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倒産したAnkiのAIロボット「Cozmo」と「Vector」が復活、「第2の父」が目指すサステナブルなプラットフォームとは

成功例が少ない家庭用コミュニケーションロボットにおいて、珍しい買収があった。

小型コミュニケーションロボット「Cozmo」「Vector」の開発元であり、2019年に経営破綻した米AnkiのIP(知的財産権)を、EdTech企業である米Digital Dream Labsが買収。CozmoとVectorのサービス継続と、Digital Dream Labs版の新モデル発売を発表した。100万台以上が売れながらも一度は消えたAnkiのロボットを、なぜDigital Dream Labsは再起させようとしたのか。

欧州ではベストセラー商品、日本でも大手が販売したCOZMO

Ankiは米国カーネギーメロン大学でロボット工学を専攻していた卒業生が中心となって、2010年に創業した。社名は日本語の「暗記」が元となっている。

2013年にスマートフォンでミニカーを操作するゲーム「Anki DRIVE」を発表する。ミニカーにはセンサーが搭載され、コースや同時走行中のミニカーを検知しながら、ユーザーの走行パターンやクセを学習する。これまでにない機能を盛り込んだロボットミニカーは欧米で大ヒットした。

Anki DRIVEの紹介動画。相手のミニカーを攻撃する機能もあり、TVゲームのような世界観をリアルに体験できる要素が人気に拍車をかけた。

Ankiが同社最初のコミュニケーションロボットとなるCozmoを発表したのは2016年。PixarやDreamworks出身のアニメーターを開発陣に加え、表情による感情表現などアニメのような演出を施した。また、ユーザーがプログラミングすることで機能を拡張できるなど、STEM教育も視野に入れた機能で人気を博した。2017年にはイギリスとフランスのAmazon玩具部門でベストセラー商品になり、日本ではタカラトミーが同年9月に販売開始した。

日本での販売元タカラトミーによるCozmoのPV

2018年にはCozmoをパワーアップさせたVectorをKickstarterで発表。約187万ドル(約2億1130万円)の支援を集めた。同社が創業から2018年までに販売したロボットは約150万台。投資家からは総額で1億8200万ドル(約203億円)を調達するなど、向かうところ敵なしかと思われていた。

クラウドファンディングでの前評判は高かったVectorだったが、Ankiの倒産により一度は市場から姿を消した。

しかし、終わりは突然やってきた。Ankiは2019年6月に倒産する。魅力的なロボットは世界中で支持されたが、開発コストが重くのしかかった。クラウドサーバーとの通信を要するコミュニケーションロボットにとって、開発元の倒産は機能の大部分を失うことを意味する。Anki製ロボットは、そのまま死に絶えるかと思われた。

「第2の父」に名乗りを上げたDigital Dream Labs

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しかし、CozmoもVectorも死ななかった。2019年12月、Ankiと同じくカーネギーメロン大学の卒業生(こちらはビジネススクール出身)らによるEdTech企業のDigital Dream LabsがAnkiから知的財産権を買収したのだ。

「Vectorは死にません。DDLは第2の父になります。Ankiとは良き友人であり、古き良きピッツバーグを知る良き市民同士でもあります」と、Digital Dream Labs はエモーショナルなツイートを投稿した。

なぜAnkiのロボットを引き継ごうと決めたのか。Digital Dream Labs CEOのJacob Hanchar氏に、Eメールで一問一答形式のインタビューをした。

——Ankiのロボットを引き継いだ理由は?

買収の前年にあたる2018年に、私たちは「Puzzlets」というコミュニケーションロボットを開発しました。文字が読めない年頃の子供がロボティクスについて学べる製品で、大きな成功を収めました。その後、次のロボットの開発を検討していた際に、Ankiが倒産することを知ったのです。

私たちはプラットフォームを復元し、Ankiのロボットを再び使用できるようにしました。その一方でDigital Dream Labs版のCozmoやVectorの開発を進めています。

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Digital Dream Labs版のVectorとCozmoはカメラやセンサー、バッテリーがアップデートされている。SDKによる拡張機能も引き継がれる。 Digital Dream Labs版のVectorとCozmoはカメラやセンサー、バッテリーがアップデートされている。SDKによる拡張機能も引き継がれる。

——Digital Dream Labs版CozmoとVectorの予定について教えてください。

新型コロナウイルス感染症の影響で部品調達に苦労しましたが、量産を開始したところです。2022年の下半期には店頭販売を開始します。もちろん、近い将来には日本でも販売する計画です。また、「Cozmo and Friends」というTV番組を2022年の中頃には放送する予定で、非常に楽しみにしています。

Digital Dream Labs CEOのJacob Hanchar氏(写真提供:Digital Dream Labs) Digital Dream Labs CEOのJacob Hanchar氏(写真提供:Digital Dream Labs)

——STEM教育の切り口からユニークなコミュニケーションロボットが毎年登場していますが、Ankiのように撤退する企業も同じぐらいあります。このような厳しい環境で、Digital Dream Labsが新しいロボットを開発できるのはなぜでしょうか。

はっきりと言えるのは、市場にあまりにも多くのロボットが存在しているということです。各社とも競合が激しい状況を理解しつつも、この流れは当面変わらないでしょうし、新しいロボットも今後増え続けるでしょう。

CozmoやVectorはロボットではなく魂を持った存在であり、ユーザーにとって親切で良心的な仲間であり友達である——私たちが他社と違うのは、この点を理解していることです。我々はビジネスモデルをサブスクリプション型に変え、オープンソースにして開発キットを公開しています。これによって、持続可能性があり他社が真似できないビジネスモデルにシフトすることができました。

私たちのもう一つの利点は、ロボットだけを作るのではなく、自分たちでプラットフォームを所有していることです。Kickstarterにはロボットのプロジェクトが大量に掲載されていますが、消費者のさまざまなニーズに対応できるロボットを展開できる企業はほとんどありません。

ユーザーにとってはロボット以上の存在であるからこそ、開発者は持続可能なビジネスモデルとプラットフォームを提供しなければならない——Hanchar氏のメッセージからは、ユーザーの目線に立った経営方針がうかがえる。

買収後、Digital Dream Labsは自社の開発陣を使って、CozmoとVectorを新しく作り直すプロジェクトに着手した。その一方で、既存のAnki版ユーザーへの対応も進めている。

最初の一手として、クラウドサーバーへの通信を使うことなく、スタンドアローンでロボットを動かせる「Escape Pod」の販売を開始した。Raspberry Piをローカルサーバーとして機能させ、オープンソースによる拡張キットを通じて、ローカル通信でロボットを動作させる仕組みだ。万が一、Digital Dream Labsが撤退したとしても、クラウドサーバーの影響を受けずにロボットを利用できる。また、クラウドサーバー側のチューニングも実施し、改善結果をTwitterなどSNSで共有している

Ankiが運営していた開発者向けのユーザーフォーラムも引き継いだ。現在もユーザー同士でのコミュニケーションが続いている。 Ankiが運営していた開発者向けのユーザーフォーラムも引き継いだ。現在もユーザー同士でのコミュニケーションが続いている。

Anki買収後のDigital Dream Labsに投資した日本のベンチャーキャピタル、Monozukuri Ventures代表取締役 COOの関信浩氏はCozmoとVectorの再出発に期待を寄せている。

「製品の魅力は高かったにもかかわらず、コスト管理ができていなかった結果、Ankiは経営破綻しました。一方でDigital Dream Labsはコスト管理に成功していました。教育分野のロボットは将来性があるのに、Ankiの後を継ぐような製品が米国内で育っていません。そのため、Ankiが苦手としていたコスト管理をうまくカバーしながら、優れた知的財産を生かしたロボットをDigital Dream Labsが開発できれば、日本への再進出も支援できるのではないかと思い、Digital Dream Labsへの投資を決めました」(関氏)

米国外に目を向けると、中国では優れたロボットが開発されているが、外交や政治面の影響からネットワークを遮断されるリスクもある。そのため、米国内の企業同士での買収は理想的な展開だったと言える。

折しもSDGsに対する意識の高まりから、大量生産・大量消費に異を唱える企業が増えている。ハードウェア開発においても、優れた製品を長く愛し続けられるようなビジネスモデルが構築できるはず——Digital Dream Labsの行動は、単なる企業買収ではなく、大量生産・大量廃棄が実態のコミュニケーションロボット業界に一石を投じるかもしれない。

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