頑固な歯垢を除去するマイクロロボットを開発——磁場で遠隔操作も可能
2019/05/23 11:30
ペンシルベニア大学のエンジニア、歯科医、生物学者からなる学際的研究チームが、外部磁場によって遠隔誘導され、歯垢やバイオフィルムを分解除去できるマイクロロボットを開発した。触媒機能と磁性の両方を有する酸化鉄ナノ粒子を用い、歯の表面だけでなく歯根間にある堅固で粘着質の歯垢やバイオフィルムを、正確かつ非侵襲的に分解し除去できる。研究成果は、2019年4月24日の『Science Robotics』誌に公開されている。
一般的に歯から歯垢を取り除くには、機械的に削り落す作業が必要だが、時間がかかり患者に不快感をもたらしている。近年では、歯垢はバクテリアが生成する粘液とともに作る膜状の集合体で、台所や風呂の排水管に生じるようなバイオフィルムの1種とされている。そのため歯垢を放置すると、バクテリア起因の虫歯や歯周病、歯内感染などを生じる。また堅固で粘着質な構造で、歯根管の間の峡部にもよく成長するため、薬剤に対する耐性が強く、機械的な除去にも甚大な労力を要している。
そこで研究チームは、既存の枠に捉われない方法でバイオフィルムを破壊する研究を推進。触媒作用を持つ酸化鉄を含んだナノ粒子を用いて、殺菌性フリーラジカル放出によってバクテリアを殺し、バイオフィルムを破壊することを試みた。酸化鉄は磁性を有し、外部磁場によって誘導することもできる。研究チームは、2種類のロボットシステムCAR(Catalytic Antimicrobial Robots)を設計した。1つは、酸化鉄を溶液中に懸濁し、磁石によって誘導して、歯表面上のバイオフィルムを掃くように除去。もう1つは、ナノ粒子を高分子とともに3D形状に成形したソフトロボットとして、管を詰まらせるバイオフィルムを破壊する。
2種類のCARとも効果的に、バクテリアを殺し、周囲のマトリックスを破壊し、残骸を除去できた。ガラス表面または閉鎖ガラス管に成長するバイオフィルムに対して試験した後、臨床試験にもっと近い応用として、人間の歯で届きにくい箇所からバイオフィルムを除去することにチャレンジした。その結果、歯根管の間の峡部からも、バクテリアを殺しバイオフィルムを破壊して除去することができた。「開発したロボットは、バイオフィルムを破壊し、内部のバクテリアを殺すだけでなく、分解生成物を物理的に除去できる。バイオフィルムの残骸を全く残さないことは、残った残骸が再成長する確率を著しく減少できる」と、歯学部のHyun Michel Koo氏は説明する。
このようなバイオフィルム除去のロボットシステムは、カテーテルや生活排水管など広範囲なアプリケーションに適用できる可能性がある。更に、薬剤耐性のあるバイオフィルムに直面する、他の生物医学分野にとっても重要であると、研究チームは考えている。
(fabcross for エンジニアより転載)