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特別レポート@大分

3Dプリンタで「1000人が必要なもの」をつくる大分芸短のデジタルファブ講義

最終日のプレゼンテーションの舞台はファブラボ大分

講義最終日は大学を出て、大分の市街地にある「ファブラボ大分」でプロダクトの発表会が開かれた。6人の生徒はダヴィンチで出力したプロトタイプとグラフィックイメージを使って地元自治体やファブラボ大分の関係者に5日間の成果を発表した。

今回の参加者で唯一の男子、尾崎勝也さんは携帯用の靴べら「NAVY GLEAM」を制作。ケース部分に手鏡があり、靴を履く動作をスマートにみせるデザインにこだわったという。携帯靴べらを鞄に常備している筆者も欲しいと思った一品。

大谷尚子さんは一人になれる、静かで暗い場所であるトイレでの使用を想定したランプシェード「NAGOMI」を制作。3Dプリンタであえて粗く出力することで、内側からの光の漏れを効果的に表現していた。モデリングデータ上で球体を3つに分割して45度以上の傾斜を無くすことでサポート材がなくても出力できるように工夫した。3Dプリンタの特性を生かした作品だ。

内田美沙紀さんはパズルにもなるコースター「茶托組」を制作。初めて会う人同士でも自然と会話が生まれるような利用シーンをイメージして企画された。実際の製品ではウォルナットを使うことを想定しているという。

小林初実さんはティーポットの中にスタッキングして収納できるカップ「with」を制作。3Dプリンタで出力したプロトタイプのモックアップも見せながらスタッキング可能なコップができるまでのデザインの過程も説明していた。

徳原佳乃子さんは母校のジオラマ「Tokko diorama」を制作。楽しかった高校生活を思い出すためのプロダクトで、徳原さんがいた高校は1クラス当たりの学生も多くOBも多いため、1000人が欲しいと思うプロダクトという今回の企画にマッチしたという。

瀧本花梨さんはタイツやシャツをカスタマイズできるステンシル「Wishes Charm」を制作。実際に衣服用の絵の具を使ってタイツに転写したものを履いてプレゼンテーションし、XYZプリンティングの担当者も「想像していなかった3Dプリンタの使い方」と驚いていた。

発表会に参加した自治体の人の中には3Dプリンタを見たのは初めてという人もいた。制作コンセプトや利用シーンについて、さまざまな質問が学生に投げられた。 発表会に参加した自治体の人の中には3Dプリンタを見たのは初めてという人もいた。制作コンセプトや利用シーンについて、さまざまな質問が学生に投げられた。

「気兼ねなく壊せる」ものづくりへ

講義を終えた学生に感想を尋ねると、「今まで作ってきたものは学生の作品として制作してきたが、(この講義では)使っていて不具合が出ないような構造を突き詰めたり、どうやって売るかまで考えるなど普段とは違うゴールを目指して作る難しさがあった」といった意見や「普段はアイデアスケッチを大量に描いて、その中から良いものをピックアップするというスタイルだが、連想したキーワードをひたすら並べていくところからコンセプトを詰めていくという進め方は新鮮でもあり大変な作業だった」といった今までにない制作プロセスに刺激を受けつつも苦労したという。

一方で3Dプリンタの導入については試作品の制作時間が短縮でき、短い期間で何度も試作品を繰り返し出力できたことにメリットを感じる意見が多かった。いろいろな出力方法やデータを繰り返し試し、だめだったらすぐに別のやり方でトライすることで自分の発想を何度も壊しながら、短時間でも試作を重ねることができたことによって、これまで先生に依頼して使っていた3Dプリンタがより身近なものに感じられたという。

また、Web上に作品を公開しCtoC(Consumer to Consumer)でどのようにしてプロダクトを売っていくかといったメイカーズ的なものづくりの流れを学んだことも大きな収穫だったようだった。

大分に来る前に神田さんに今回の講義の後に学生たちに期待しているものを聞いたとき、彼女はこんな事を話してくれた。「デジタルネイティブと呼ばれる世代の学生たちが、社会に出る前にこういった授業を経験することでファブネイティブとして巣立ち、地元企業を巻き込みながら、新しいものづくりを大分から発信してほしいですね」

ファブラボ大分が生まれて女性や子供がものづくりを目的に集まるようになり、3Dプリンタメーカーを使った特別講義を学生が体験するといったできごとを通じて、大分ではデジタルファブリケーションが静かにかつ着実に広がりを見せている。また他の地方でもデジタルファブリケーションを軸にさまざまな場や機会を作ろうとしている人たちが数多くいるのも事実だ。

地域にあった形で新しい技術を使って自分らしいものづくりができる文化が広まることが、日本の地方におけるメイカーズムーブメントの一つの回答なのかもしれない。 

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