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天地人が自社衛星開発を発表、2027年に打ち上げ予定——地表面温度の高解像度化を目指す

記者発表会に登壇した天地人代表取締役CEOの櫻庭康人氏(左)と、取締役副社長CSTOの百束泰俊氏(右)

宇宙関連スタートアップの天地人は、2025年1月27日に東京都内で記者会見を行い、自社開発の人工衛星を2027年に打ち上げる計画を発表した。衛星データと地上データとAIを活用したサービスを提供する同社が、満を持して自前の衛星を持つことで、より精緻な地表面温度データの取得と活用を目指すという。

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天地人は2019年に創業したスタートアップだ。JAXAからの出資を受け、これまでに各種衛星画像や地上センサー、統計データなどを掛け合わせ、AIで分析したソリューションを開発。インフラの老朽化対策や農業、再生可能エネルギー開発など、多岐にわたる分野の課題解決につながるサービスを提供している。同社の主要サービスの一つが、老朽化が深刻化する上下水道の調査/保守を効率化する「宇宙水道局」である。自治体が保有する過去の漏水事例や敷設状況を衛星データと組み合わせ、AI解析によって点検範囲を大幅に縮小できる点が評価され、国内の自治体との累計契約数は20を超える。

同社はこれまで、主に既存の衛星データを活用してきた。しかし、水道管や農地への精密な解析をさらに進めるには、従来のデータだけでは不十分だという。そこで鍵となるのが、地表面温度を継続的かつ高頻度で計測できる人工衛星を自社で開発することだ。

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地表面温度データは、ヒートアイランドや熱中症リスク、農作物の生育状況分析など、幅広い用途が考えられる。特に天地人が力を入れる水道インフラ分野では、地下に埋まる配管の劣化リスクや漏水リスクを、地上の温度変化パターンと組み合わせることで、水道管の検査/メンテナンスコストの大幅削減を実現している。従来の人工衛星データよりも、より精緻なデータを取得できる自社独自の人工衛星を打ち上げることで、従来から提供するサービスの精度がさらに向上するという。

例えば上下水道分野では漏水検知の精度向上や、水道管の劣化予測/予防保全が可能になり、地震や火山噴火時の被害状況把握にも役立てられるという。また農業分野では作物の生育状況をより精密に把握し、病害虫の早期発見や最適な品種選択に貢献できるとしている。

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これまで国の宇宙機関であるJAXAが主導していた人工衛星開発だが、近年では民間の技術力向上もあって、スタートアップでも開発/運用が可能になってきた。天地人の衛星開発チームを率いるのは、かつてJAXAで衛星開発に携わった経験を持つ取締役副社長CSTO(最高衛星技術責任者)の百束泰俊氏。同氏の他にJAXAから出向している複数の技術者と共に独自の人工衛星を開発する。

「打ち上げまで約3年をかけて、必要な機能を厳選した“シンプル設計”を目指す。自社ソリューションから得た実運用の知見を生かし、最小限のコストで最大限の価値を出せる衛星づくりを実現したい」と、百束氏は意気込みを語る。また自社開発の人工衛星は1基にとどまらず、事業の拡大に応じて順次打ち上げることを想定。そのためにも製造容易性に優れた設計が重要になるという。百束氏によれば、従来の人工衛星は多様な用途を想定し、さまざまな機能を盛り込んだ仕様になる傾向があるという。事業者は人工衛星から取得できるデータを取捨選択し、需要のあるサービス開発をするのが一般的だ。天地人は自社に必要なデータだけを取得できる人工衛星を開発することで、1基あたりの開発/運用コストを抑える狙いがある。また、設計もシンプルになることで、開発を長期化させないことも利点になるという。

天地人はすでにJAXAからの出資を受け、累計18.2億円以上の資金調達に成功している。今後は国内だけでなく、東南アジアや欧州をはじめ海外でも上下水道の老朽化問題に挑む計画で、「衛星が増えれば得られるデータ量や観測精度は格段に向上し、ソリューションもさらに強化される」という。まずは2027年の自社衛星打ち上げが第一関門となるが、衛星データの“川下”から“川上”へと事業を垂直統合していく同社の取り組みは、今後の宇宙スタートアップの新潮流になるかもしれない。

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