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街灯がテーブルになる! DIYで変わるコロナ禍の商店街

提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室

密閉、密集、密接、いわゆる「三密」という言葉が広まって久しい。東京都など首都圏4都県と大阪府では、2021年10月25日から飲食店への時短要請が解除されたが、変わらずアクリル板や間隔の空いた席などを目にすることも多く、コロナ前と同じ光景に戻ることはないのだろうかと感じさせる。

上野公園の近くにある仲町(なかちょう)通りは、多くのスナックや飲食店が立ち並ぶ歓楽街。感染拡大が賑わいに影を落とし始めた頃、地元の大学や商店主らが活路を見出したのは、通りのシンボルである街灯の活用だった。市販品や木材のデジタル加工を用いた街灯への「寄生」によって、ウィズ/アフターコロナにおける新たな歓楽街のあり方を示した「ガイトウスタンド」の試みを紹介する。

街のシンボル「街灯」を囲んで外飲みを

国土交通省は新型コロナウイルス感染症の影響を受ける飲食店等を支援する緊急措置として、テイクアウトやテラス営業などのための道路占用許可基準の緩和措置を行っている。「三密」の回避や「新しい生活様式」の定着に対応するため、令和4年3月31日までの間に限り、飲食提供などの施設を路上に設置する際に道路占用の費用(占由料)を免除するものだ。

令和2年6月5日に出された通知に基づき、全国各地でテラス席の積極的な活用や、人工芝を用いた飲食可能なエリアの設置などが始まり、現在まで継続している場所も多い。

仲町通りの入り口(撮影:2021年11月1日) 仲町通りの入り口(撮影:2021年11月1日)

上野と湯島を繋ぐ仲町通りは、飲食店やスナックが立ち並ぶ「三密」の代表例のような場所。ここでは地元のビルオーナーや商店主、東京大学や東京芸術大学の学生などの有志で構成される「アーツ&スナック運動」の実行委員が旗振り役となり、制度を活用した屋外空間の利用方法が検討されていた。

彼らが着目したのが、仲町通りに点在する42基の街灯だ。3つの商店会から構成される仲町通りでは、それぞれの管理区域によって異なる3種の街灯を見ることができる。通りのアイデンティティのように親しまれる街灯を囲み、換気の良い屋外で飲食を楽しむための試みとして「ガイトウスタンド」がスタートした。

「ガイトウスタンド」のコンセプトスケッチ(提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室) 「ガイトウスタンド」のコンセプトスケッチ(提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室)
実寸大の模型によるデザイン検討(提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室) 実寸大の模型によるデザイン検討(提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室)

東京大学都市デザイン研究室のメンバーを中心に、実スケールの模型などを用いてデザインを検討。街灯を中心として、複数人が距離をとりながら飲食を楽しめるような形状を探索していった。

提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室 提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室
提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室 提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室

素材の入手性や安定性、設置や取り外しの容易さなどを考慮して完成した「ガイトウスタンド」。ピザ用の木皿や金属製のガイドなど、素材は全て市販のもので製作され、価格も1基につき1万2000円程度に収まっている。

2020年10月14日から17日にかけ、路上活用社会実験「ガイトウスタンド&テラス」内にて利用がスタート。街灯に巻かれたメニュー表なども功を奏し、80%以上の利用者が2店舗以上でテイクアウトを利用するなど、街の回遊性を生み出すことに成功した。

筆者も一利用者として開放的な空間を楽しんだ(撮影:2020年10月15日)。 筆者も一利用者として開放的な空間を楽しんだ(撮影:2020年10月15日)。

新しい生活様式に沿って商店街が人々をもてなす「ガイトウスタンド」の試みは、2021年のグッドデザイン賞を受賞 。LQC(Lighter:手軽に、Quicker:素早く、Cheaper:安価に)のコンセプトに基づいた設計や新しい飲食スタイルの実践、多くの関係者を巻き込みながら取り組んだデザインプロセスが高く評価された格好だ。

木材のデジタル加工で新型開発

期間限定の催しとして高い評判を得た「ガイトウスタンド」だが、「荷物が置けない」「もう少し広いスペースが欲しい」といった声も寄せられていた。さらなる改善を目指し、アーツ&スナック運動の関係者を対象に行ったワークショップでは、さまざまな新型「ガイトウスタンド」のアイデアが考案された。

関係者によるアイデア出しのワークショップ(撮影:2020年12月18日) 関係者によるアイデア出しのワークショップ(撮影:2020年12月18日)
左から「三脚型」「傘型」「増殖型」と名付けられた案の3Dモデル(提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室) 左から「三脚型」「傘型」「増殖型」と名付けられた案の3Dモデル(提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室)

初期の「ガイトウスタンド」は既製品の組み合わせで製作していたが、次第にそれだけでは対応しきれないアイデアも生まれてくる。そこで東京大学都市デザイン研究室では、木製ものづくりのデザインからパーツに加工するまでの工程をオンラインで完結できるクラウドサービス「EMARF(エマーフ)」を利用した。

全体の形状を3Dデータで製作したのち、平面状にパーツを割り付けたらファイルをEMARFのページにアップロード。加工や費用のシミュレーションを経て発注すると、数日から1週間程度で切削されたパーツが届く仕組みだ(関連記事:家から1歩も出ずに作ったウッドチェアで、春を感じてみた )。

提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室 提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室
提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室 提供:東京大学大学院 都市デザイン研究室

届いたパーツに塗装を施し、組み合わせたものがこちら。「三脚型」をベースにした形状により、食卓としての広さや飲み物の安定性が向上。さらに、給食のお盆のように取り外せる構造となり、複数のお店を回りながら飲食を楽しむスタイルを後押しする。

こうして生まれた新たな「ガイトウスタンド」を活用しようとした折、2020年末頃から再び新型コロナウイルスの感染状況が悪化。お披露目の機会は何度も延期/中止され、1年弱が経って飲食店の時短営業が解除されてなお、飲食を伴うイベントには細心の注意が求められる状況だ。そこで運営メンバーたちは飲食以外の「ガイトウスタンド」の新たな活用法として、街の文化を再発掘することにフォーカスしていった。

「外飲み」から「街中での文化体験」へ

飲食提供を行わない形式での開催となった「第2回アーツ&スナック運動」(2021年10月22-24日)では、新たな用途やかたちを持つ複数の「ガイトウスタンド」を見ることができた。

たとえばこちらは、荷物置き場を想定していたスペースを本棚として活用し、土地にゆかりのある作家の本を読める「ガイトウブックスタンド」として生まれ変わったもの。その土地ならではの本との思いがけない出会いをもたらす場となり、実際に多くの通行人が足を止め、本をパラパラとめくっていた。

本来は手荷物かけやドリンク置き場としての利用を想定していたスペース。 本来は手荷物かけやドリンク置き場としての利用を想定していたスペース。
写真左:EMARFで制作した木枠に鏡を取り付けたもの。写真右:初期型をアレンジした、組紐づくりを体験できるガイトウスタンド。 写真左:EMARFで制作した木枠に鏡を取り付けたもの。写真右:初期型をアレンジした、組紐づくりを体験できるガイトウスタンド。

「外飲み」から「街中での文化体験」にフォーカスしたことで、通りにある店とのコラボレーションも盛んになった。組紐屋や着物屋と協力し、街灯に帯を結んで目を楽しませたり、木製の覆いに鏡をつけて姿見にしてみたり。半私有、半公共のような位置にある街灯がさまざまな姿になることで、通行人がその土地の文化を知るきっかけとして機能するようになった。

飲食用のガイトウスタンドも、さまざまに形を変えて活用の時を待っている。

仲町通りの街灯を設置したメーカーである賛光電器産業は、自社製のガイトウスタンド製作に取り組んだ。いまや必需品となった消毒液をつけられるホルダーも併せて製作したところ、なんとバス会社から車内で使いたいと問い合わせが来たという。コロナが明けたときには、街灯に取り付ける募金箱としても活用できそうだ。

ワークショップで生まれた他のアイデアも実現しつつある。こちらは「増殖型」と呼ばれる案から派生したもの。EMARF製のスタンドが街灯にもたれかかるようにしてバランスを取っており、テーブルの隙間からスライドして取り出せるドリンクホルダーも含め、好奇心をくすぐる形状だ。

横断歩道越しに上野恩賜公園を臨めば、向こうの緑と純木製のスタンドが目を楽しませてくれる。いつかは夏の日差しを感じながら、この上でかき氷を食べるなんて楽しみ方もできるかもしれない。

EMARF製ガイトウスタンドを設計した河崎篤史さん(東京大学大学院 都市デザイン研究室修士2年) EMARF製ガイトウスタンドを設計した河崎篤史さん(東京大学大学院 都市デザイン研究室修士2年)

「第2回アーツ&スナック運動」の最終日には、ガイトウスタンドのように都市の設備を生かした場づくりの実践が集まる「都市寄生デザイン会議」がオンラインで開催され、柵にかけるレーザーカッター製のデスクなど、身近なデジタルファブリケーション機材を活用したアプローチを見ることができた。

日本大学の親水工学研究室で考案されたポータブルカウンターシステム「mizube bar」。写真はリンク先より引用。 日本大学の親水工学研究室で考案されたポータブルカウンターシステム「mizube bar」。写真はリンク先より引用。

家具スケールのものづくりが容易になった今、それらは室内におさまらず、屋外でも活用の場が広がっている。新型コロナウイルスによる屋外空間の変化をきっかけとして、こうした物への「寄生」によって、街の姿は作り替えられていくのかもしれない。


取材協力:VUILD株式会社

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