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モデルだけど溶接も極めたい!町工場で板金・溶接の奥深い世界を体験してみた

3.TIG溶接でパーツを接合

溶接とは金属を加熱して溶融金属をつくり、それが凝固することで接合する加工。大きな音と派手な火花をちらした光景などが目に浮かぶと思うが、今回行うのはTIG(ティグ)溶接という、タングステン電極を使って接合する方法。さほど見た目の派手さはなく、はんだ付けをしているようにも見える。

トーチというペンのような機械を接合したい位置にあて、スイッチを押すと先端のタングステン電極からアークが発生し、鉄を液状に溶かす。直線でなぞることにより、液状になった部分が固まり接合されるというしくみだ。

大切なのは角度とスピード、鉄板との距離感で、しくじると穴があいたり、液状になった部分がダマになったりする。溶接は初めてという梨衣名さん、まずは端材で何度も練習し、感覚をおぼえる。

タングステンの光から目を保護するためのシールドをつけていても、トーチの先端と鉄板は見えるらしい。感触がつかめたら、いよいよ本番。

まずは胴体の接合へ。

1辺の半分まで接合完了。
穴も開かず、ダマにもならずきれいに接合された。一度トーチを作動させたら躊躇なく運ぶのが大切なのだそうだ。

梨衣名さん、どうやら初心者とは思えないほどの筋の良さだとほめられる。

胴体部分の接合が終わったら次は屋根。1辺がズレるときれいな角錐にならないのでさらに慎重を要する。

液状となった鉄が動くようすが気にいったらしい。 液状となった鉄が動くようすが気にいったらしい。
もはやモデルというより職人の眼力。 もはやモデルというより職人の眼力。

苦節2時間、胴体・ふた、計4辺の溶接を経て無事接合。

自ら溶接した接合部に感無量。 自ら溶接した接合部に感無量。

溶接の場合、やり直しがきかないこともあり、初めての挑戦はためらったり、とまどったりする人も多いという。だが、梨衣名さんは慎重でありつつも、度胸のよさで数回の練習で本番へ臨んだ。そしてカンのよさかセンスなのか、TIG溶接の特性をすぐに感じとり、美しい接合を叶えたのだった。

最後に塗装を施して完成。 最後に塗装を施して完成。

スタートしてから約7時間、一枚の鉄板から素敵なランタンができあがった。
途中一度の休憩のみで奮闘した梨衣名さん、渾身の作品である。DIYとかってレベルじゃなく、本気モードの金属加工で作った一生モノだ。

これもひとえに西川精機製作所のみなさんのご協力があってこその実現といえよう。
社名ロゴの上にある「下町ものづくりコンシェルジュ」の文字が示すとおり、同社は町工場としての業務のほか、大学生などと交流し、設備を提供したりアイデア交流を行ったり、子ども向けのワークショップを開催したりしながら、ものづくりの魅力や可能性を発信し続けている。事務所には試作品やコンクールへ出品した遊び心いっぱいの製品が並ぶ。

「ものづくりは言葉で表現するのではなく、モノで表現するもの」

という社長の西川さんの言葉に続くように、社員のみなさんも真剣に磨いた技術を通し、ものづくりの楽しさやおもしろさを伝えてくださった。
そんなみなさんの心意気と、梨衣名さんのチャレンジ精神が融合した今回のプロジェクト、大成功といっていいよね。

西川精機製作所のみなさんと。西川社長があいた時間に「fabcross」プレートを作ってくださいました! 西川精機製作所のみなさんと。西川社長があいた時間に「fabcross」プレートを作ってくださいました!

その場で生まれる機転やアイデアがものづくりの醍醐味

長丁場を終えた梨衣名さんに一日の感想を聞いてみた。

──今日一番印象に残っているのは?

「溶接です! 初めてだったので。男らしいモノっていうイメージだったんですけど、やってみるととても繊細な作業で……ハマりました(笑)。
(シールドのついた)帽子をかぶると真っ暗になるんです。トーチから出る黄緑の光と接合する部分だけが浮かび上がってくる感じになるんです。鉄が溶けて、なだれのように隙き間が埋まっていくようすが幻想的で、しかも集中しているので周りの音も耳に入らず、異空間にいるような気分になりました。そして帽子をとると、溶接を終えてふわっと熱を蓄えている金属がしっかり見えて。初めての感覚です」

──溶接をおぼえて、ものづくりの可能性がまた広がりそうですね

「すごく広がります! アイアン家具なんかもいいですよね。いろんな金属を組み合わせて、ちょっとロココなイメージのシェルフなんかも作りたい」

──ほかの作業は経験がありましたか?

「レーザーカッターはあります。でも自分でスイッチを押したのは初めてです。プレス機もよく使うのですが足で調整するタイプは初めてでした。足で操作しつつ、両手で水平を保つって大変だと思ったんですが、すぐに慣れました。ステップが思ったより軽くてパンケーキみたいな(?)感触。曲がっていくのが楽しくて、『もっと曲げたい!』『もうないの?』って思いました(笑)。社員の方も褒めてくれたので……あ、でもお世辞かな?」

──プレスに限らず、すべてにおいて「筋がいい」ってみなさんおっしゃっていましたよ。多分本当だと思います。

「うれしい! 全部自分でやらせてくれたのでとても楽しかったんです。常々、もしモデルをやっていなかったら工場で働いていたんだろうなと思っていたのですが、今日確信しました」

──西川精機製作所の印象は?

「みなさん、親切でとても気さくで楽しかったです。あたたかい雰囲気。
特に印象に残ったのは、なにか問題が起きたときにみんなでアイデアを出し合って解決する雰囲気です。小さなことでも『これをこうしたら?』とか『あ、あれを使おうか』とか。マニュアルどおりじゃなくて、その場で生まれるみなさんの機転やアイデアを大切にしている感じ。こういう現場の感覚みたいなのって、ものづくりにおいていちばん大切だと思うんです。だから、素敵な会社だなと思いました。溶接を極めたいし……バイトさせてもらおうかな

という梨衣名さん。ものづくりゴコロをめいっぱい満足させたようです。
(ちなみにバイト交渉がどうなったかは不明)

胴体は歯車、屋根には星の窓が開いた鉄製のランタン。 胴体は歯車、屋根には星の窓が開いた鉄製のランタン。

 

取材協力:西川精機製作所 http://www.nishikawa-seiki.co.jp/

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