新しいものづくりがわかるメディア

RSS


学生フォーミュラの魅力について聞いてみた

早いだけじゃ勝てないカーレース——知恵と技術と人で競う学生フォーミュラとは

今回お話を伺った、名古屋工業大学フォーミュラプロジェクトの富田崇史さん、松山大地さん、澤田昂明さん(左から)。 今回お話を伺った、名古屋工業大学フォーミュラプロジェクトの富田崇史さん、松山大地さん、澤田昂明さん(左から)。

——審査項目が多くて、一般的な競技とは違った大変さがあると思いますが。

松山さん「車両の性能だけでなく加工性や生産性であったり、設計やコスト面も審査対象なので、よくあるレースとは違う部分は多いですね。例えばコスト審査は捨てて、他の審査でポイントを稼ぐという作戦で、車両のフレームを高価なカーボン素材で作って軽量化しているチームもあります。僕たちは予算ぎりぎりでやっているので、フレームは鉄を溶接して作っているし、全体的にスコアを高く積み上げて上位にいこうという戦略でやっています」

鉄を溶接して作ったフレーム。全てが手作りだ。 鉄を溶接して作ったフレーム。全てが手作りだ。

富田さん「チームによっては『あまり予算を考えたことがない』と言っているところもあって、余裕あるんだなって(笑)」

松山さん「でも、そういうところに少ない予算で勝つというのが面白いところで、お金をかければいいってもんじゃないぞって思いながら、車を開発しています」

——一番難しい審査項目は何ですか?

松山さん「エンデュランスという20km耐久走行が一番緊張します。1000点満点中300点配分されていて、さらにエンデュランスでどれだけ燃費を使ったかという審査に100点配分されているので、ここで完走できるかが結構重要なんです」

——半分近くの点数が割り当てられているんですね

富田さん「ここ数年で完走するチームは増えていますが、まだ完走できないチームも多いです。ドライバーは4人体制が基本ですが責任が大きいので、必ずしもみんながやりたがるポジションではないですね」

コスト審査で使用するレポート一式。900ページにも及ぶ内容で、こういったドキュメントもチームで全て製作する。 コスト審査で使用するレポート一式。900ページにも及ぶ内容で、こういったドキュメントもチームで全て製作する。

——難易度が高い種目もある中で上位に食い込むコツって何ですか?

富田さん「エンデュランスで完走することも当然ですが、設計や開発も含めて、どれだけ深く考えて取り組めるかが大事だと思います。考える事自体にはお金はかかりませんから」

松山さん「あと、年間のスケジュールをきちんとこなせるかも大事で、僕たちの場合は4月には車両を完成させるという予定を組んでいますが、これが1カ月2カ月と遅れると、何かあった時に取り戻すのが大変なんです」

富田さん「今プロジェクトリーダーをやっていますが、メンバーのモチベーションを維持しながら一丸となって取り組むようにマネジメントするのが、すごく大変だと感じています。メンバーによって動機もモチベーションも違う中で、どうやって全員が同じ歩幅で進めるようにできるか苦労しています」

——具体的にはどういう事をしていますか?

富田さん「以前は、スケジュールやタスクをしっかり管理してコントロールしようとしたんですが、『あれやれ、これやれ』という形では上手くいかなくて、今は自分の思いをきちんと一人一人に伝えて理解してもらい、『一緒にここを目指そう』というスタンスでメンバーに接する事を心がけています」

——授業とアルバイト以外の時間は、ほとんど車の開発に関わっているそうですが、そこまでして学生フォーミュラに参加する事の醍醐味って何ですか?

澤田さん「スマートフォンを計器に使うとか新しいことにチャレンジしていますが、自分が作りたい、こういう自動車が見たいという好奇心を形にできることですね」

松山さん「たくさんありますが、一つ挙げるとすれば全国を舞台に戦える事。高校生までは、なかなか日本全国の学校と勝負する機会ってないので、責任感もかなり強くなっていて、途中で辞めたくないなって気持ちがすごく強いです」

富田さん「楽しい事だけじゃなくて、つらい事もありますが、それも含めて楽しんでいる自分がいる気がします。本大会前にある試走会でよいタイムが出ると達成感がありますし、大会では他のチームよりも早く走っていることを常に想像しながら作業しています」

3Dプリンタメーカーのスポンサードで造形したパーツ。限られた予算で開発する上で、スポンサー探しも自分たちで行っている。 3Dプリンタメーカーのスポンサードで造形したパーツ。限られた予算で開発する上で、スポンサー探しも自分たちで行っている。

過去7位以上になったことがなかった中、昨年3位に入賞した事で、それまでは「無理だな」とあきらめていた気持ちに変化が生まれ、一生懸命取り組んでみたら自分にもできるんじゃないかという気持ちが芽生えたと、3人は異口同音に話してくれた。その一方で、どれだけ努力しても結果が出なければ評価されないことを経験し、過程に満足せずに結果にこだわらないといけないという意識が、高いモチベーションになっているそうだ。

学生フォーミュラは毎年9月に開催され、学生たちが全力で技術力をぶつけ合うレースに毎年1万人以上のギャラリーが声援を送る。昨年はオーストリアのグラーツ工科大に大差をつけられたが、今年もオーストリアから2大学が参戦するそうで、熱いレースになる事が予想される。若いエンジニアたちの活躍に期待しよう。

おすすめ記事

 

コメント

ニュース

編集部のおすすめ

連載・シリーズ

注目のキーワード

もっと見る