fabなび
クミタテ|商店街で営む、「真似してほしい」木工ファブ施設(東京都国立市)
日本全国のfabスペースを紹介するfabなび。今回紹介するのは、東京都国立市のJR南武線谷保駅から徒歩5分の場所にある「クミタテ」だ。
初めてクミタテを訪れる人は、まずそのロケーションに驚くだろう。富士見台団地の敷地内にはむっさ21(富士見台名店街)という商店街があり、カフェや雑貨店が並ぶ。そのなかで、木製のベンチとドアが見えたら、それがクミタテの目印だ。
クミタテが始まったきっかけは、もともとこの場所にあったクリーニング店の閉業。くにたち富士見台人間環境キーステーションで理事を務める西川義信さんら3名が中心となり、普通は消費の場所である商店街で、あえてものを生み出す場所を作ろうという企画が立ち上がる。地域に住む建築家や作家を巻き込んだイベントなどを通じ、ものづくりがある暮らしの機運を高めながら、2017年12月にクミタテをオープンさせた。
クミタテの特色は、木を生かした作品や木工用の機材が多いこと。三味線やギター、絵画のキャンバスなどに木材を使う個人作家の利用が目立つが、この環境を特に盛んに活用しているのが、地域の彫刻家を中心に構成される「くにたちさくら組」だ。
国立市には、80年以上の歴史を持つ桜並木がある。同市のシンボルとして、市民グループによるメンテナンスがされてきたが、老木化や伐採後の活用が課題となっていた。彼らはクミタテを、この老木化した桜を用いた工作や、交流の場として大いに利用している。
また、スタッフが常駐しておらず、講習を受けた会員であれば営業時間中は自由に利用できることも特徴のひとつ。サービス提供の場というよりも、シェアスペースとしての性質が色濃く、機材も会員が持ち込み共有しているものが多い。貸切りも可能で、毎週土曜日にはくにたちさくら組のメンバーが集まり、サロンのような雰囲気で大いに賑わっている。
会員の創業や独立、販売ルート構築の支援も、クミタテが担う機能の一つだ。くにたちさくら組のメンバーは当初クミタテ内でものを作って楽しんでいたが、「クミタテさくら組」としてJR国立駅前の複合施設である旧国立駅舎と連携し、桜の木で作ったスプーンや箸などを販売するようになった。今では生産が追いつかないほどの売れ行きで、「販売ルートを作ってから、メンバーはものすごくイキイキとしている」(西川さん)。
また、クミタテを拠点に活動するレジン作家は、本職と並行して作品の制作と販売を続け、現在では独立するための相談を西川さんらと行っている。
多摩地域を拠点に活動する西川さんは、クミタテ以外のファブ施設の立ち上げや運営にも関わってきた。立川駅そばの「Tschool(ツクール)」では、より商業利用や創業支援に重きを置いたコンセプトや事業計画を策定。2014年には、キッチンと工房を併せ持つシェアスペース「Chika-ba」を、谷保に開設した。なお、利用者のニーズを受け、現在はChika-baをキッチンとコワーキングに特化させ、工房機能は2021年にクミタテに併合している。
Chika-baからクミタテに移されたデジタル機材は、木工エリアと壁で区切られた個室で利用する。どうしても多くの木屑や粉塵が出る木工と、PCや精密な機材を用いた作業の多いデジタルファブリケーションの間で、清潔さのレベルを分けるための工夫だ。
施設運用上のルールは決めているものの、清潔さへの認識や許容度にはユーザー間でも差があるため、その調整には苦心したという。サービス提供ではなくシェアリングであるという特性や、2施設の併合であるがゆえの難しさもあるが、粘り強くチューニングを続けながら運営を行っている。
西川さんがこうした場づくりを通じて目指しているのは、“小さな施設が街中にたくさんある光景”だ。
「クミタテくらいの規模であれば、大きな資本がなくても真似できます。大きくは儲からないけど、大きく失敗もしない。ここを運営している僕ら3人も、それぞれ他の仕事や収入を持ちながら関わっているので、ちょうど良いバランスで運営できています。
作家さんが少し自分の工房を開くとか、使われていない施設を半分だけ貸し出すとか、そういう動きが増えれば、街の中に小さなスペースがたくさん生まれます。クミタテは木工がメインですが、電子工作に特化した場所だとか、人と出会えるシェアオフィスだとかができれば、地域の人が好きな場所を回遊するようになりますよね。
家にこもってなかなか出会いが生まれない状況から、人が街に染み出る環境に変えていければ、地域に良い変化が起こると思い、色々準備をしている最中です」(西川さん)
地域の特色ある素材やコミュニティと深く結びつくクミタテ。団地内の商店街というロケーションもあり、取材中も利用者がふらっと訪れ、西川さんと気さくに会話をしていく姿が印象的だった。喫茶店や近所付き合いのような感覚で、気軽に行ける工房が増えた街はきっと、もっと活気あるものになるだろう。
概要
所在地 | 〒186-0003 東京都国立市富士見台1-7-1 富士見台第一団地1号棟106 |
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営業時間 | 定休日なし。会員登録後、内部でスケジュールを調整の上利用可能。 利用可能な時間は20:00まで。 |
URL | https://kumitate.space/ |
料金 | 入会金:7000円 木工会員:7000円/月(木工エリアのみ利用可能) 一般会員:1万2000円/月(デジタルファブリケーション機材を利用可能) ※ CNCルーターの利用には別途料金が必要 |