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SOLIDWORKS WORLD 2018レポート

超音速旅客機、歩行支援ロボット、都市交通ソリューション——SOLIDWORKSから生まれるスタートアッププロダクト

国内では製造業を中心に大きなシェアを持ち、教育関係機関やファブラボへの支援でも知られる3D CAD「SOLIDWORKS」の年次ユーザーイベント「SOLIDWORKS WORLD 2018(SWW2018)」(主催:米Dassault Systemes Solidworks)が2018年2月5日から7日まで、アメリカのロサンゼルスで開催された。 世界中からエンジニアを中心に5000人以上が参加するSWW2018は、小さくはツール使いこなしのTipsセミナーから、新しく追加された機能/サービスの紹介、パートナー企業製品/サービスも含めたソリューション紹介、SOLIDWORKS次バージョンのプレビューまで大量の情報が提供されるイベントだ。本記事では、それらの中から、fabcross読者に関連が深いハードウェアスタートアップの事例をお伝えする。

SOLIDWORKSを提供する米Dassault Systemes Solidworksの親会社である仏Dassault Systemesは、2015年11月にはオープンイノベーションを推進するラボとスタートアップやMakersを支援するアクセラレータープログラムからなる「3DEXPERIENCE Lab」を設立するなど、スタートアップを支援する取り組みを熱心に行ってきた。この2018年1月には、スタートアップ、アントレプレナー、Makerに対してイノベーションを生み出せるよう、各種のアプリケーションを無償提供したり、専門知識を持ったエキスパートやメンターが集まるコミュニティを通じてさまざまな形のサポートを行ったりする「グローバル・アントレプレナーシップ・プログラム」を発表している。SWW2018の基調講演や展示スペースではそうした支援を受けたスタートアップが紹介された。

東京-LAが5時間半! 超音速旅客機を作るスタートアップBOOM

2014年に設立された米Boom Technologyは、2020年代半ば以降の就航を目指し、商用超音速旅客機の開発に取り組んでいるスタートアップだ。2017年12月には日本航空とパートナーシップを結んだことを発表したので、その名前を聞いたことがあるかもしれない。同社の計画では、45~55のビジネスクラス座席を備え、最大マッハ2.2(現在の航空機の2.5倍)で飛ぶ。超音速飛行はソニックブームが発生するため、海上を飛ぶ航空路に限られるが例えば東京-サンフランシスコを従来の半分の5時間半、ニューヨーク-ロンドン間は3時間15分で結ぶ計画だ。料金は現在のビジネスクラス料金と同等という。

Boom Technologyは技術実証機「XB-1」を開発中だが、その機体全てをSOLIDWORKSで開発しているという。 Boom Technologyは技術実証機「XB-1」を開発中だが、その機体全てをSOLIDWORKSで開発しているという。

SOLIDWORKSプラットフォームが備えるPDF機能やシミュレーション機能、さらにAR/VRも活用している。同社はグローバル・アントレプレナーシップ・プログラムに参加しており、エンジニアリング部門の立ち上げに役立ったという。

基調講演に登場した同社の製造部門長であるマイケル・ヤーゲマン氏は、大企業でさえも敬遠してきた超音速旅客機になぜベンチャー企業で挑戦しようと思ったかと問われ「(唯一商業飛行に成功した)コンコルドは60年以上も前、1950年代に設計された機体。当時はコンピューターによる流体解析技術は存在しなかったし、現在はエンジン技術も相当に進化した。ベンチャー企業は既存製品との競合を考える必要はなく、(過去のしがらみなく)いろいろなツールを使えることも利点だ」と答えた。かつては考えられなかった規模の開発が、ツールや技術の進歩によって可能になり、それにスタートアップだからこそ進められるという事例だ。

歩行困難者の人生を変える歩行支援ロボット

韓国の西江(ソガン)大学のコン・キョンチョル准教授は、下半身不随で歩くことができない男性の歩行を支援するロボット「WalkON Suit」を開発、さらに病気や老齢などで歩行が難しくなってきた人の歩行を補助するロボット「ANGELEGS」の開発を、SOLIDWORKSを使って進めている。

西江(ソガン)大学のコン・キョンチョル准教授 西江(ソガン)大学のコン・キョンチョル准教授

WalkON Suitは完全に下肢が動かせない患者のためのロボットで、患者の身体に合わせた固定器具と組み合わせて利用する。最初の被験者は事故で下半身不随となり20年間全く歩行できなかったが、WalkON Suitを装着することによって車いすなしで移動できるようになった。この被験者はロボット義肢などを利用して障害者が競技をする国際スポーツ大会「サイバスロン」に参加して見事銅メダルを獲得した。

「WalkON Suit」下肢が動かせない人のために足を動かす。現在ARグラスを使ったUIや軽量化を図った新バージョンを開発中。 「WalkON Suit」下肢が動かせない人のために足を動かす。現在ARグラスを使ったUIや軽量化を図った新バージョンを開発中。

もう1つのANGELEGSは、下肢は動かせるが高齢や脳梗塞などの疾患で歩行が難しい人たち向けのロボット。ユーザーの足の動きに合わせて、ロボットの動きやパワーを制御する必要があり、制御はWalkON Suitよりも複雑という。他社の同様の補助ロボットでは筋電センサーなどを使っている。筋電センサーは足を動かそうという意図を検知することは容易だが、皮膚に装着しなくてはならず、最初にユーザーごとに調整が必要だ。ANGELEGSは筋電センサーを使わず、足の動きをメカニカルセンサー(エンコーダーや慣性測定ユニット)で検知し、必要な動きとトルクを計算して補助する仕組み。それでも動きの精度は非常に高く、補助が不要な時には全く抵抗にならず、必要なときにはしっかりと補助できるという。

「ANGELEGS」 「ANGELEGS」
「ANGELEGS」将来は脈拍センサーを取り付けてダイエットやエクササイズに使えるようにしたり、重労働の人たちの負荷軽減にも利用してもらうことを考えているという。 「ANGELEGS」将来は脈拍センサーを取り付けてダイエットやエクササイズに使えるようにしたり、重労働の人たちの負荷軽減にも利用してもらうことを考えているという。

コン准教授は「ロボットを使って、近い将来、身体の障害や老化を恐れる必要が無い世界にしたい」と話す。WalkON SuitとANGELEGSの商用化のために、2017年に大学発のベンチャー企業SG Roboticsを興した。設立に当たっては、グローバル・アントレプレナーシップ・プログラムの他、韓国政府による大学発ベンチャー支援プログラムや韓国科学技術院の支援を受けている。ムン・ジェイン大統領が打ち出した韓国政府の支援プログラムは、大学の教員が起業しようとしたとき、大学は支援しなければならないというもので、教員の業績評価対象として、論文の本数だけでなく起業した企業の状況も含まれる。一定期間は、学生を教えたり大学の業務をせずに済むのだという。日本も大学発ベンチャーがいくつか出てきているが、このような評価の仕組みがあれば、さらに活性化できるのではないだろうか。

作っているのは製品ではなく、都市部の課題解決ソリューション

URBAN626は、カリフォルニア州ロサンゼルス近郊パサディナで2015年に設立されたスタートアップ。コンパクトに折りたたんで持ち運べる電動スクーター「URB-E(アービー)」を開発し、販売している。電動の小型バイクや電動自転車なら珍しくない、と思う読者もいるかもしれない。筆者もそう考え、電動バイクはいろいろなところが作っているがなぜURB-Eを作ろうと思ったのかと質問したところ「我々は製品を作っているのではなく、都市部の課題を解決するソリューションを提供しているのだ」という答えが返ってきた。

URB-Eには2つの製品ラインがある。手前が高性能バージョンの「Pro」。奥が軽量で安価な「Sports」。 URB-Eには2つの製品ラインがある。手前が高性能バージョンの「Pro」。奥が軽量で安価な「Sports」。

彼らの考える課題とは、都市部での移動だ。米国は車社会だが、都市部を車で移動するのは短距離であっても混雑で時間がかかる上に駐車場を探す必要もあり、エネルギーコストも大きい。しかし、人間1人を2マイル運ぶのに1.4トンの車を使う必要はない、同じことを14kg(の電動スクーター)でやれば、エネルギーは車の1.5%しか使わずに済む、というわけだ。URB-Eは「小型軽量で簡単に折りたため、電車やバスに持ち込め、駅からオフィスまで乗ったら畳んで机の横に置いておける」というコンセプトで設計された。これは既存の電動バイクや自転車との差別化にもなっている。都市部の課題に対するソリューションを提供するという姿勢は、資金集めにもプラスに働いた。地元ロサンゼルスの投資家が、交通問題を解決するためにもう車は作れないという考えに共感して出資してくれたのだそうだ。

電動スクーターの製造ならば、中国かと思うかもしれないが、部品の調達も地元で行っている。ロサンゼルス近郊にある、BoeingやSpaceXに部品を供給しているベンダーから部品を調達し、自分たちで組み立てを行っているのだ。非常にレベルの高いベンダーから供給を受けることで、自身のイノベーションも加速できるという。また製造ラインはトヨタのリーン生産方式を導入しているのだそうだ。

URB-Eのフレームは多くの穴を開けて軽量化を追求している。SOLIDWORKSを使って応力がかかる部分だけを残し、不要な部分は取り除いた。エンジニアのエツェルバーガー氏はURBAN626入社前にポルシェの設計部門におり、URB-Eの設計にその経験が生きているという。 URB-Eのフレームは多くの穴を開けて軽量化を追求している。SOLIDWORKSを使って応力がかかる部分だけを残し、不要な部分は取り除いた。エンジニアのエツェルバーガー氏はURBAN626入社前にポルシェの設計部門におり、URB-Eの設計にその経験が生きているという。

URB-Eはこれまでに5000台以上を39カ国に販売しているが、代理店販売はやっておらず、全て直販だ。これは、設計したものを直接消費者に届けることで、顧客からのフィードバックをダイレクトに受けることができ、それが競争優位につながると考えているからだという。顧客からの声は、Facebook、Instagram、Twitterなどのソーシャルメディアをフル活用しており「批判コメントがあってもそれを隠すようなことはせずしっかり耳を傾けたい、課題にフォーカスしている会社なので課題から目をそらしたくない」と話す。顧客自身がURB-Eをカスタマイズし、それを同社を通じて販売することもできる。それは「1社だけでよいアイデア全てを出すことは難しい。しかしユーザーと一緒ならそれが可能になる」という考えからだ。

URBAN626の製品ではなくソリューションにフォーカスするというポリシーや、生産や販売のスタイル、またソーシャルメディアを使った顧客とのコミュニケーションなど、日本でも多くのスタートアップの参考になる事例だろう。

※記事中で紹介したグローバル・アントレプレナーシップ・プログラムは、日本からも参加可能。

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