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アフターコロナに向かう深センの現在と製造業・スタートアップの今後

新型コロナウイルスが世界中に広がり、社会に大きな影響を及ぼし始めた2020年2月ごろの中国・深センの様子を以前に掲載しました。

あれから半年近く経過した今も、世界各国の状況は混沌としています。製造業も未だ明るい兆しは見えない中で、中国はどのような状況なのでしょうか。前回に引き続き、荒木大地さんが深センのその後をレポートします(編集部)

世界でいち早く新型コロナウイルスの感染が広がった中国は、国家主導のトップダウンで抑え込みを図ったが、その方法は日本のそれとは随分違った。2020年2月、私は新型コロナとの戦い真っただ中の深セン市の様子、そして製造業やスタートアップ、IT企業に与えた影響について取材を行った。

日本では新型コロナウイルスの感染が広がってから「休業要請」「自粛要請」「お願い」といった強制力の伴わない要請を始めたのに対して、中国は早々に完全なる強制休業を実施した。深センの企業は操業を再開するための許可を申請しなければならなかったのに加え、ロックダウンの影響で春節の帰省先から従業員が工場に戻ってくることができず、製造業は大きな影響を受けた。

あれから4カ月が経過した2020年6月、深センのIT企業、製造業、スタートアップはどうなったのだろうか。再度取材を行った。

2020年3月以降、人々は深センに戻り始め街は徐々に規制を解除した。3月末の時点で深セン市内にある飲食店のおよそ9割は店内飲食を再開。ちなみに中国で一番多くの感染者を出した武漢も4月8日に“解封”となり、現在は通常の生活に戻っている。

深センの有名テーマパーク「世界の窓」も賑わいを取り戻している。(2020年7月19日撮影) 深センの有名テーマパーク「世界の窓」も賑わいを取り戻している。(2020年7月19日撮影)

世界的なマスク需要の高まりに呼応して、電気自動車大手のBYDを始め大小さまざまな会社が2月の時点からマスク・手袋などの製造に切り替えたが、各国への輸出前に中国側の検品強化が始まったため、大量の貨物が空港周辺に滞留してしまい物流は麻痺。いつまでたっても品物が日本に届かないという事態が各地で発生していた。

外国人の渡航制限も開始。広東省は3月13日に、日本を含む海外からの入国者検疫強化を実施、その後中国政府は3月28日、ほぼ全ての外国人の入国を停止した。国際線の運航にも大幅な制限を課したため、日本に帰省していた中国在住者は中国に戻ることができなくなってしまった。

筆者もその1人である。筆者は3月中旬に行われる予定だった友人の結婚式に参加するため3月3日に香港経由で羽田に帰国したが、日本政府も3月9日に水際対策強化を開始、航空便を大幅に制限したため帰りの香港行きの航空券はキャンセルされ、今も日本で記事を書きながら中国の入国再開を待っている。(ちなみに日本で予定されていた友人の結婚式もコロナの影響でキャンセルとなり、何のために日本に帰ってきたのか分からなくなってしまったのである)

また、春節期間中に日本へ一時帰国した駐在員の中には、工場再開のタイミングで家族より一足先に中国に戻った直後に中国への外国人入国が停止され、現在も家族と離れて単身赴任の生活を送っている方も多いと聞く。

現地日本メディア「安住生活」が報じたところによれば、深センと同じ広東省の広州に滞在している日本人は、コロナ以前は8000人ほどいたが2020年7月現在では2000人強にまで減っているという。正確なデータはないが深センに残っている日本人の数も同程度なのではないかと思われる。

彼らは日本に戻ろうと思えば(14日間の隔離期間を経て)戻ることは可能である。しかし帰国すると次回いつ再入国できるかの見通しが立たないため、仕事を投げ出すわけにもいかず帰るに帰れないのである。これは現在日本に滞在している中国人にも同じことが言える。彼らも一刻も早く家族のもとに戻りたいと願っているが滞在延長を余儀なくされているのである。

前回の記事で取材した、深センに本社を置くソフトウェア企業Wondershareのマーケティング担当 黄理華さんも日本出張中に渡航制限がかかってしまった1人だ。2020年7月現在も東京に留まり、オンラインで深センの本社とやりとりを続けている。

黄さんに、現在の深センのオフィスの様子を伺うと、まず出社時の健康チェックについて、2~3月の時点ではオフィス内外で1日複数回の厳重な体温チェックが行われていたが、7月現在はオフィス内でのマスク着用は継続しているものの、深セン市開発のWeChat公式アカウント「i深圳」もしくは広東省開発のWeChatミニプログラム「粤康码」で管理されている健康コードを提示するだけで入館できるようになった。

消毒について、前回の記事ではオフィス内全体を毎朝/毎晩消毒液で噴射している写真を掲載したが、現在は週1回に減っているそうだ。とはいえ今まさに感染の広がっている日本の感染防止策と比べても現在の深センの方がはるかにきちんとしていると言わざるを得ない。中国では新規感染者の数が収まっている今でも第2波、第3波の警戒を怠らず、北京や他の場所での感染者数が増えれば即座に全国で警戒レベルを上げて対応するほど敏感になっているのだ。

打倒Adobeの目標を掲げるWondershareは、今季500人の社員採用を継続中でコロナ禍でも業績は好調。同社の動画編集ソフト「Filmora」は、日本でも自粛に伴って在宅者が増えたことにより、YouTubeに挑戦する人のツールとして売上がアップ。またマインドマップツールの「Edraw」やPDF編集ソフト「PDFelement」はリモートワークのためのツールとして採用する企業が増加している。

スマートフォンの世界シェアトップ5に入るVivo、Oppo、Xiaomi各社は最近立て続けに何億もの金額を投じて深センに本部を設立する計画を発表した。HuaweiやTencent、DJIなどのトップメーカーが集結するIT頭脳の集積地として深センは発展を続けている。アメリカとの関係は懸念事項ではあるが、中国においてもIT企業はコロナの影響をほとんど受けず、業績を伸ばしていることが分かる。

中国国内製造業は内需拡大、国外向けは縮小

製造業に関してはどうだろうか。Wondershareでは中国国内向けにスマートロックの開発や製造も行なっているが、スマートロックは意外にもコロナの影響で売上が上がったという。感染を恐れて人々は夜の外出を控え、自宅にいる時間が長くなったことで家のメンテナンスに目がいくようになったためだ。

Wondershareの中国国内向けスマートロック。指紋認証、顔認証、スマートフォン操作、パスコード、物理鍵で解錠可能。パスコードはのぞき見防止のため、前後を任意の数字で挟んで入力することができる。

中国の国内需要は拡大中である反面、海外向け事業、特にアメリカ向けの製品は縮小傾向にある。基本給与の低い工員は残業がないと収入が増えないため、残業がない現在は工員の離職が相次いでいるそうだ。

そして日系企業の中には、日本から駐在員が渡航できないことから、現地採用が進んでいる。今後は日本語の話せる現地の中国人スタッフを責任者として、駐在員を中国に常駐させることなく、オンラインや出張によって業務を進めていくことを検討している会社もある。

現地中国工場に依存しているスタートアップには厳しい時代

「製造業はコロナ以前の2019年から、米中貿易摩擦の影響により不景気の話が始まっていた」と、日本のスタートアップの受け皿となってきた深センのEMSジェネシスホールディングス(以下ジェネシス)の藤岡淳一社長は言う。

香港のデモが激化し、中国から撤退してベトナムに拠点を移す韓国企業も見受けられるようになっていた。このような経緯から、すでにサプライチェーンは縮小を始めていた。

では残存業者が不景気かというとそうではなく、例えば10社あった互換品製造業者が3社に減ることで、逆に仕事が集まり始める。そうなると残存業者は忙しくなりスタートアップ向けのような小ロット案件を断るようになる。

また、日本人の渡航制限がかけられている現在、中国の現地工場に製造を依頼している日本企業やスタートアップにとっては現地工場へ品質チェックに赴くことができないため、プロジェクトが思うように進まない。実際筆者や深セン在住の近しい人のところにも、中国の現地工場に自分たちの代わりに訪問してくれないかという相談が来るが、多くの場合は特定の専門知識を必要とするためなかなか難しいのが現状だ。

欧米のスタートアップも同じ問題を抱えている。深センの電気街である華強北にあるMakerスペース「TroubleMaker」運営者Henk Werner氏もそのように言う。欧米は距離の点で日本以上に不利なのである。この点は次回の記事でお伝えする予定だ。

日本企業やスタートアップの中にはこの状況を打破するために、ジェネシスのもとでの製造に切り替えるところが増えている。なぜならジェネシスの顧客は95%以上が日系企業であり信頼度も高いからだ。彼らにとっての一つのリスクヘッジなのである。

また、ジェネシス自体もリスクヘッジを行っている。2020年6月には金型成型工場を設立した。金型成型工程の一部内製化によって現地サプライチェーンへの依存度を軽減しつつ、スタートアップからの増大するIoTデバイス用件や大企業からの実証実験などの超小ロットなスマートデバイスの試作・製造ニーズに対応していく方針だ。

ジェネシス金型成型工場の射出成型機(上)と金型加工用の設備(下) ジェネシス金型成型工場の射出成型機(上)と金型加工用の設備(下)

これまでも、尖閣問題や鳥インフルエンザなど、日中ビジネスにおいてリスクや危機と見なされる出来事があるたびに、ジェネシスでは逆に仕事の依頼が増えるという興味深い現象が起きている。日本企業やスタートアップからの信頼を集める唯一無二の存在になりつつある。

コロナ禍で各業界は大きく様変わりしている。中国や日本も含めた多くの国でオンライン教育を取り入れ始めたことによってPCやタブレットの受注が倍増し、ITサービスやICT関連の需要も増大中だ。

ここ数年の貿易摩擦や香港デモ、そしてコロナウイルスなどさまざまな不確定要素が入り混じる中で、深センの製造業とサプライチェーンにはこのような変化が生じていた。コロナ禍においても時代の流れを読み取ってトランスフォームしていくことは、どの業界においても共通して生き残る鍵となっているのである。

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