生きている植物をセンサーに——土壌中の有毒ヒ素レベルをモニターする光学センサーシステムを開発
2021/03/20 07:30
シンガポールとMITの共同研究機関であるThe Singapore-MIT Alliance for Research and Technology (SMART)の研究チームは、植物ナノバイオニクスを活用して、土壌中のヒ素をリアルタイムで検出、モニタリングする光学センサーを開発した。研究の成果は、『Advanced Materials』誌に2020年11月26日付で公開されている。
ヒ素は非常に有毒な重金属物質であり、人間や生態系にとって脅威となる。人間が長期間ヒ素を摂取すると、心血管疾患、糖尿病、発がん、先天性疾患など、さまざまな健康被害をもたらすことが知られている。
また、植物にもヒ素は毒性があり、土壌中のヒ素レベルが上昇すると成長は阻害される。人間にとっても、土壌中からヒ素を吸収した食用作物やヒ素で汚染された地下水により、慢性ヒ素中毒になる危険性がある。
新しく開発した光学センサーは、ヒ素を検出すると蛍光強度が変化するというもので、生きている植物に組み込むことで、根から植物に取り込まれたヒ素を非破壊的にモニタリングできる。CCDカメラを搭載したポータブル電子デバイスを用いて、生きている植物のヒ素の取り込みをリアルタイムで検出することが可能だ。
ヒ素の検出は、コメ、ホウレンソウ、ヒ素蓄積性シダ植物であるオオバノイノモトソウという3種の植物で実証した。研究者によると、他の植物種にも組み込むことができる。
従来のヒ素レベルの測定には、サンプリング、植物組織の消化、抽出、質量分析法などによる分析という多くの手順があった。この方法では、時間がかかり、大規模なサンプル処理と高価で大型の分析機器を必要とする。
今回開発した植物ナノバイオテックセンサーは、時間を短縮し設備を必要としないだけでなく、従来法よりも精度が高く導入も簡単だ。食品の安全のために食用作物に取り込まれたヒ素をモニタリングするという農業における応用と、一般的な環境モニタリングの両方で有用である。また有害元素の取り込みに抵抗性を持つ作物の研究にも役立つだろう。
(fabcross for エンジニアより転載)