形が変わるマネキンを3Dプリントしたら大変だった
等身大のマネキンを作るにあたって、まず必要なのは3Dデータだった。
スキャンはケイズデザインラボさんのご厚意で、天王洲にある「SUPER SCAN STUDIO(スーパースキャンスタジオ)」というプロ仕様のスキャン専用スタジオで撮影した。この辺りから「思いつきでやることにしました」とは言えない雰囲気になっていく。
スキャンしたデータを3Dプリント用に補正したら、早速3Dプリントだ。全身を一度にプリントできる3Dプリンターは無いので17分割してプリントした。
今回の場合、加熱して変形した後も自立できるか、また再加熱した時にきれいに復元できるようにするためにはどのように3Dプリントするかが重要なポイントだった。当たり前だが過去に例が無いので、縮小モデルやパーツの一部を造形して、ベストな形になるまで実験を繰り返した。
これは高温試験室にプリントしたパーツを置いた時の様子。左の写真は内部の充填率を高くしたもの、右の写真は逆に充填率を低くしたものだ。
中身がある程度詰まっていると形は変えにくくなるが再加熱すると元に戻りやすい。一方、スカスカだと自由に形を変えられるが、再加熱したときにはフニャフニャになってしまう。こうしたテストを繰り返しながら、パーツごとにベストな充填率を探っていった。ここで得た知識が何に役に立つかは聞かないでほしい。
材料切れという悲劇を繰り返す
17分割して出力するとはいえ、等身大ともなるとパーツの大きさもそこそこのものになる。一番悲しいのはプリントしている途中での材料切れだ。
パーツを細かくすればこうしたトラブルは防げるが、接着面が目立ったり、パターン面が崩れて各パーツのつながりがずれてしまったりする可能性があるので、むやみにパーツを分けるわけにもいかない。このこだわりの先に何があるか正直なところ分からないが、その時は皆、真剣だった。
その後、数カ月の検証とプリントを繰り返し、ついにパーツが完成した。
完成したパーツを組み合わせる際に使ったのは3Dプリントペンだ。接着にも同じ樹脂を使えば機能面も見た目も損なわない。
こうして全パーツを接着してマネキン像が完成した。
撮影と変形
いよいよ撮影。今回の撮影は、専用の高温試験室があるキョーラクさんの研究室をお借りした。
慎重にマネキンを運び、試験室に入れる。
65度に設定された試験室にマネキンを置き、15分ほど置くと全身が柔らかくなる。
まずは変形の少ない腹のへこみからチャレンジしたが、全く腹がへこまない。どうやら中心部分まで熱が伝わっていないらしい。かといって試験室に長時間入れておくと、手足など細いパーツがぐにゃぐにゃになってしまうので、場所を移動してヒートガンを当ててみる。
加熱しすぎてマネキンが溶けないように注意を払いながら、腹と背中の両面からヒートガンを当てていく。
熱した表面で火傷しないよう軍手をはめて、がんばって押したらなんとかへこんだ。
もう一度見てもらうと微妙に腹がへこんでいるのがわかるだろうか。このコマは時系列の逆(バナナが無くなって腹がへこんでいない状態)から撮影しているのだが、腹のへこみ具合があまり目立たない結果になった。うん、こういう日もある。
以降、撮影しては加熱して少し折り曲げることを繰り返し、丸一日かけて撮影した結果が、ひとつ前のページの成果だ。
撮影を終えてマネキンは、一部破損した部分を直すためキョーラクの研究室で修復中。機会があれば気温が50度を超えることが日常的にあるという、ジブチ共和国に置いてみたい。
取材協力:キョーラク、SMPテクノロジーズ
制作協力: SUPER SCAN STUDIO(スーパースキャンスタジオ)、ケイズデザインラボ(3Dスキャン・データ作成)、GENKEI(3Dプリント)
モデル:宮田明彦
撮影:加藤甫