海岸線の侵食を止める——帯電させた砂で「ナチュラルセメント」を開発
2024/10/08 06:30
気候変動や海面上昇に伴い、海岸浸食の脅威は高まっている。21世紀末までに世界の海岸の26%が流出するという報告もある。この問題の解決策として、米ノースウェスタン大学の研究チームは、アサリやムール貝のような貝殻をもつ軟体動物をヒントに、海岸線を強化する手法を実証した。微弱な電気刺激により、海水中の無機物を利用して砂粒間に天然のセメントを形成する技術だ。永続的かつ安価で持続可能な海岸浸食対策に応用できる可能性がある。研究成果は、『Communications Earth and the Environmen』誌に2024年8月22日付で公開されている。
現在行われている主な海岸侵食対策は、保護構造物の建設による護岸と、地中にセメントを注入する地質強化の2つのアプローチだ。しかし、これらの方法はコストがかかるだけでなく、長持ちしないという課題を持つ。また、セメントなどの人工的な結合材を地中に注入することは、環境にとって取り返しのつかない問題が生じる可能性もある。
そこで、ノースウェスタン大学の研究チームは、サンゴや軟体動物にヒントを得て、海水を利用するシンプルな技術を開発した。海水にはもともと無数のイオンと無機物が含まれている。ここに2~3Vの微弱な電気刺激を与えると化学反応が起こり、貝殻の原料である炭酸カルシウムが形成される。少し高い4Vの電圧をかけると、水酸化マグネシウムとハイドロマグネサイトに変化する。
形成された無機物が砂とともに固まると、砂の粒子は結合し岩のように強固になる。研究チームは、一般的なシリカや石灰質の砂から火山の近くで見られる鉄砂まで、あらゆる砂でこの技術が機能することを確認している。自然のセメントとして働く無機物はコンクリートよりもはるかに強いため、結合した砂は護岸構造物のように強固になる。電流を流すと結合材となる無機物は瞬時に形成され、数日間刺激を与え続けることで効果はより高まる。固まった砂はさらなる介入を必要とすることなく、何十年にもわたり海岸線を保護すると研究チームは予測している。
また、研究チームによると、印加される電気刺激は非常に弱いため、海洋生物に悪影響を及ぼさない。さらに、固化した砂は可逆性を持つ。陽極と陰極を入れ替えて電流を流すと、結合材となった無機物は溶解し、砂も元の状態に戻る。
試算では、この技術にかかるコストは1m3あたりわずか3~6ドル(約440~880円)だ。結合材を用いて砂を強化する従来の方法では1m3あたり70ドル(約1万円)かかるのに対し、非常に安価といえる。研究チームは現在、この技術を実験室の外の海岸などで試験する計画を立てている。
(fabcross for エンジニアより転載)