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町工場の巨大レーザカッターで作ったポータブルチェアの特許を申請して売るまでの話

自分が考えたものが商品化されるってめっちゃワクワクしますね。最近、縁あって大阪のものづくり企業のクラウドファンディングへの挑戦に、プロダクトデザイナーとして協力する機会に恵まれましたので、何を作るか考えるところから特許出願して売るまで、0からの製品作りについて紹介してみたいと思います。

弁理士さんから謎の集会に誘われる

こんにちは。YapFabの安岡裕介です。プロダクトデザインを志して2020年にアウトドア企業から独立し、毎日ものづくりをしています。思いついたモノをクラウドファンディングに出してみたり、fabcrossで「3Dプリンターと大判プリンターでオリジナルのテントをつくる」という記事を書かせていただいたりと、仕事としても遊びとしてもさらにものづくりを楽しんでおります。

私は仕事上、特許関連の各種手続きを担っていただく弁理士さんとお話をよくします。
ある日、その弁理士さんから「ちょっとある集会に参加してほしい」と誘われまして、あまり何も考えずホイホイとついて行ってみました。するとそこは、東大阪の看板工場。おっちゃん数人とおねえさんが待ち構えておりました。

「THE 町工場」の2階で集会は行われていた。 「THE 町工場」の2階で集会は行われていた。

あまり物怖じしない性格ですので、すぐに打ち解けていろいろ話を聞いてみますと、どうやらこういったお話だそうなのです。

おっちゃんA

「我々は東大阪の加工業4社と弁理士が新しいものづくりを目指して作った新会社や」

おっちゃんB

「いろんな加工・材料手配、なんでもできまっせ」

おっちゃんC

「なんか新製品パパッと作ってクラウドファンディング出してみよ思てますねん」

弁理士さん

「ということで安岡さん、なんか作ってくれません?」

安岡

「……??!? 」

おっちゃんたちの会社はMMITYという社名だそうで、東大阪のものづくりを支える工場を長年経営してきた社長さん方が、大手企業から受注するBtoBの事業からさらに前のめりに未来を見て「わがままに、面白いものづくりがしたい」という思いに駆られ、D2Cのものづくりをしたいと集まってできた会社だそうです。

めっちゃいいですよね。

で、社内で実際に製品を作ってみようとしたけれど、新製品を考えるなんていうことは、やっぱり難しい。「そんなん得意な人おらんの?」と弁理士さんが聞かれて思いついたのが私だそうです。

けっこう無茶苦茶な話ですよね?

でもまあ面白そうやし、やってみましょということになりました。

夢のような開発環境から、ものづくりの軸を決める

東大阪のものづくりって、世間ではどういったイメージなんでしょうね? 私は大阪の人間なので、そりゃすごいところという印象なのですが、平たく言えばその東大阪のさまざまな工場を使ったあらゆる加工・材料手配ができる環境にいきなり放り込まれました。

目が点になっていると、メンバーの1人から、特に活用したい設備があると言われました。

それがレザック製「MASTER LASER 1000」という2200×1900mmの加工範囲と1000Wの出力を誇る工業用レーザーカッターです。

「MASTER LASER 1000」別注品とのこと 「MASTER LASER 1000」別注品とのこと

本業で稼働する時間が他の機材と比べて余裕があるので、このレーザーカッターを使った製品だと嬉しいとのこと。

持て余すほどの加工手段と材料を目の前にして立ち尽くしていたところに、こういった「お題」は大変ありがたく、その他いろいろ聞き取りをしてみました。

おっちゃんA

アウトドアで使えるもんとかどう?」

おっちゃんB

「とにかく大型レーザーカッターをつこうた製品がええな−」

おっちゃんC

「初めてやし、はよ出してみたいわー

弁理士さん

「安岡さん、特許申請できるようなアイデア組み込めません?」

安岡

「(……きっつ)」

好き勝手できる環境をいただけましたので、好き勝手言っていただきました。
期待に応えたいですね……!

STEP1 製品提案 椅子作ろう!椅子!

じゃあ椅子作りましょうよ。ということにその場で決めました。
前からやってみたかったんです。持ち運べるプレートタイプの椅子!

以前から市場調査を進めていたのですが、携帯用の椅子というのはさまざまな種類があり、

  • 金属フレームと生地を組み合わせた椅子
  • 木製フレームと生地を組み合わせた椅子
  • 合板などプレートを組み合わせた椅子

など、素材と機構でさまざまなシーンに特化した椅子が作られています。
私が気になっていたのがプレートタイプの椅子です。国内外のメーカーからいろいろなプレートタイプの椅子が出ているのですが、ザックに入らないのと、なんか使いづらいと感じるデザインが多かったのです。

ザックに収納できて、他の荷物のスペースを邪魔しない+αの何かがある椅子が欲しい。
ということで、私が提案したのは以下の通りの仕様の椅子です。

  • レーザーで切って作るプレートタイプの椅子
  • 軽くてできればザックに入る椅子
  • 組み立てやすく、組み立てた後も持ち運びやすい椅子
  • 組み立て方法か収納方法か何かに特許申請できそうな機構考えますよ

プレートタイプの椅子には合板やプラスチックプレート、MDF(中質繊維板)などがよく使われていますが、厚さ9mmの合板とMDFが工場にあったので、とりあえず厚さ9mmのプレートを切って作るタイプの椅子を考えることに。「まずは条件確認用のデータを来週持ってきまーす」といって解散しました。

STEP2 条件確認 手札をじっとよく見る

ということで、条件確認をしないといけないと思い、めちゃくちゃよくある感じの組み立て式椅子のデータを作りました。

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このMMITYさんとのミーティングは毎週やっているそうなので、お話を聞いて5日後にデータを送ったところ、次のミーティングの時には試作第1号ができ上がっていました。

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よくある感じの組み立て型の椅子ですね。ここで確認したかったのが、

  • 厚さ9mmの素材の強度はどんな感じ?
  • データ上の寸法とカット後実測寸法の差(レーザーの幅)
  • レーザーカット跡の炭化具合
  • プレートタイプの椅子の問題点

こんな感じですね。気になっていたのがレーザーの幅です。何か組み木のような機構を取り入れて椅子を形作ろうとしているので、できるだけガタのない製品に仕上げるためには、データ時点でレーザー幅を考慮したサイズに修正しなければいけません。カット箇所をいくつか計測してみると、現在の条件でのレーザー幅は0.4mmということが判明しました。

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意外だったのがMDFをカットした跡に炭残りがなかったということです。一般に、各種合板をレーザーカットすると炭が残り周りを汚してしまうため、処理が面倒なのです。でも、採用したMDFは高出力のレーザーカットを行っても、そのまま使えるレベルの仕上がりになっていました。その後、別種のMDFを使ったりや家庭用レーザーカッターでカットしてみると炭残りがあったので、素材と機材の良い組み合わせができたと感じました。

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検証用椅子は梁・両サイド・座面・背面の5パーツで作ってみましたが、各種合板・MDFでも結構な重量を支えることができそうです。

しかしですね、座ってみたのですがかなり窮屈です。ザックに入るサイズということであまり大きなサイズの板は使えません。区分としてはローチェア・焚き火チェアと呼ばれるサイズを狙っていきたいのですが……。

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これ!この側面のプレート邪魔ですね!ここがなければ同じ座面サイズでも腰と太ももが解放されて広々と使えるのに!

photo

あと、腰を前に動かすと座面が動いてしまいます。いけませんね。
ということで以下の条件を追加したデザインをすることにしました。

  • 9mmのMDFで作ってみましょう
  • 収納時の厚みをできるだけ薄くしたい
  • 側面のプレートが座面・背面を邪魔しない設計にしよう
  • 座ってからはどんなに動いても構造が崩れないようにしないといけない!

条件が増えるとどんどん難しく、面白くなってきました。

STEP3 試作とコンセプトの明確化、そしてネーミング

次のミーティングでは、試作品を持参しました。お世話になっている、ものづくりができるコワーキングスペース「THE DECK」のレーザーカッターを使って本番の約半分の厚さ5.5mmのMDFをカットしてミニチュア版の椅子を作ってみました。ちょっと思いついた機構を、MMITYのメンバーにお見せする前にいち早く試してみたかったのです。

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ちっちゃい!ミニチュアモデルですが、大人でも座れる強度あります。
しかも〜!

photo

収納時にはプレート3枚分に収まる!いいんじゃないですか? 早く本番の厚みで切ってみたいですね。しかし、やはりホームセンターで売っているMDFと小型レーザーでは切断に時間がかかって炭残りや焦げ跡がでてしまっています。

イケソウ!ということでMMITYのメンバーに試作品をお見せしたところ、

おっちゃんA おっちゃんB おっちゃんC 弁理士さん

「やるやん」

というお褒めの言葉と、この方向で進めようという了承をいただけました。

しかし、この時点でまだ決まっていなかったのが、最終的なサイズです。ザックに入るサイズって一体どの程度なんだ?とさまざまなザックの収納サイズを見ていたのですが、明確な基準がないなあと悩んでいると、MMITYのメンバーが、THE DECK で試作したミニチュアサイズの椅子を見て呟きました。

おっちゃんA

「もうちょっと大きくしたらA4サイズやね」

安岡

「……」

安岡

「A4サイズ!?!!」

閃きました。ミニチュア版はほぼA4サイズ、本番試作品はほぼA3サイズだったのです。もしかすると、A3とかB5とかいう紙の規格、つまりペーパーサイズに合わせた収納サイズの椅子を作ることができれば、A3ファイルを収納するザックやビジネスバッグ、A4サイズであればPCケースや本棚などに収納しやすい椅子になるのではないでしょうか。

試作を経て、コンセプトがさらに明確になってきました。

・ちょっとしたアウトドアやインドアで使えるプレートチェア

・収納サイズを紙のサイズの規格に合わせることで、生活に寄り添うチェア

・ペーパーサイズチェア!

ペーパーサイズチェアでいきましょう。えーよんチェアえーやんチェアなどヤバい案も出ましたが、ヤバいと感じたのでペーパーサイズチェアで行こうと押し切りました。

STEP4 仕様完成と特許出願

それからああでもないこうでもないと何度も試作を繰り返し、ついに仕様が完成しました。

大型レーザーによって高出力で厚板を切っていく。 大型レーザーによって高出力で厚板を切っていく。
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こんなにきれいに切れました。

では、どういった機構かご覧ください。

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・スライドと回転機構を組み合わせた組み立て方法で完成時の構造を安定化する。

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・サイドのプレートが座面・背面を邪魔しないのでいろんな姿勢で楽に座ることができる。

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・全てのパーツをパズルのように組み合わせてプレート3枚分の厚みに収納する。

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なんかちゃんとなりましたね。個人的には面白い機構の椅子になったと思います。
で、ここで弁理士さんの出番になってきます。

IPUSE特許事務所  代表 山本英彦 弁理士 IPUSE特許事務所 代表 山本英彦 弁理士

最初に預かった要望の中で、

弁理士さん

「安岡さん、特許申請できるようなアイデア組み込めません?」

と言っていたのがこの人ですが、私がものづくりしていく様子を舌なめずりして見守っていた弁理士さんは、

  • スライドと回転機構を組み合わせた組み立て方法で完成時の構造を安定化する。
  • 全てのパーツをパズルのように組み合わせてプレート3枚分の厚みに収納する。

というアイデアにイケル!と感じたようです。

私が構造のデータとアイデアの詳細を提出しましたら、あっというまに特許出願書類に仕上げました。

私も出願書類を作っていただいたことがあるのですが、この特許出願書類ていうの。

私には書き上げるのに20年かかりますね。出願書類ちょっと見てみます?

ド素人には理解不明な説明文 ド素人には理解不明な説明文
パーツの工夫した箇所すべてに振られる禍々しいオーラのような矢印と謎の番号 パーツの工夫した箇所すべてに振られる禍々しいオーラのような矢印と謎の番号
特許書類っぽいなぁ! 特許書類っぽいなぁ!

という感じなんですよね。弁理士さんの頭の中はどうなっているのでしょうか。
しかしながら特許申請というのはとても重要です。こういったシンプルなアイデアであっても、それを形にするためにはとんでもない時間とコストがかかります。そういった0から1を作る努力をした個人・企業の権利を確保するためのとても重要なシステムなんです。

あと、個人的に感動したのが、超絶難読文章なのですが24時間かけて読み込むと、自分が工夫した点が全て反映されていたことです 。特に2つの形状を持つこのプロダクトについて、凹凸やホールが両方の形状で生かされるようにした点があまりにも正確に記載されていました。弁理士さんからも「めちゃいいですわこれ。書類書きがいありました」と言っていただいたのが何とも言えぬ喜びでした。

特許が承認されるかどうかは未定ですが、楽しみです。

STEP5 ブラッシュアップと耐久試験

ここまできたら、あとはブラッシュアップの連続です。より強度を高く、より軽量に、より使いやすくするためにいろいろ考えてさらに試作を繰り返します。工場長さんのご厚意で、大型レーザーカッターのメーカーの方をお呼びいただいて、使用方法を叩き込んでいただいたので、ちょっとした案や変更もすぐに試すことができるようになりました。

さらに製品の価値を上げるためのUV塗装なども同じ工場でできることが分かり、カラーバリエーションを増やすことができました。

ここで冷静になって、椅子としての耐久性があるかを調べるため、試験機関にテストを依頼しました。

依頼したのは3点!

A3サイズのチェア 板厚9mm 2250g
A3サイズのチェア 板厚5.5mm 1485g
A4サイズのチェア 板厚5.5mm 722g

せっかく試験機関に出すので、さらに薄い板厚のものも作ってみました。
あと、A4サイズのものは、THE DECKで作った椅子が思いのほかアウトドアや子ども用によかったのでラインアップしてみることにしました。

結果は全て合格! 椅子の標準安全基準である静荷重1300Nの耐荷重試験をクリアしました。

A3サイズ5.5mmのものも試験をクリアしましたが、よりシンプルなラインアップにすべく今回は見送ることにしました。

完成! もうすぐクラウドファンディングに出展されます

photo

面白いものづくりに参加することができました。ザックやビジネスバッグ、本棚などへスムーズに収納できるローチェアです。収納性が良いので、大量に段ボールケースにしまっておいて、被災時などに活用できるかもしれませんね。

ここまででプロダクトデザイナーとしてのお仕事は一段落です。あとはMMITYのメンバーの方にお任せして、オプション品の設定や価格設定をし、クラウドファンディングに挑戦することになりそうです。売れたらいいですねぇ。

7月に初めてMMITYの皆さんと出会い、その後ほぼ毎週ミーティングと試作を繰り返して12月に完成。結構早いんじゃないですかね?

ミーティングには広報担当の大学生も参加して、さまざまな年代・視点から製品についての問題点やアイデアを侃々諤々して、その場で試作して検証するという開発環境はとても心地よいものでした。こういう仕組みのものづくりがもっとできたらいいですね。

クラウドファンディングの面白いところは、製品をお届けするまでにいくらでもブラッシュアップできるところです。良いものが届けられるよう、プロダクトデザイナーとして最後まで関わって行けたらと思います。ペーパーサイズというテーマでまた新しいものを作ってみたいとも思っています。

以上!もしご興味を持っていただけましたら、2021年12月23日(木)18時より「Makuake」でクラウドファンディングが始まりますので、ぜひページをのぞいてみてください。

ありがとうございました。

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