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有識者に聞く2019年の総括と、来たるべき2020年代の予測

2019年が終わり、2020年という新たな時代の節目を迎えようとしています。この1年の振り返りと来たる2020年代の予測を有識者の方にアンケート形式で伺いました。

質問内容は以下の3つ

1. 2019年のスタートアップシーンを振り返って、ご自身の中で最も大きなトピックスを挙げて下さい。
2. 2019年で印象に残ったスタートアップやプロダクトを教えて下さい。
3. 2010年代が終わり、20年代が始まります。この10年のうちに起きるであろうイノベーションを予想してください。

回答頂いたのはDMM.make AKIBAやHAX Tokyo、Kawasaki-NEDO Innovation Centerなどでスタートアップのメンターとして活躍する岩渕技術商事の岡島康憲氏、デジタルファブリケーションの先駆者である慶應義塾大学環境情報学部 教授の田中浩也氏、ハードウェアスタートアップに特化したアクセラレータープログラム「Makers Boot Camp」を運営するDarma Tech Labs代表の牧野成将氏、日本大最大級のスタートアップ向け施設DMM.make AKIBAのマーケティング担当 真島隆大氏、クラウドファンディング「きびだんご」の創業者で、国内外のクラウドファンディングに精通している松崎良太氏(50音順)の5人。

岡島康憲氏(岩渕技術商事)

1. GoogleのFitbit買収。Apple Watch同様に予防医療などへのアプローチを本格的に進める大きなきっかけになるのでしょう。

2. GROOVE Xの「LOVOT」
80億円以上を調達したロボットスタートアップの製品がついに出荷されたことは日本のハードウェアスタートアップにとってはポジティブな出来事でしょう。

Beyond Meat
2019年上場した代用肉の製造開発企業です。日本ではまだなじみが薄い代用肉ですが、北米だとさまざまな店でその名を見かけます。上場直後の株価上昇から現在は落ち着いていますが、今後も確実に成長するでしょう。

3. Uberなどが行ってきた既存産業への新技術の応用という観点でのイノベーションは、デジタルトランスフォーメーションなどの文脈に乗りながら進んでいくでしょう。また各国の思惑に沿った形で政治や行政のデジタル化は進みますが、それによって国家間や社会階層間などさまざまな領域での分断も進むと思われます。

技術領域については量子コンピューターと創薬などのバイオテクノロジーは、GAFAのような新たな巨大プレーヤーを生む可能性がある分野と思われるので、注目していきたいです。

田中浩也氏(慶應義塾大学)

1. すでに一定の成功を収めてきたと思われる、ハードウェアスタートアップのパーソナルモビリティ「WHILL」(WHILL)や、スマートフットウェア「Orphe Track」(No new folk studio) と、慶應大学SFCのラボとして連携し、(プロダクト自体というよりも、そのプロダクトを使った)新しい「都市サービス」の議論を始めることができたことに、手ごたえを感じています。

2. おそらく日本で初めて一般でも買える量産品が3Dプリンターで作られたJINSのサングラス「Neuron4D(ニューロンフォーディー)」(使用された3DプリンターはCarbon 3D製)

3. 現在のハードウェアスタートアップは、「試作」と「量産」というプロセスがまだ完全に分かれてしまっています。「量産設計」という工程が発生し、そのために工場とやりとりをし、事前に「在庫」として、ある量(100~1000?)をミニマム(最小ロット)として生産し、そこで作った分は売りさばかなければいけません。この仕組みは、「デジタル」な製造パラダイムにまだ完全に乗り切っているとは言えないものでした。

他方、「デジタル」な製造パラダイムを具現化するものとして、3Dプリンティング技術がどんどん進化してきており、試作のみならず、量産化に対応できる機種が増えてきました。そうなると、注文が来てから必要な個数の製品をオンデマンドで作ることが可能となります。同じ3Dプリンターの上で「試作」と「量産設計」の壁は消え、「必要に応じて何個でもつくれる」ため、最小ロットという概念が無くなります。

この、試作用ではなく、製品量産のための「3Dプリント工場」という概念は比較的近い未来、数年後にやってくるはずです。

そして、さらに想像力を伸ばして、10年先ということを考えた場合、重要なことは、さまざまなプロダクトやロボット、モビリティを、それぞれ「単独」ではなく、全体として連動させるような「都市サービス」を構想することです。都市を情報技術で最適化しようとする「スマートシティ」の試みが世界中で進んでいる中、物理世界(ハードウェア)側からも新しいモノを作りだしてきたものをつなげ、連動させることで、新しい都市像を探っていく「ファブシティ」の運動を、2020年から本格化させたいと考えています。

牧野成将氏(Makers Boot Camp)

1. 2019年はLyftUberPeloton等のこれまでユニコーン企業として注目を集めていた企業がIPOしたこと、またユニコーン企業の1社として急拡大をしてきたWeWorkのIPO取り下げを挙げたい。

世間の期待や注目を浴びつつも詳細はベールに包まれていたユニコーン企業がIPOプロセスでの情報開示を行う中で、実際の事業内容を見た株主等が事業の将来性に疑問符を投げかけIPO後の株価は低迷している、またWeWorkに至ってはガバナンス体制や事業内容に関して厳しい指摘を受け、IPO自体の取り下げを行ってしまった。ユニコーン企業のIPO後の株価の低迷やガバナンス不備が米国の株式市場全体の低迷の原因を招いているといわれているが、これは2020年以降のスタートアップ、とりわけユニコーン企業に対する投資家の反応を知ることができたのではないかと思う。

2. 私達と同じ京都で活動するスタートアップAtmophmuiを紹介したい。Atmophは「窓型スマートディスプレイ」というコンセプトで世界中のきれいな動画景色を配信するサービスで、2019年日米のクラウドファンディングで約1億円の資金調達を実現した。またmuiは木や皮素材にタッチパネル技術を埋め込んだこれまでないIoTデバイスを開発しており、こちらも約2億円をベンチャーキャピタルから調達した。両社に共通する特長は「デジタルから距離を置く」という点にあり、こうした技術を「Calm Technology(カームテクノロジー)」と呼ぶようである。デジタル機器が普及する中で私達はデジタル機器に囲まれた生活をしているが、最近ではその弊害も出てきているようだ。両社はこうした課題解決に京都や日本の文化や価値観を前面に打ち出しており、日本発の世界的なプロダクトになる可能性もあるのではと期待を込め、非常に印象に残っている。

3. 2010年代はIoT製品やスマートプロダクトの普及によりソフトウェアとハードウェアの融合が進んだ時代だったと思う。2020年代もソフトとハードを両輪として、この融合化の流れは加速するとともに、ソフトウェアやハードウェアの製造プロセス自体にもいろいろな変化が起こってくるのではないかと思っている。ソフトウェアの世界では既にオープンソース化されナレッジの共有も図られているが、ハードウェアの世界でもどんどん新しい機器や材料、更にはソフトウェアが開発されており、この分野でのオープンソース化が進展して個人でも製品レベルのものが作れるようになるのではないだろうか?

真島隆大氏(DMM.make AKIBA)

1. フランスのマクロン大統領がLa French Techを更に加速すべく、3年間で50億ユーロ(約609億円)を目標とした投資を政府系ファンド40社以上と誓約を結んだと発表。スタートアップの数は1万を超えたものの、ユニコーンの登場はまだまだ数えるほどと言われているフランスが、さらなる加速に向けて、国のトップが動いた事例として、非常に印象的でした。

DMM.make AKIBAが2019年11月、5周年を迎えました。累計利用者数は2万人、登録企業数は450社以上、そのうち150社がスタートアップ企業と、大きく成長してきたDMM.make AKIBA。今後は、地方創生、CVC、無料プログラミングスクール「42 Tokyo」など、DMM.com全体とのシナジーを強化し、また国内外のパートナーを増やしていくことで、ハードウェアに特化した施設から、事業課題を解決するコミュニティとして飛躍を目指します。

2. フィンランド発、ソーラーパネル搭載型のバックパックを製造しているスタートアップTespack。CEOはフィンランド人と日本人のハーフでForbes 500 2016に、COOは「Forbesが選ぶUnder30の若手起業家30人」にそれぞれ選ばれ、TED登壇経験を持つなど、タレントぞろいのチーム。CEOが兵役中に感じた遠征中の電力不足の課題が、多数のNGOや冒険家たちのニーズでもあることに気づき、強固かつ効率的な蓄電技術を開発するところにたどり着いています。

Slushに出展ではなく参加者として見に来ていたCOOと話す機会があった。フィンランド国内では、過去に事例がなかったため、大手企業からの出資などが受けられず、オランダのアクセラレーションプログラムに参加。そこで、複数企業との協業が開始し、その後、ドバイなどを経て、自国の大手企業、NOKIAなどとの協業商談を開始。一見、スタートアップとの協業に積極的なフィンランド大手の別の顔が見えた瞬間でした。

3. すでに多数の国が法整備を完了させ、実証実験に移っており、海外のモビリティにおける自動運転は、確実に実用化されサービスインしていると思います。AIにおいても、期待はされているものの、実用化するまでのラーニングコスト(AI自体と、人間どちらも)を抑えられるかによって、汎用的な拡がりを見せるかの分岐点になるかと思います。

エンタメ寄りの領域においては、直近のARの発展スピードが飛躍的に伸びているため、企画寄りの方々が、いかに楽しみを生み出すか、リテールなどで実用的、かつ気楽に使えるようになるかなどを考え出していき、身近な技術へと進歩しているのではないでしょうか。それに引っ張られるように、ハプティクス技術の研究も推し進められ、そのさらに先の10年に実用化される未来を期待したいところ。

松崎良太氏(きびだんご)

1. WeWorkの上場取り下げや、UberとLyftの株価低迷に代表される、これまでのVCを通じた資金調達の概念を超えるBlitzscalingと称される大規模資金調達を通じた急速な事業拡大に対してガバナンスを疑問視する声の拡大。成長痛と創業者のエゴが交錯するなかで「何が倫理的に正しく、何が正しくないのか」についての議論も活発に。

“PayPay祭り”とYahoo!とLINEの経営統合などに代表される、決済領域での仁義なき戦い。またQR決済自体が米国発ではなくインド/中国発であることや、スーパーアプリなども含めた中国の動きを、米国をはじめ各国がより強く意識するように。米中間のテンション拡大は結果として、特に米国のスタートアップ労働環境に少なからず影響を与えたとも。

GoogleによるFitbit買収。それ自体は一つのニュースでしかないが、以前にもNestを買収している同社のウェアラブル/IoT技術に対する関心の高さが明確に。一方で「全てを持つ」が故に逆にいろいろと気を遣うことが多くなる同社ほか業界トップ4社と「しがらみが無いからこそいろいろできる」スタートアップとのすみ分けも。

2. 睡眠をトラッキングするウェアラブルデバイス「Oura(オウラ)」。これまでに使ったウェアラブルデバイスの中で、個人的に最も気に入っているプロダクトの一つ。毎日使えるし、役に立つ。

Oculus Quest+VR音ゲー「Beat Saber」の組み合わせ。コードが取れて、ついにVRが一般家庭でも楽しめる可能性が開けた。チェコの小さなゲームスタートアップだったBeat Saber開発元Beat GamesはOculus/Facebookに買収されることに。

オンラインでつながり、競い合えるエクササイズマシン「Peloton」。ありそうでなかったハードとアプリ、サービスの融合が昇華し、株式公開へ。早く日本でも使えるようになってほしい。

3. さまざまな形のバイオハック。EEG(編集部注:脳波)やtDCS(編集部注:経頭蓋直流電気刺激法:頭蓋骨の上から極めて微弱な直流電気を流して脳を刺激する方法)などの技術の組み合わせによる睡眠/覚醒デバイスや、最近、欧米で合法化が進むマリファナや、長く封印されていた幻覚剤の医療分野への応用。日本はどこまでこの潮流に付いていけるのか。

「老い」「健康」「生きがい」についての考え方の根本的な変革。そもそも寿命100年時代といわれている中で認知症の特効薬が存在しない時点で「幸せに生きるとは」「幸せに生涯を全うするためには」という問いについての議論を通じて、生き方に関する再定義がされる。

スマホやVRゴーグルに代わる、新しいI/Oデバイスの登場。触覚や視覚、嗅覚といった五感の一部を合成する新しい技術が登場する。それにより人間とAIのインターフェースも進化。クルマの自動運転が当たり前になる中、運転中のドライバーとAIとのやり取りをはじめとする既存のデバイスとAIとの接点となるインターフェースの進化が今後より一層鍵に。

立法のあり方の変革。よりダイナミックに社会のニーズを解決するための新たな超法規的ルール作りの枠組みが議論されることに。

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