小さな活版印刷機で印刷できるサイズにも限りがあるため、写真の印刷はかなり厳しい結果となった。

作ってみよう

最後に、自分でも版を作ってみたいという人のために、レーザーカッター用のデータと3Dプリンター用のデータをそれぞれ用意した。レーザーカッター用のデータは活字の枠と活字台のデータの2種類が入ったPDFファイルだ。見やすいように線幅等を太くしてあるので、適宜レーザーカッターに合わせてデータを編集して使ってほしい。また、3Dプリンター用のデータも活字本体と活字台のSTLファイルを用意した。付属の活字のピンを残したデータもあるが、通常は記事と同じく6mm厚のデータをそのまま3Dプリントすることをお勧めする。

右:3Dデータ 左:レーザーカッター用データ 右:3Dデータ 左:レーザーカッター用データ

 

取材協力:学研 大人の科学編集部

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