ストレイントロニクスを利用したナノスケールトランジスタの開発
2019/07/09 10:00
ロチェスター大学の研究チームが、強誘電体の圧電効果を利用して機械的ひずみを与えることにより、2次元材料を半金属状態から半導体状態へ、瞬間的かつ可逆的にスイッチングさせることに成功した。小型化の限界が近づく電界効果トランジスタに代わる、超高速で低消費エネルギーかつ低リーク電流のナノスケールトランジスタの開発に道を拓く技術として期待される。研究成果は、2019年6月10日の『Nature Nanotechnology』誌に公開されている。
2004年に発見されたグラフェンのような1原子層2次元(2D)材料は、柔軟性や弾性、そして特異な電子および光学特性を備えることから、活発な研究開発が進められている。その中で、機械的ひずみを加えることで相遷移を誘発し、電気的または光学的な特性の変化をもたらす「Straintronics(ストレイントロニクス:歪み電子工学)」が注目されている。既に、スタンフォード大学の研究チームが、グラフェンを用いた圧電材料の作製に成功しており、これまでに無かった手法で、エレクトロニクスや光学、コンピューター技術などを変革すると期待されている。
ロチェスター大学の研究チームは、電界効果トランジスタに類似したデバイス構造を用い、2D材料薄膜を強誘電性酸化物表面に積層し、ストレイントロニクスによるトランジスタの開発にチャレンジした。2D材料として、遷移金属ダイカルコゲナイドの1つMoTe2を用いた。トランジスタのゲート電極のように振る舞う強誘電体に電圧が印加されると、圧電効果によりMoTe2にひずみが加わる。その結果、MoTe2は瞬間的に、導電性の低い半導体状態から導電性の高い半金属状態へ変化する。電圧が除去されても半金属状態を維持する上、逆極性の電圧を加えることで、再び半導体状態に復帰する。
この不揮発性を備えた現象は、実際的な応用を考える上で、幾つかのメリットがある。第一に、常温で生じるとともに、非常に小さなひずみ0.4%で生じる。また、導電性状態を維持するのに電力を必要としないので、従来のトランジスタと同等の機能を、著しく低い消費電力で実行できるうえ、リーク電流も低く抑えられる。消費電力とリーク電流の問題は、従来の電界効果トランジスタをナノスケール化する上で、技術的限界があると考えられているが、開発技術はこのような問題を克服する可能性がある。
現在のところ、研究室における70回から100回の動作で、MoTe2は破断するという課題がある。研究チームは機械工学の専門家と一緒に解決方法を検討しており、「材料科学の問題で、必ず解決できる」と自信を見せている。研究チームは、また、色々な2D材料において、破断を生じることなく、どこまでひずみを負荷できるかについても探求している。
(fabcross for エンジニアより転載)