素人のアイディアは「王様のアイディア」に受け入れられるのか? 異色のECショップに手作りアイテムを持ち込んでみた!
ふと面白いアイディアを自慢気に友人に話し、そっけない態度を取られたことはありませんか? かくいう私も、アイディアを友達に話しても、テンション低めの反応が返ってくることが日常茶飯事です。しかしある日の反応は異なりました。
「それ、王様のアイディアっぽいね」。友達はそう言ったのです。初めて聞く言葉にテレビ番組かな? と仮説を立てて調べてみると、「王様のアイディア」は昭和40年〜平成19年まで日本各地で面白いアイディアグッズを販売していたセレクトショップのことでした。さらに、2022年の2月22日にECサイト「王様のアイディア」として令和の時代に復活を果たしていました。
そこで、友人に「王様のアイディアっぽい」と言われた私のアイディアが本当に「王様のアイディア」で受け入れてもらえるか、モックを作ってプレゼンしてみることにしました。
店舗時代の「王様のアイディア」幕引きから、令和時代の電撃復活まで
ECサイト「王様のアイディア」は、ノベルティグッズの制作や開発を得意とする企業、パートナーズが運営しています。
「実店舗時代の『王様のアイディア』を運営していた金鳳堂(きんぽうどう)さんと、仕事上の関係は全くありませんでした」。そう歴史を振り返ってくれたのは、パートナーズでチーフバイヤーを務める桃原良太郎(とうばる りょうたろう)さんと、広報担当の平澤佳奈子(ひらさわ かなこ)さんです。
全くつながりがないところから、どのようにECサイト「王様のアイディア」は立ち上がったのでしょうか?
「私たちは企業のノベルティグッズ制作を行っています。強みは仕掛けがある動く製品の開発で、これまでのクライアントワークで得たノウハウやアイディアを自社のプロダクト開発に生かしたいと考えていました。2022年に自社プロダクトをメインとしたECサイトを立ち上げる企画が生まれた際、メンバーの一人が『王様のアイディア』に着目したんです」(桃原さん)
「『王様のアイディア』の名前を使わせてもらうため、実店舗を運営していた金峰堂さんに連絡を取りました。全くつながりがない状態からの相談でしたが、面白いアイディアを世の中に広めたいというパートナーズの思いが通じ、トントン拍子で『王様のアイディア』の商標を使用する許可を頂けたのです。過去に実店舗で扱っていた商品も仕入れたかったのですが、10年以上前の話ですから、生産数が少ないものや、新規で卸先を募集していないメーカーもありました。しかし『王様のアイディア』が復活するのであれば、と力を貸してくれる企業も多く、『王様のアイディア』という屋号には多くの場面で助けていただきました」と、笑顔で桃原さんは経緯を紹介してくれました。
では、「ECサイトの立ち上げまではスムーズに進んだのですね?」と、私がにこやかに話しかけると、桃原さんの顔は一瞬で曇り……。
「いいえ。その後が大変でした。パートナーズはBtoBビジネスを行っていたので、顧客の商品を開発しても在庫を持つことがありませんでした。自分たちでECサイトを立ち上げるにあたり、在庫の確保や保管、梱包(こんぽう)や発送の手順など、これまで経験したことのない課題が次々と出てきたんです。全く経験のないメンバーでしたが、次々と出てくる課題に、もうやるしかない!という気持ちで奮闘し、なんとかECサイトのオープンまでこぎつけました」(桃原さん)
苦労の末に立ち上がったECサイト版『王様のアイディア』。そこには懐かしいものから目新しいものまで、多様なラインアップが並んでいます。
「ECサイトでは、実店舗時代に売られていた往年の名作『ドリンキング・バード』『10万円貯まるBANK』『ニュートンのゆりかご』など、当時のユーザーを意識した商品と、もし『王様のアイディア』が令和まで続いていたとしたら仕入れていたと思われる現代のアイディアグッズ、そしてパートナーズが新たに開発した製品の3本柱で商品を構成しています」(桃原さん)
感情のこもったストーリーを体現できるまで、愚直に仮説検証を繰り返す
「ECサイトを立ち上げてから、一番売れているのがこの『ミャウエバー』です」と、広報の平澤さんから見せてもらったのは、猫が頭をうずめて寝ているぬいぐるみのようなアイテム。形はかなりデフォルメされており、ぱっと見では「猫のような何か」でした。
私は8歳から20代後半まで猫を何匹か飼っていた経験があるため、ミャウエバーが猫だといわれ、違和感を抱いてしまったのです。しかし、平澤さんに誘われるままミャウエバーを抱っこしてみると、ズシッと重く、ほんのり暖かい。条件反射で背中らしき所を少しさすってみると、あの懐かしい「ゴロゴロ」という声と共に微妙な振動が伝わってきたのです。
「なんだろう、落ち着く」。この感覚を確かに経験したことがあると思い出したのです。我が家の猫は、よく寒い冬になると私の首元までよじ登ってきて、こうやってゴロゴロしていました。その思い出がふとよみがえってきたのです。顔はないし体つきも我が家で飼っていた猫とは違いますが、同じような存在感がありました。
驚いている私の姿を見て、桃原さんはミャウエバーが生まれた経緯を話してくれました。
「このプロダクトは猫を飼っている社員の熱い思いからスタートしました。もっと猫と触れ合いたいという思いから始まり、猫の存在感があるプロダクトに落とし込みました。ミャウエバーに顔や手足がないのは、複数のプロトタイプを作成して『顔があるとキャラクター感が出てしまう』『手足をつけると逆に猫感がなくなる』など検証した結果、本当に猫を感じられる部分以外を削いでいった結果なんです。そうしたブラッシュアップにより、ペットロスやアレルギーなどで今すぐ猫を飼うことができないけれど、存在を近くに感じたいという方に購入していただける商品になりました」(桃原さん)
私自身、どんな仕事でも不要な部分を切り捨てるという判断は非常に難しいと感じます。パートナーズでは、プロトタイプを何回も作成し検証した上で、本当に必要な要素のみに絞り込んでいく作業を繰り返します。そういった一連のプロセスを自然に行っていることに驚かされました。
秘訣(ひけつ)は「そのプロダクトに対して熱い思いがある人、キーマンが存在しているかいないかだ」と桃原さんは教えてくれました。お世辞抜きで、こういう熱い思いのある方とものづくりをしたら楽しいのだろうなと心の中で思いました。
思いを大切にするパートナーズのものづくりは、この一風変わった扇風機にも反映されています。
「クライアントワークで培った開発力を生かし、2023年には子どもの夢をかなえるプロジェクトにも挑戦しました。「ねこのせんぷうき すずまる」は、扇風機が大好きな少年・涼介くんと一緒に開発したオリジナル扇風機です。涼介くんの兄であり小学生切り絵アーティストのKENくんのキャラクターデザインのもと、扇風機を作りたいという涼介くんの夢をかなえるお手伝いをさせて頂きました。
かねてより二人のファンだったパートナーズの社員が、涼介くんの夢を知り、その夢を実現させてあげたいという思いでプロジェクトを立ち上げました。こういった、誰かの夢をかなえるプロジェクトを引き続き行っていきたいと思っています」(桃原さん)
素人のアイディアは「王様のアイディア」に認められるか!?
空気も温まったところで、私は恐る恐るあるものを取り出しました。そう、自分で考えたアイディアのモックアップです。
「実は、今日は私もアイディアを一つ持ってきたので、ご意見を伺えれば……!」そう言った途端、桃原さんと平澤さんの表情が「はて?」と固まった気がしました。
雰囲気的に突然すぎたかも……? と思いましたが、同行していた編集部のスタッフは「行くしかないでしょう」といった目で訴えかけてきます。ここまできたら仕方ありません、思い切ってアイディアを会議室のテーブルに広げました。
予想通りお二人ともびっくりしている様子。全力でスベッてしまったかもしれないと思った私は、必死のプレゼンでリカバリーを図ります。
「これは漫画やアニメでよく見る、山盛りのご飯を模したお茶わんです! ご飯自体が器になっていて、並盛り分のご飯が入るんです。ボリュームが多くて山盛りご飯を食べられない人でも、これなら大盛りご飯を食べた気分になれます!」(筆者)
必死の解説を受けて、ようやく二人が笑ってくれました。アイディアが伝わり、ほっと一安心です。さらに桃原さんから、具体的なコメントが続きます。
「なるほど、面白い! ただ、食べ終わってもご飯の器が残っているので、食べた気分にはならないかもしれませんね。むしろ、ダイエットをポジティブに捉えられるグッズとして考えみてはどうでしょう。ご飯を山盛り食べたいけれど、実際には食べてないことが可視化できますから。もしくは、いっぱい食べそうな人に、このお茶わんを出すことで、あまり食べちゃいけない感じをやんわりと伝えるという使い方も面白そうです」(桃原さん)
「最近の食品トレーは立体的に加工され、少量の食材を見栄え良くしているものが普及しています。そこから着想を得てブラッシュアップするなら、周りからは普通のお茶わんに見えても、実は『上げ底』になっている器なんていかがでしょう。周囲に知られず量を減らせるお茶わんや弁当箱なら、ダイエットしていることを公言していない人にとってうれしいですよね。そういう魅力的なストーリーがあれば、商品化にもつながっていくと思います」(桃原さん)
次から次と湧いてくる桃原さんのアイディアに平澤さんも加わって、どんどん新しいアイディアが生まれました。きっとこのような会議がパートナーズでは日常的に行われているのだろうと思いました。
「ストーリーは本当に大事で、話せれば話せるほどモノは売れます。機能以上の付加価値が感じられれば、買う理由ができるからです。そういった意味では、このお茶わんからはストーリーが次から次へと思い浮かぶので、とても良いアイディアだと思いますよ」(桃原さん)
一発芸的に作ってきたプロトタイプに対する、桃原さんからまさかのうれしいコメント。私は思わず、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしてしまいました。
次のヒット商品は、あなたが作るかも?
今回のようなアイディアの持ち込みがあるのか伺ったところ、実際はほとんどないそうです。理由は至ってシンプルで、本当に良いアイディアを持っている方は自分でプロダクト化するし、もし本当に良いアイディアでも、よほどの見込みがなければ商品化には至らないからだそうです。
なお、ECサイト版「王様のアイディア」には、誰でもアイディアを投稿できる「Ideastation」があります。そこに投稿されたアイディアは、「ストーリー性」「マーケティング的な観点」「小ロットから制作できるか」などの点で評価され、総合的に勝ち筋が見えそうなものは商品化プロジェクトに進んでいきます。
「Ideastation」から生まれた「不在票付箋」は良い例で、不在票が気になってしまうというストーリーから、目について気づいてもらいやすいメモとしてアイディアが生まれました。さらに紙だけで作成できること、在庫を抱えてもリスクになりにくいなどの観点から製品化されたアイディアです。
私が持ち込んだお茶わんのように、ストーリーがあり、評価できるプロトタイプがある場合は、「王様のアイディア」のお問い合わせフォームから直接お問い合わせをしてもらってもよいとのこと。自身のアイディアから商品化を考えている方は、挑戦してみてはいかがでしょうか。
「王様のアイディア」立ち上げ秘話をお聞かせいただき、また冗談のような持ち込みアイディアに優しく対応いただきました桃原さん、平澤さんありがとうございました!