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従来のステンレス鋼よりも高い耐食性——海水から水素を生産する電解装置用に、新たなスーパーステンレス鋼を開発

香港大学の研究チームが、ステンレス鋼の不動態被膜も溶解してしまうような厳しい腐食環境においても、優れた耐食性を維持するステンレス鋼を開発した。従来のCrベースの不動態被膜に加えてMnベースの不動態被膜を生成させることにより、過不動態腐食を抑制できることを実証したものだ。現状高価な貴金属を被覆したチタンが用いられている、脱塩海水から水素を製造する水電解装置において、経済的な構造材料として活用できると期待している。研究成果が、2023年8月19日に『Materials Today』誌にオンライン公開されている。

産業界において耐食性材料として長い歴史のあるステンレス鋼は、腐食環境に広く使用されている重要な材料だ。耐食性を実現する基本元素としてCrが含有されており、Crの酸化により不動態被膜が形成され、自然環境における耐食性が確保される。だが、電解溶液環境で他の金属との接触などを通して腐食電位が非常に高くなる場合には、電気化学反応により腐食が進行してしまう。腐食電位が概ね900mV以下であれば、酸化クロム(III)(Cr2O3)不動態被膜が安定で耐食性が保たれるものの、1000mV程度以上になるとCr2O3が溶解する過不動態領域になり耐食性が損なわれる。軽水炉の再処理プラントでは、酸化還元電位が高い金属を処理する必要があり、腐食電位が1000mVを超えることから、構造用ステンレス鋼の選定が問題になった経緯がある。現在、脱塩海水や酸溶液から二酸化炭素(CO2)を排出せずにグリーンな水素を製造する水電解装置では、効率的に水を分解できる電位が約1600mVであり、構造材料として高価な金やプラチナを被覆したチタンが使われている。

研究チームは、このような過不動態領域においても耐食性を維持する、新しいステンレス鋼の開発にチャレンジした。その結果、Fe-20.73Cr-20.2Co-17.7Mn-1.7Si系スーパーステンレス鋼(略称SS-H2)を考案し、 Crベースの不動態被膜の上に第二のMnベースの不動態被膜が約720mVで形成され、「連続的な二重不動態」メカニズムにより過不動態領域の腐食を防止できることを見出した。SS-H2では、1700mVの極めて高い電位まで腐食を防止することが判り、従来のステンレス鋼を遥かに超える本質的なブレークスルーが達成されたと言える。「Mnはステンレス鋼の耐食性を損なうという一般的な見方があり、Mnベースの不動態の活用は直観に反する発見であり、最初は容易に信ずることはできなかった。だが、さまざまな原子レベルの解析により実証されたことで納得した」と、研究チームは語る。

現在、脱塩海水や酸溶液からCO2を排出せずにグリーンな水素を製造する水電解装置では、構造材料として高価な金やプラチナを被覆したチタンが使われている。例えば、10MW級のプロトン交換膜電解装置の全コストは約230万ドル(約3億4000万円)であり、その内53%が構造部品に関わる。経済的なSS-H2を活用することにより、構造材料のコストを約40分の1に削減できる可能性があると、研究チームは期待している。数トン規模の製品が協力企業によって既に製造され、特許化も推進している。

fabcross for エンジニアより転載)

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