特別寄稿
太宰府からボホールへ——日本とフィリピンのファブラボをつなぐワークショップで見たもの
1月7日(4日目)
4日目は、観光客の集まるビーチへ行き、街灯の暗さを気にする人がどれだけいるか、インタビューしました。興味深いことに、安全に最も気を配るだろうと思われる観光客ほど、観光に来てから不安を感じたことはないと答えたのです。それは、裕福な観光客であればあるほど、彼らはビーチと近くにあるホテルを行き来し、薄暗い街中には行かないからでした。
僕たちはこの発見をきっかけに、町の明るさはそこに住んで暮らす人の問題なのだと分かり、その人たちをターゲットに計画を立てることにしました。またこの日に、作った街灯で実際に計測したデータを集めました。ファブラボ側で測定したデータは図のようになりました。夜になると、照度が低下していることが分かります。
そういったデータ集計と共に、同じ時間帯にさまざまなスポットで明るさを計測し、そのデータをグーグルマップに書き込み、町の明るさのチャートを作りました。
これは、もし町にe-Gen Lightが設置されたら、一目で相対的に暗い場所が分かることを示すものです。
1月8日(5日目)
最終日の5日目は、作ったプロダクトとデータをまとめ、プレゼンテーションを行いました。
プレゼンテーションではe-Gen lightを紹介するとともに、実際に販売する場合のビジネスプランをリーンキャンバスという図にまとめて発表しました。このリーンキャンバスは、スタートアップをする際にビジネスプランを立てる上でとても役に立つツールとして全体で共有され、出発前から打ち合わせで何度も使われたものです。
全7チームの発表が終わった後、主催者による総評と結果発表があり、上位3チームが表彰されました。僕たちは残念ながら上位3チームには入りませんでしたが、ここまで走りきれたという強い達成感と満足感を得てこのワークショップを終えました。
ちなみに、上位3チームに選ばれたのは、田んぼからカラスを追い払うロボット、ココナッツ殻でできたロボットのおもちゃ、サンゴの生息環境の温度観測をするプロジェクトでした。これらはどれも、プロダクトとしての完成度が高かったことはもちろん、プロダクトありきではなく、あくまでも課題を解決するために不可欠なものとしてプロダクトが作られているように思えました。
このワークショップを終えて感じたことと、これから
このワークショップを通じて学んだことはたくさんありますが、一番に感じたのは、たとえ高度な技術や発明がなくても、途上国におけるニーズを見いだし、それをミニマムな初期投資でプロダクトにすることで、競合に負けない、本当に人が望むプロダクトを販売できるということです。スタートアップにおいて重要なのは、技術やアイデアだけではなく、その地域の人が本当に必要としているものを見抜くということを知りました。
またフィリピンには、将来のことや立派な志、大きな夢を、日常的な感覚で平然と語り合える、そういった日本にはない前向きな空気感がありました。
特にプレゼンテーションの発表の間、最新のテクノロジーが身近にない人々が先進国よりも早く新しいことに挑戦するという、今まで味わったことの無い独特でとても素敵な空気がありました。あの空気の中には、損得のみを追求するような人や見栄っ張りな人は1人もおらず、部屋にいた誰もが正しいように見えました。そういった感覚が味わえたのは、このワークショップが単なるハッカソンではなく、日本とフィリピンをつないで行われたからだと思います。
なお、i2i:共創のワークショップを終えた後もFabLab Boholのスタッフとは交流を続けています。僕は3月末に再び1週間ほどフィリピンへ行き、彼らと共に電子工作のワークショップを開きました。
人がファブラボを通じて国を越えることでどんなものが生まれるか、そんな夢に満ちたテーマをこれからも追求していきたいと思います。