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台湾の最新スタートアップ事情を知る——日本との連携強化を図る林口新創園(スタートアップ・テラス)

(出典:林口新創園 https://www.startupterrace.tw/ )

タピオカミルクティーや豆花(トウファ)など、台湾で人気のスイーツは日本の日常に溶け込んでいるといってもいいほど身近になった。PC自作派なら、AcerやGIGABYTEなど台湾製マザーボードを使っている人も多いだろう。CES 2021でも台湾パビリオンが設置されており、多くの台湾発スタートアップが参加するなど活況を呈していた。今回世界有数のEMS(電子機器の受託製造サービス)大国としても知られる台湾におけるスタートアップ関連事業の最前線について、台湾最大のスタートアップ施設「林口新創園」のST Make+プロジェクトリーダーのSally Lin氏にお話を伺う機会を得た。

——よろしくお願いします。初めに林口新創園(Linkou Startup Terrace、以下スタートアップ・テラス)についてご紹介いただけますか?

Sally Lin氏:「スタートアップ・テラスは、台湾経済部(日本の経済産業省に相当)の所轄事業で、工業技術研究院(ITRI)が受託しています。私はITRIに属するSSTC(Service Systems Technology)で、主にアクセラレーター関連事業委託の責任者です。」

ITRI/SSTCのSally Lin氏。日本への留学経験があり、ITRIの日本事務所に派遣されていたこともある ITRI/SSTCのSally Lin氏。日本への留学経験があり、ITRIの日本事務所に派遣されていたこともある

Lin氏:「スタートアップ・テラスは、台北から車で30分ほどの新北市林口区に位置しています。この地区には2017年に台北で開催された第29回ユニバーシアード競技大会の選手村があり、その跡地を活用してスマートシティとする再開発プロジェクトが進んでいます。その中の3棟のビルを使い、スタートアップ向けのインキュベーション施設としてスタートし、今年で4年目になります。林口地区は台北から少し離れているので、住居費が安く若者でも住みやすいエリアです。」

170の企業が入居するスタートアップ・テラス

Lin氏:「スタートアップ・テラスには台湾の会社だけでなく、Microsoft、AMD、NVIDIA、Amazonなど、11カ国の大手IT関連企業がアクセラレーターとして参加しています。スタートアップ・テラスとして3つの建物を使用しており、2021年5月時点で、111のスタートアップ、22のアクセラレーターが入居しています。2棟に医療関係とIoT関係が入っており、2021年8月にはもう1棟をAI関連として入居募集を始める予定です。」

(出典:林口新創園) (出典:林口新創園)
(出典:林口新創園) (出典:林口新創園)

Lin氏:「台湾では、アジア最大規模の電子製品展示会「Computex Taipei(台北國際電腦展)」が毎年台北で開催されています。その中で、スタートアップに特化したイベント「InnoVEX(創新與新創展區)」が併設されています。スタートアップ・テラスへの入居には審査がありますが、InnoVEXでAwardを受賞したことをきっかけに入居するケースが多いですね。」

——スタートアップ・テラスに入居することのメリットは何でしょうか?

Lin氏:「スタートアップ・テラスに入居するスタートアップやアクセラレーターには、入居費用の減免などの補助があります。また、優秀なスタートアップに対して最高約3900万円相当(台湾元1000万)の事業補助金が与えられるなど、さまざまな優遇措置があります。入居資格を満たしているかの審査は3カ月ごとに行われていますが、本格的に稼働を開始してからほぼ1年でオフィス入居率は84%まで高まりました。また、海外のベンチャー企業向けに台湾政府が「起業家ビザ」を用意していますので、これを取得して台湾に来る人も多いです。スタートアップ・テラスで在留手続きから会社起業のための手続きなど、すべてワンストップでサポートできるようになっています。」

(出典:林口新創園) (出典:林口新創園)
スタートアップ・テラスの近くには、製品の試作、量産やテストを行える施設が多くある(出典:林口新創園) スタートアップ・テラスの近くには、製品の試作、量産やテストを行える施設が多くある(出典:林口新創園)

大規模商業施設や学校、病院などで製品・サービスの実証実験が可能

Lin氏:また、ST MAKE+(STメイクプラス:台湾創新製造聯盟)というプロジェクトを立ち上げています。台湾が強みとするEMSをコアとして、林口全体で製造やそれに伴うサービス、ソリューションを含めて支援ができる体制になっています。スタートアップ・テラスを中心とする半径5km以内のエリアには、三井アウトレットパークや病院、学校、運動場など、いろいろな施設があります。近くには大手EMSのクアンタ・コンピュータ(広達電脳)やデルタ電子(台達電子)もあります。大きなメリットは、このエリア内でベンチャー企業が新しい技術のフィールドテストやデモができることです。実際に三井アウトレットパークでも集客関係のIoTサービスの検証が行われていますが、施設側との調整などのサポートも提供しています。」

海外とも積極的に連携を進める

——海外のスタートアップやアクセラレーターの誘致はどのように行っていますか?

Lin氏:「スタートアップ・テラスとして、フィンランドのスタートアップイベント「スラッシュ」やアメリカの「サウスバイサウスウェスト(SXSW)」にも出展していますし、フランスのスタートアップ支援プロジェクト「La French Tech(フレンチテック)」とも提携するなど、海外でも広く活動しています。台湾で一番規模が大きいスタートアップ特区ということもあり、各国領事館が台湾に来たスタートアップを連れて見学に来ることもあります。」

「また、台湾は歴史的にアメリカのシリコンバレーと関係が深く、今でも活躍している台湾人ネットワークがあります。そのため、技術提携や投資パートナーなどもシリコンバレーで探すことが多く、シリコンバレーの台湾人を通してネットワークやリソースを獲得することができます。例えば日本からでも台湾を通してシリコンバレーとつながるルートができるのですが、そういうことはあまり知られていません。」

——シリコンバレーとのつながりが強いとのことですが、日本とはいかがでしょうか。

Lin氏:「日本とのつながりが一番強いのは、やはりEMSの部分、台湾が持っている製造のノウハウ、医療やヘルスケア方面での連携が中心です。特に最近の新型コロナウイルス感染症の影響で、台湾では防疫関連システムが多く開発されています。日本には高齢者の方も多いので、こうしたコロナ関連の医療機器やヘルスケア領域で、台湾の企業が日本での事業展開を考えたり、日本から医療関係のEMS案件を受託したりしています。」

「ただ、日本への進出に関して、一番のハードルは言葉の問題です。台湾のスタートアップにアンケートを取ると、行きたい国の1位は毎回日本です。でも英語があまり通じないので、行きたくてもハードルが高いと思っています。日本国内で英語をベースにした活動をもっと増やしてもらえれば、連携もより活発になるのではないでしょうか。」

——確かに海外のスタートアップイベントに英語で参加する人は多いですが、日本国内で英語を公用語にしているイベントは、あまり多くはありません。

日本のスタートアップ、エコシステムは英語によるコミュニケーションが課題

海外スタートアップとの交流には、英語は欠かせない。写真はSTmake+設立大会時、海外からの講演者による視察。 海外スタートアップとの交流には、英語は欠かせない。写真はSTmake+設立大会時、海外からの講演者による視察。

Lin氏:「台湾から見て、一番成功している公的な支援事例は、福岡と沖縄だと思います。自治体に英語ができるスタッフがいて、独自のアクセラレーションプログラムを持っています。福岡市は2017年に台北市とスタートアップの海外展開⽀援に関する覚書を締結し、積極的に台湾にアクセスしようという形を作っています。沖縄には中国語ができる人も多く、ベンチャー企業から『東京より沖縄のほうがやりやすい」と言われます。台湾のスタートアップが沖縄の観光アプリを作った事例もあります。」

「本当は、台湾のベンチャーは東京に行きたいんです(笑)。でも、東京はなかなか台湾にアプローチという感じではなくて。」

——日本と台湾の協業という点で、ひとつ成功事例を紹介していただけますか。

Lin氏:「日本のコーヒーメーカーのHARIOには、同社のIoT関連開発を担うHIROIAというジョイントベンチャーがあります。このHIROIAが初めてコーヒー関連のIoTプロダクトを開発する際、iPhoneの受託生産で知られていた台湾のウィンストロン(Winston)と提携し、低温抽出コーヒーメーカー「Ziggy」を開発しました。ウインストンのIoTデバイス技術を使い、通常24時間かかる低温抽出を5分で完了できるIoTコーヒーメーカーです。」

HIROIAの低温抽出コーヒーメーカー「Ziggy」 HIROIAの低温抽出コーヒーメーカー「Ziggy」(出典:Hiroia

——今後の日本との連携強化について、お考えをお聞かせください。

Lin氏:「今、台湾経済部に対して提案しているのですが、スタートアップ・テラスの中に台湾企業と日本のベンチャー企業を支援するため、台日の企業を集積させた「台日専区」を設けることを考えています。日本のアクセラレーターとも交流を進めており、将来的に日本のアクセラレーターを招聘し、支援するスタートアップと共に入居してもらいたいと考えています。こうした施策を進めることで、今以上に台湾と日本の連携を強めることができると思っています。」

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