スイッチサイエンス年間売上ランキングベスト100に見る 2021年電子部品ヒット商品のトレンド
2020年に引き続き、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた2021年。電子部品業界はどう推移していったのか? 動向を知るスイッチサイエンスの担当者に、同社の2021年売上ランキングベスト100を見ながら語ってもらった。そこには2021年の商品のトレンドとともに、例年と異なる供給サイドの特殊な事情が垣間見える。
売上ランキングの集計期間は、2020年11月〜2021年10月。現在の希望小売価格×出荷数でランク付けしている。スイッチサイエンスで仕入れやイベント出展などを担当する安井良允氏とオンラインショップ店長の牧井佑樹氏にランキングを見ながら話を聞いた。
供給サイドを襲った世界的な半導体不足
──2021年度の全般的な傾向についてお聞きしたいと思います。
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安井氏
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「世界的な半導体不足がほぼ全ての商品に影響し、春から夏にかけて価格改定が相次ぎました。半導体がらみの電子部品高騰が原因です。価格を維持しようと努力したものの、それもかなわず改定に踏み切った会社が多かったようです」
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牧井氏
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「中にはEOL(End Of Life。生産中止)となった商品もあります。『製造しようと思えばできるけれど、高騰分を価格に反映させるとお客さんに買ってもらえない。だから生産を中止した』というパターンですね。ほかにも、『供給が不足する』『リードタイムが長くなって売り逃す』といったことも起きました。ランキングにもその辺りの事情が大きく影響しています。単純に『人気だからランクが上がった』とはいえない1年でしたね」
2021年も続いたM5の快進撃
──まずはランキング1位の商品について教えてください。
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安井氏
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「1位は『M5Stack Basic』ですね。2019年の登場以来、M5関連の商品は着実に売り上げを伸ばして、今やスイッチサイエンスの主力商品となっています。ランキングでも20位までに6アイテムも入っています。3位の『M5Stack Core2 IoT開発キット』は、液晶画面がタッチパネルになったCoreシリーズの第2世代に当たります。4位の『M5Stack Gray』もM5Stack登場以来の人気商品ですが、製造できない期間がありました。9位の『M5StickC Plus』も部品不足などの影響を受けましたが、なんとか継続になったモデルです。StickCシリーズについては19位、29位にもランクインした商品がありますが、今は生産が止まっています。原価高騰でコスト的に見合わなくなった商品の一例ですね」
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牧井氏
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「12位の『M5Paper』は電子ペーパーが搭載されている商品です。従来の電子ペーパー系の商品は、別にマイコンボードを用意していろいろな部品と組み合わせる必要があり、人気はもうひとつでした。M5Paperは、CPU、無線モジュール、バッテリー、筐体などが一体化しており、非常に扱いがいいので、その辺りが人気だったようです。ただ、これも部品不足の影響を受けて、主に2020年11月から2021年2月の4カ月しか順調には販売できず、8月には部品不足の影響を受けて販売ができないうちに新型のV1.1が出てきました」
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安井氏
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「27位の『M5Stack Core2 for AWS - ESP32 IoT開発キット』もM5の中では注目の商品ですね。AWS*用のM5Stackですが、セキュアエレメント*を内蔵しており、セキュリティに気を使った商品になっています。外のネットワークにつなげて本格的なIoT商品を開発するには、欠かせない仕様です」
AWS*:Amazon Web Service(アマゾン・ウェブ・サービス)の略。コンピューティング、ストレージ、データベースのほか、機械学習やAIなどに役立つさまざまなサービスを提供するアマゾンのクラウドプラットフォームを指す。
セキュアエレメント*:外部からの解析攻撃に耐えるセキュリティ機能を持った半導体製品のこと。
──ランキング2位は2020年1位のAI関連商品開発向けのシングルボードコンピューター「NVIDIA Jetson AGX Xavier開発者キット」ですね。
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安井氏
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「2位というのは供給不足の影響もありそうです。新型コロナの状況が落ち着いて企業活動が再開されるにつれ、Jetsonの人気は高まっています。供給が安定していたなら、1位の可能性もありました。5位の『Jetson Xavier NX 開発者キット』も同様です。お客さんから毎日のようにお問い合わせをいただくのですが、供給が追いついていません」
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牧井氏
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「関連で面白いのは、37位の『Jetson Xavier NX用アルミケース』ですね。安い筐体がたくさんある中で、1万3200円(税込)のこの商品が売れているのは、ナダ電子製だからです。ナダ電子には商品ごとに専用筐体を作る技術があり、担当の方もJetson Xavierのユーザーで、使い勝手にこだわって作っています」
Raspberry Piは、3から4へ移行完了
──6位「Raspberry Pi 4 Model B」を筆頭に、17位、18位、21位、26位とRaspberry Pi 4 シリーズの商品がランクインしています。Raspberry Pi 3が56位という事実を見ても、ほぼ3から4に置き換わったと考えていいのでしょうか?
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牧井氏
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「そうだと思います。生産も4の方へリソースを割り振っていて、3とか3B+より4の方が入ってきます。これからRaspberry Piを買う方は4がおすすめですね。3とか3B+は今まで使われていた方が保守部品として入手する感じかと思います」
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安井氏
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「14位の『Raspberry Pi Zero WH』は、低速ながらLinuxが動かせるZeroシリーズに無線機能とピンヘッダを実装したタイプです。Raspberry Pi 4などより安価なので『低コストでこれぐらいのことをやらせるんだったらZeroでいいよね』という使われ方が多いと聞きます」
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牧井氏
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「安価という点では2021年2月に発売した『Raspberry Pi Pico』が550円(税込)とダントツで、38位にランクされています。当初は在庫がなくてお客さんに迷惑をかけたのですが、今は安定して供給できています。安い分、Linuxが使えなかったり、ピンヘッダなどがなかったりしますが、短い販売期間・低単価でこの位置にいるのは、数が出ているからです。出荷台数としてはM5Stack Basicより多いですね。出荷台数が多いということはユーザーも多いということですから、今後作例などもたくさん出てくるでしょう。注目の新製品だと思います」
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安井氏
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「話題になった『Raspberry Pi 400 日本語キーボード』も39位に入りました。9月に工事設計認証(いわゆる技適)が通ってようやく発売できました。入ってはすぐ売れて、という感じで、短い販売期間ながらこの位置にいます。モニターと電源を用意すればすぐに使えるし、初心者向けのRaspberry Piだと思います。今後、伸びていってほしい商品ですね」
AIカメラは価格改定が響く
──7位に「Intel RealSense LiDAR Camera L515」、8位には「Intel RealSense Depth Camera D455」とIntelのAIカメラ・RealSenseシリーズが入っていますね。
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牧井氏
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「上位にはいますが、2つとも価格改定の影響を受けた感じです。LiDAR Camera L515は2022年2月で生産中止と決まってしまいました。けっこう優秀なLiDARで惜しい気もするんですが……。24位の『Intel RealSense Tracking Camera T265』も生産中止になる予定ですね。今後、RealSenseシリーズとしては深度カメラだけが残ることになります。深度カメラは普通のカメラと違って処理能力が高いので、非力なコンピュータで動作させるには適しています。需要はまだまだありそうです」
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安井氏
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「32位の『OAK-D OpenCV DepthAIカメラ』は、Intelではない深度カメラといった感じですね。今まで1強だったRealSenseにライバル登場といったところです。RealSenseの価格改定でさらに価格差が広がったので、今後どう伸びていくか、注目です」
micro:bit v2.0は供給不足ながらベスト10にランクイン
──教育用マイコンボードとして人気の「micro:bit」も2020年末にv2.0になりました。10位にランクインしています。
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牧井氏
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「これも供給不足で確保が難しかった商品です。ユーザーは以前より着実に増えている印象です。その分、ご迷惑をおかけしています。商品としては、v1.5からv2.0になり、スピーカーなど新機能がついて値段据え置きですから、良くなっていると思います。15位にも電池ボックスや専用ケースがついた『micro:bitをはじめようキット』 がランクインしています」
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安井氏
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「関連で23位に『Micro: Maqueen micro:bit Robot Platform』が入っています。micro:bitで動く距離センサーなどがついたロボットカーですね。2020年から引き続き人気があります。教室とかワークショップでまとまった数で使うという需要があって、こういう結果になったのだと思います」
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牧井氏
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「教育用の商品としてはMESHもあるのですが、こちらは53位に『MESHひらめきラボセット』がランクインしています。2020年と比較して人気が落ちたのではなく、2020年度末に品薄が続いて、販売できなかった期間があったのが響いた印象です」
2021年に発売された期待の新製品myCobot
──22位の「myCobot 280 M5 - ロボットアーム」は2021年に登場した中でもユニークな商品だと思うのですが、どう見ていますか?
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牧井氏
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「新登場で22位は健闘していると思います。過去にもロボットアームという商品自体はあったのですが、ここまで売れたことはありません。myCobot はM5Stackがメインコントローラーとして搭載されている点がユニークです。ほかにも、6軸で変わった動きができる、筐体にデザイン性がある、といった特徴を備えています。メーカーは生活空間での使用もイメージしているようで、2021年12月にはエンドエフェクター(先端に使うグリップ)にスマホがつけられるバージョンが出る予定です。キッチンやリビングにおいてスマホを見るみたいな用途ですね」
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安井氏
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「過去にあったロボットアームとできることは変わらないですが、画面やボタンなどをつけて、『あとはプログラムすれば動きますよ』とパッケージ化したところが魅力だと思います。M5Stackが出てきたときと同じ印象を持ちましたね。ちなみにメーカーのElephant Roboticsは本格的な工業用ロボットアームも作っている会社です。技術の裏付けがあるので、その点でも安心です」
2022年へ向けての動向は?
──半導体不足という激動の年となった2021年でしたが、2022年へ向けての動きはどうなりそうでしょうか?
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安井氏
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「新型コロナが収束に向かって世界の産業が安定していけば、半導体不足も解消されていくと思いますが、不透明なところです。そんな中でも2022年へ向けての新しい動きはあります。新しい市場の開拓につながりそうなmyCobotの登場などはその典型でしょう。既存のブランドだと久々にArduinoに動きが出そうです。2021年も13位に『Arduino Uno R3』、20位に『Arduinoをはじめようキット』、41位に『The Arduino Starter Kit(日本語版)』がランクインしていますが、技適の問題で日本では発売できない商品も多々ありました。2022年にかけてさらにたくさんのBluetoothやWi-Fiが搭載されたArduinoが出てくると期待しています」
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牧井氏
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「2022年へ向けた注目商品としては、76位の『reTerminal - 5インチタッチスクリーン付き Raspberry Pi CM4搭載デバイス』を推したいですね。セキュリティもセキュアエレメントでしっかりしています。実は2021年10月15日発売なのにランキングにすべりこんできた商品です。発売わずか2週間でこの位置はすごいです。集計後の2021年11月11日の「独身の日」セールでも、myCobotとともによく売れた商品です」
編集部まとめ
以上、2021年のスイッチサイエンス売上ランキングベスト100の集計表を見ながら語ってもらった。やはり世界的な半導体不足から来た慢性的な商品の供給不足がかなり影響していると感じる。2022年はこういった状況が解消し、ランキングに大きな変化が生じるだろうか? また1年、動向に注目したい。