新しいものづくりがわかるメディア

RSS


アジアのMakers by 高須正和

海外スタートアップへのアポ取り3つのTips

僕は深センで「ニコ技深センコミュニティ・華強北オフィス」というコワーキングスペースを運営していて、アポイント依頼をよく受ける。また、「深センのスタートアップにアポイントのメールを送ったが帰ってこない」という相談をされることも多い。アポイントの取り方がそもそも間違っているものも、単純な改善策で済むものもある。こちらから依頼したこと、アポイントを受けたことの両面から見て、大事なことを3つの点で紹介する。

1.興味のある会社にアポイントを取ろう
2.相手を尊重、リスペクトしよう
3.メールの書き方

海外スタートアップへの訪問は楽しいし、その後の人生を変えるかもしれない。

1. 興味があるスタートアップにアポイントを取ろう

この1番目が最も大事で、全体が100だとすると95ぐらいになる。相手の会社に興味がなければ2番目以降のTipsは全部意味がない。逆に興味があるなら2番目以降をしくじってもなんとかなる。それぞれのTipsのタイトルは精神的な話だが、中身はぜんぶ具体的な行動だ。スタートアップに興味があるとはつまり、そのスタートアップの製品を買っていることだ。製品を買っていて使っていることよりも大事なことはない。

Amazonがスタートアップだったころ、彼らはオフィスにパトライトを用意して、注文が入るたびにそれを光らせる仕組みを作り、全員で喜んだらしい。今は大企業のAmazonも、そのスタートアップの頃なら、パトライトを光らせた本人がアポイントを取れば喜んで会ってくれただろう。
まだ世間に受け入れられていない、有名じゃないことをしているからスタートアップだ。スタートアップにとってファンは特別な存在だ。製品が売れて当たり前になったら、ファンへの対応が「お仕事」になったら、もうスタートアップじゃないのかもしれない。

深センのハードウェアスタートアップ、M5Stackを訪問したときの様子。5月14日に日本で最初のユーザミーティングが開かれることを聞いて、CEOのJimmy(写真右)がビデオメッセージを送ってくれた。その後も日本のユーザグループに新製品情報を自らpostしてくれている。 深センのハードウェアスタートアップ、M5Stackを訪問したときの様子。5月14日に日本で最初のユーザミーティングが開かれることを聞いて、CEOのJimmy(写真右)がビデオメッセージを送ってくれた。その後も日本のユーザグループに新製品情報を自らpostしてくれている。

僕は深センのスタートアップをよく訪問するが、訪問のきっかけでいちばん多いのはイベントでデモをしているのを見て、その場で製品を気に入って「面白い! イベントだとゆっくり話せないので、オフィスでゆっくり見せてくれる?」と訪問のアポイントを取ること。2番目がクラウドファンディングで支援して、支援へのお礼メールに「深センに住んでいるのだけど、オフィスに遊びに行っていい?」ということだ。それ以外の方法だと、返信が来ないことも多い。上記のM5Stackの出会いも、メイカーフェア深センに出展していた彼らに声をかけた事で始まった。

僕も自分宛の訪問者と話していて、相手が僕に興味がある(僕の場合は、過去に僕が書いたものを読んだことがあるかどうか)かどうか、自分が持っている製品なら持っているかどうかはすぐ分かる。もちろん数十万円するものや、気軽に買えないものはある。それでも、たとえばその会社のサイトをどのぐらいきちんと見ているかなどで興味のあるなしは伝わる。興味を別の言葉で言えば、相手のことを考えた時間の量だと言えそうだ。

2. スタートアップを尊重、リスペクトしよう

スタートアップはリソースがない。専任の広報担当者はいない。どんなアポイントでもマーケティングの責任者か、場合によっては社長が出てくることがある。彼らもユーザーである僕たちの話を聞くのを楽しみにしているけど、忙しい中、時間を取って会ってくれるのは間違いない。

いちばん尊重する方法は、こちらの時間に合わせてもらうのじゃなくて、相手が開いているイベントに行くことだ。向こうはわざわざ告知して人を集めようとしているのだから。次に、こちらの時間に合わせてアポイントを取って訪問するなら、絶対に時間に遅れないことだ。以下のように行動すればまず時間に遅れない

  • 事前に行き方を調べ、時間の見当をつけ、さらに30分程度の余裕を取る
  • 出発時に連絡して、どう行くかも伝える
  • 最寄り駅など、そろそろ着きそうになったときに再度連絡する

そういうやりとりをするためには、メールだけじゃなくてFacebookメッセンジャーや中国の場合はWeChatなどのメッセンジャーアカウントを交換しておいた方がいい。遅れると向こうの手間にもなるので、アポイントが取れたら確実に教えてくれる。逆に遅れる人はたいてい、これをやってない。中国なのに使えないGoogle Mapで場所を探している、などだ。そしてたいてい地図ソフトやタクシーを捕まえ損ねた、道が混んでいたことを理由にし、また遅れることを繰り返す。

3. メールの書き方

——アポイントはこちらから日時を切ろう
僕宛に多い依頼で返信に困るメールは、「3月に訪問を考えています。ご都合のよろしい日時をご連絡ください。」みたいな、日時があいまいな(あるいは、書いていない)ものだ。こういう人に他のスタートアップへのアポ依頼を聞くと、やっぱり返信が来ないという。誰だって単なる訪問者より大事なアポイントが入ってくる可能性はあるし、僕も事務処理や原稿書きなど、やりたいことはたくさんある。「分からないです」というメールを初対面の人(外国のスタートアップにとっては、外国人)に送るのもはばかられるので、余計に返信しづらい。

その意味ではこちらに「都合のいい時期」はない。「3月20日~25日に深センを訪問します、21日の午前中にお会いしたいです。難しい場合、23日まるまると、25日の午前中は空いています」なら、返信できる。

——自己紹介は2行ぐらい
レスが来ないメールを書いている人にもう一つ共通しているのは、長い自己紹介だ。こちらも商談の可能性があるから、一応メールは読むつもりでいるが、会社案内からコピペしたような長いのは、かなり困る。読んでもどう反応して良いかもよく分からない。

「日本でドローンをよく飛ばしていて、xxとxxを持っています。御社のTinyシリーズに興味あります。ドローン空撮動画はxxx」ぐらいの、2行ぐらいで自己紹介は済むはずだ。僕の自己紹介は「たくさんMaker Faireに行っていて、Maker向けツールの輸入などを仕事にしているスイッチサイエンスという会社の社員だ。DIYハードウェアについて書いた記事(英文)はこれ。」ぐらいだ。

もちろん、具体的に相談がある場合はその限りではないが、具体的な相談と言いながら長い自己紹介+とにかくお会いしたい、だけが書いてあるメールの方が、そうでないメールより多い。「ホームページを見てxxxに興味を持っていて現物を見たい」とか「日本のユーザー向けにビデオメッセージ取りたい、たとえばxxxのようなもの」のように、たいていの依頼は簡潔に書けるはずだし、書けない人と会うと、たいてい悪いことになる。

海外スタートアップへの訪問は楽しいし、その後の人生を変えるかもしれない

スタートアップ、特にまだクラウドファンディングにやっと製品を出したぐらいの会社の製品を買うのは特別なことだ。だから彼らは忙しい時間を割いてユーザーに会ってくれる。コピーキングの異名を持つ中国の発明家「山寨王」の考える中華コピー対策で書いたとおり、プロジェクト主であるスタートアップからこちらに連絡が来るぐらいだ。その意味で大きくなった会社と顧客とは少し違う、なんというか仲間みたいな連帯感が生まれることがある。

たとえば今はソフトバンクと提携して日本でも量販店で製品を売っているMakeblockは、社員がまだ20人ぐらいだった2014年から何度か会って仲良くなり、日本のクラウドファンディングサイトを紹介したり、彼らが初めて日本でクラウドファンディングをした際にドキュメントの日本語訳を引き受けたりした。スタートアップの多くは自分たちの製品があまり有名じゃないことを知っている。その頃にわざわざ日本から買ってくれた人のことを大事に思っている。最初に日本語でブログを書いて広めた人のことは忘れないし、東京に行くときに向こうから連絡をくれたりする。Makeblockの第1号社員であるAliceはいま東京でマーケティングをして、深センで出会った僕の友達とご飯を食べたりしている。

中央の女性がAlice。深センや東京のMaker Faireなど、何度も会っているうちに仲良くなった。 中央の女性がAlice。深センや東京のMaker Faireなど、何度も会っているうちに仲良くなった。

僕だけの話でも、Makeblockだけの話でもない。2017年04月に行われた第7回のニコ技深セン観察会に参加したソフトウェアエンジニア達は、深センのコワーキングスペースXfactoryを訪れたときに見かけたプロジェクトに意気投合し、ついにはIndiegogoで一緒にクラウドファンディングのキャンペーンを始めるに至った。

プロジェクトClooudieと参加したエンジニアたち。 プロジェクトClooudieと参加したエンジニアたち。

当時彼らはそれぞれ別の会社の社員だったが、プロジェクトベースで仕事を引き受ける会社を設立し、その後も深センスタートアップとの関わりは続いている。

今の僕の肩書はスイッチサイエンスのGlobal Business Developmentというもので、fabcrossの読者が面白がるような、スイッチサイエンスで売れそうな開発ツールを見つけて輸入の交渉をするのは仕事の一つだ。いうなればスタートアップの作ったものが好きでいろいろ注文しオフィス訪問を繰り返していたら、それが本業になってしまった。深センでのコワーキングスペース運営は利益を目的としていないボランティアだが、そういう仕事をする上ではよい影響がある。訪問することもアポイントを受けることも、いまの僕の仕事を作ってくれた。

Maker Faire深センの際に僕が主催したミートアップ。日本人向けに行ったのだが、深センの人たちを含め、さまざまな国から100人以上が集まった。 Maker Faire深センの際に僕が主催したミートアップ。日本人向けに行ったのだが、深センの人たちを含め、さまざまな国から100人以上が集まった。

僕が興味を持ったのがスタートアップではなく、AlibabaやTencentといった大企業ばかりで、行くのがMaker FaireでなくてCEATECやCESのような産業フェアばかりだったら、こういうことは起こらなかっただろう。

インターネットの時代になって、コミュニティが大事になった。ヘビーユーザーと企業はすごく近しい存在になった。企業がコミュニティを作るために、自分たちのやり方をシェアする資料公開やイベントを開くことも盛んになっていくだろう。今回書いた方法は日本のスタートアップを訪問するときにも有効なはずだ。たぶん社会人になってから友達を作る上でも大事なことだと思う。

深センのスタートアップと友達になる日本人がどんどん増えていくことを願っている。

関連情報

ニュース

編集部のおすすめ

連載・シリーズ

注目のキーワード

もっと見る