より滑らかで、美しい造形——Formlabs「Form 3」徹底レビュー
2019年4月にFormlabsが発表した光造形方式3Dプリンター「Form 3」が、12月から販売されている。Form 3は「Form 1」、「Form 1+」、「Form 2」に続く3Dプリンターで、後述する通り構造を改良して高精細な造形が可能になったとしている。また、「Form 3L」という造形サイズがより大きな機種の販売も予定されている(発売日は本記事初出時点で未定)。
Form 3の造形方式は基本的にForm 2と同じく光造形方式(SLA:Stereolithography)ではあるが、FormlabsによるとForm 3は光造形の中でも新方式であるLFS(Low Force Stereolithography)という方式を採用している。Form 2との違いとしては、固定されたレーザー発振器からの光をガルバノミラーを用いて反射させていたものが、LPU(Light Processing Unit)と呼ばれるレーザー発振器と反射鏡を備えた可動型ユニットに変更している点と、レジンタンク底面を柔軟性のある材料に変更したフレキシブルタンクによって、タンク底面と造形物のはく離による造形物への負荷が軽減されている点が挙げられる。この2点によってForm 3ではForm 2に比べて造形の精度が向上したという。
今回はこの新しくなったForm 3の出力サンプルを造形できる機会を得たので、Form 2との比較を中心に実際の出力結果をレビューする。
Form 3の新しい仕組み
新しいLFSの仕組みは動画でも見ることができるが、新しいLPUと新しいタンクでなぜ出力物がきれいになるのか少し解説したい。
まずレーザーに関しては、従来のForm 2ではガルバノ方式と呼ばれるミラーを回転させてレーザー光を照射する方式を採用していた。この方式だと、照射される位置によってレーザー発振器から照射点までの距離の違いによる焦点のズレや斜めにレーザー光が当たることなどで造形物にムラができてしまっていた。
Form 3ではLPU自体が左右に移動することで、常に照射部の真下から一定の距離でレーザー光を照射することができるので、造形物の仕上がりにムラができにくくなるという。
また、従来はレジンタンクの底に造形物を押し当ててレーザー光を照射して造型し、照射後は造形物をタンクから引き上げてはがすことを繰り返す。この造形物の押し当てと引きはがしの繰り返しは、どうしても造形物に負荷がかかり、仕上がりの質に影響していた。Form 3のフレキシブルタンクでは、この造形物への負荷を改善している。
まず造形物はタンクの底に押し当てず少し離れた位置まで下げ、照射箇所だけLPUが柔らかいタンクの底を押し上げてレーザー光を照射する。そのため造形物に触れるタンクの底は最小限に抑えられ、従来のような造型物にかかる負荷は無くなるため造形物がきれいに仕上がる仕組みだ。
造形の比較をするデータ
それでは実際にForm 2とForm 3の造形物を比較していく。今回は、表面の滑らかさ、精細な造形物それぞれを確認するために以下のデータを用意した。
1.透明な有機形状のデータ
表面の平滑さを見るためのデータ。透明レジンで出力。
2.折鶴の骨格データ
微細な造形の仕上がりを見るためのデータ。
3.ゲーム用コントローラーに接続する持ち手のデータ
寸法や嵌め合いの精度を見るためのデータ。
4.組み立てできるおもちゃのデータ
微細な造形や嵌め合いの精度を確認するためのデータ。
こちらの画像は左がForm 2、右がForm3のそれぞれの「PreForm*」の出力プレビュー画面だが、同じ条件で出力するとForm 2の12時間51分に対してForm 3では9時間38分と、造形時間が短いのはForm 3だ。最新の産業用3Dプリンターと比較すると高速とまでは言えないものの、利用頻度が多いユーザーにとっては嬉しいアップデートだ。
PreForm:Formシリーズ用のプリント管理ソフト
1.透明な有機形状のデータ
このデータは表面の平滑さを確認するためにクリアレジンでの出力をしている。左がForm 2、右がForm 3の造形物であるが、Form 2では曇った表面であるのに対してForm 3ではかなり透明感のある仕上がりになっている。材料のクリアレジンや造形における設定などをそろえた状態でこの差が現れるので、機材の性能だけでこれほど品質が向上していることに驚かされる。
2.折り鶴の骨格データ
折り鶴に関してはサイズがかなり小さい(70×39×18mm)が、どちらもきれいに出力できている。実際のマシンスペックを比較すると、XY解像度に関しては比較できないが積層ピッチなどのスペックは変わらず、レーザースポットサイズがより小さくなったなどの違いにとどまっている。
こちらの造形物では目視で確認できる比較点が少ないため、造形後のサポートの付き方を見ていきたい。正面から比較した画像で確認できるようにForm 3ではサポートの生成アルゴリズムも変更になっており、造形物の近くになるにつれて真っすぐなサポートが立ち上がるようになっている。細かい仕様ではサポートの造形物へのタッチポイントも小さくなっているとのことだが、この途中から真っすぐになるサポートも、隣り合うサポートとつながっていないため、サポート除去工程がより楽になっているように感じた。
3.Joy-Conの持ち手のデータ
これはNintendo SwitchのコントローラーであるJoy-Conのアダプターだ。持ち手部分を比較すると精度の違いを確認できるのだが、Form 2では横方向にノイズの線ができている。まさにタンクの昇降の際の負荷が影響している箇所である。一方でForm 3の造形結果ではForm 2に見られる横方向の積層痕がほとんど見られない。形が分かればいい試作では問題ない程度かもしれないが、仕上げ作業で塗装などをする際は大きく影響がでるような箇所であり、ノイズがあると磨き作業などが多くなってしまう。安定した出力を求めるには嬉しい変化だ。
実際にJoy-Conに装着してみるとしっかりと嵌めることができたので、寸法精度に関してはある程度問題ないようである。ただし今回出力したグレーのレジンは強度があるものではないので、小さなツメなどは割れやすい。強度のあるパーツを作りたい場合はFormlabsが別途販売しているタフレジンなどを使うと、用途にかなったものが出力できるだろう。
4.組み立てできるおもちゃのデータ
こちらは主に嵌合などの比較のために出力したデータだが、全体のパーツの精度は折り鶴のデータ同様によく出ている。サポートを外しただけの状態で、各パーツを組み上げることができる程度の精度はあるようだ。ただ、完成形では比較がしづらいのでパーツごとのディテールを見ていきたい。
各パーツとも右がForm 3で出力したものだが、ディテールや面がきれいに出力されているのが分かる。右上のパーツは正面がタンクの底に接する面なのだが、上で解説したとおりForm 2で造形したものは引きはがす際の負荷で面が荒れている。また、左下のパーツではForm 2で造形したものには上の方にぽつぽつと凹みがあるのも確認できる。それ以外にも細かく比較するといくつか違いは確認できるだろう。
その他ディテールの比較
3Dプリンターの積層痕が一番目立つ箇所は造形方向に対する上下面なので、あえてこの箇所の比較もしていきたい。それぞれ左の画像は積層ピッチ50μm、右の画像は100μmなのでマシンスペック(Form 2、Form 3共に25~300μm)の限界よりも粗いピッチでの出力である。
この積層痕の様子を見ると、まず気付くのが一層一層の境界がForm 2ではザラザラしているのに対し、Form 3ではきれいな曲線になってはっきりしているのが分かる。また、グレーの造形物のほうでは積層間の段差は見えるものの、層と層の間がなめらかになっているようにも見える。
Form 3はどんな人が買うべきか
まず現時点(2019年12月)でForm 2の販売は終了しているため、新規でFormlabsの3Dプリンターを購入検討しているのであればForm 3を購入することになる。Form 2をすでに購入している場合は乗り換えキャンペーンを開催している販売代理店から購入するのもいいだろう。
ただ、現状のForm 2での造形に満足しているのであれば、Form 2より少しでも早く、よりきれいな造形を求めない限りは乗り換えの必要はない。Form 2のファームウェアやソフトウェアも今後もアップデートは行われ、Form 2でもアップデートで実装できる機能や修正などは引き続きFormlabsから配信されるとのことだ。
Form 3単体で見てみると、Form 2で得られた知見をもとに順当なアップグレードをした新機種という印象で、従来どおり大学や開発環境、デザイン事務所など製品レベルに近い試作が必要な現場では大変重宝する3Dプリンターである。また発売日は未定であるが一回り大きいForm 3Lも、卓上の光造形の3Dプリンターとしては最大級の造形サイズなので、Form 3と同じ品質での出力ができるのであれば大いに期待できる機種になるだろう。