家庭菜園をDIYとセンサーで楽にしたい!スマート雨量計を自作してみる
家庭菜園をやっていると、最大の関心事は降水量です。特に菜園が自分の家から遠く離れている場合は、作物の様子も分からず降水量が大変気になります。そこで今回は、DIYで雨量計を制作し、さらにIoTを利用して畑の降水量をリアルタイムで把握する実験をしました。
はじめに~IoT実験農園について
私は知人所有の農地(250坪)を 、整備(早い話が草刈り)を手伝うことを前提に無償で使用させてもらっています。知人から農地整備の協力依頼を受けたのが2019年の秋。「ここまで生えるか」というぐらいに生えた草を刈り、何度も耕運機を入れてようやく作物が採れる状態になりました。
雑草との戦いが続いた整備の初期段階に、「なぜ、農地が荒れ果てた状態になってしまうのか?」と考えました。理由のひとつには「だんだんと農地の状態への関心が薄れる」ということがあるのかも知れません。特に自宅から離れた場所にある家庭菜園では、「菜園に行けない時、どうやって畑の様子を知るか」は切実なテーマです。先ほどの農園は筆者の自宅から50㎞ほど離れた場所にあり、足を運ぶ機会も少なくなりがちです。実際、昨年(2020年)は20回程度しか行けませんでした。農地に行けない間も、現地の様子が少しでも分かれば「次はこうしよう」と前向きな意欲も出るのかも知れません。逆に何の情報もなければ、農地との心理的な距離はだんだんと広がっていくことでしょう。再びこの農地を荒廃させないためには、農地の遠隔モニタリングが必要だと感じ、当初より「IoT実験農場」と名付けて農作業の合間に実験の準備を進めてきました。
昨今ではIoTの技術を利用して、画像や動画による遠隔監視や、温湿度監視の事例も一般的になりつつあります。どれも畑の様子を知るためには効果的です。しかし、筆者が一番知りたいのは降水量なのです。「今日、雨が降っただろうか」という心配こそが、実は筆者にとって非常に切実なものだと気づかされました。雨が降るとあらゆる植物(雑草も作物も)が元気になり、逆に降らなければ元気を失います。雨次第でやるべきことも当然変わってくるわけです。
そこで今回は、植物の生育(雑草も含む)に重要な役割を果たす「降水量」を、ハンドメイドの雨量計を使って調べる実験をしました。
雨量計のしくみ
「降水量を測る」仕組みとしてすぐ頭に浮かぶのが、天気予報などで耳にするアメダスです。アメダスとは、Automated Meteorological Data Acquisition Systemの略で、「地域気象観測システム」と呼ばれています。全国に1300カ所の測定点があり、埼玉県には14箇所の測定点があります。アメダスでは降水量を「転倒升型雨量計』で測定します。
これは「転倒升」というシーソーのような機構が内蔵されていて、1つの転倒升に0.5mmの雨がたまると、その升が倒れて、もう1つの升に雨をため始めます。升が倒れるときに0.5mmの雨が降ったという信号を発生させ、これをコンピューターで処理します。
参考 https://jnk4.info/www/jyouhou-kiki/sozai/4201/index.html
降水量の測定は人命や社会活動に大きな影響を及ぼすので、「転倒升型雨量計」は精密にできていて、価格も高価(10万円前後から)です。しかし、原理だけ見ていると精度や信頼性は別にして、「畑に雨がどれくらい降ったか」を遠隔地でモニターする仕組みは自作できそうです。そのために、構成要素ごとに以下のステップを踏みながら試作をすることにしました。なお、転倒升の部分はししおどしのような機構を選択しました。
DIY雨量計の構成要素
- 雨を集める部分
- 転倒升+信号検出部
- 降水量データを送信・可視化する仕組み
なお、このDIY雨量計を制作するに当たり、③降水量データを送信・可視化する仕組みはもともとIoT実験農園に設置されているオプテックスの「Sigfox ドライコンタクト・コンバーター」を使用し、それ以外は極力身の回りで簡単に入手できるものを使用しました。また、設置後に現場で調整できるような仕組みを取り入れ、少しでも信頼性が上がるように工夫をしました。
試作(1)雨水コレクターを作る
まず、雨水を集めて転倒升に送る部分の試作を行いました。この部分については「雨水コレクター」と名付けました。雨水コレクターの上部は必ず水平に配置しなければならず、かつ転倒升に確実に雨水を導く必要があります。アメダス雨量計などでは非常に厳しい設計基準がありますが、まずは確実に動作することを念頭に置いて試作を行いました。
何度かの試作を経て、ホームセンターで手に入れた2種類の異なる漏斗を上下に組み合わせ、上部の漏斗が絶えず水平になるようにしました。下部の漏斗は転倒升の集水部に雨水を導けるように調整できます。これらの機構を収めるボディは、100均で購入した冷水ポットを使用しました。この機構であれば特別な工具の知識がなくても簡単に制作可能です。
試作(2)転倒升+ピックアップを作る
次に、集められた雨水を信号に変える「転倒升+ピックアップ」の試作です。当初、転倒升のイメージとして「計量スプーンでししおどしを作ればいい」と軽く考えていました。しかし、計量カップは多くの場合半球形をしていて、転倒しても雨水がうまく抜けません。そのため、ししおどしのような動きは思ったように再現できないということが続きました。
何種類かのスプーンを試し、最終的には使い捨てのプラスチック製のスプーンにたどり着きました。なるべく柄の部分に角度がついていないものを選び、さらに先端部を切断して転倒升のアクションが安定して繰り返せるような形状を探りました。
転倒升のアクションは、無電圧接点によってオン/オフの信号に変えます。今回は転倒升が作動していないときには接点がオン、作動したらオフになる(Normal Close)回路を組んでいます。ただし、自作した転倒升が軽すぎるため、リミットスイッチや磁石で作動するリードスイッチは使用できません。そのため、転倒升の後部にアルミのプレートを配置し、その下部に接点(M3のねじ)を配置しました。それでも転倒升が軽すぎて接点の接触が不安定になるので、100均で購入した電池式のランタンに使われているスプリング付きの電極を取り出して、ねじの上に取り付け、確実に接点がオン/オフできるようにしました。動作の様子は、動画をご覧ください。
なお、転倒升の取り付けや軸間調整のために使用する軸受は、ベルクロで止めています。軸受はM5Cameraに付属していた簡易スタンドの部品を使用しました。台座は試作段階では発泡スチロールのパネルで制作し、最終的には木材で制作しました。
これらの構成要素を、100均で購入した台所用の棚で作ったシャーシの上に載せて、総合的な試運転を行って完成です。試運転は実際に水を雨水コレクターから入れて、テスターで接点の動作を確認しながら行いました。
試作(3)IoT部分の設計
最後は雨水の信号をクラウドに送信・可視化する部分の仕組みです。
この実験では、屋外に設置して安定的に送信できる利点を生かし、オプテックスのSigfox通信規格デバイス(ドライコンタクト・コンバーター)を使用して、ソラコムが提供しているデータ収集・蓄積・可視化システムSORACOM Harvestに降水量のデータを送信・可視化しました。なお、最終的にはSORACOM Lagoonというサービスを使用し、よりグラフィカルに可視化しています。
ドライコンタクト・コンバーターは、IoT実験農園にもともとインフラとして設置してありました。普段は別の用途に使用していましたが、今回はDIY雨量計に接続して、降水量データを送信するために使用しました。DIY雨量計の信号線をドライコンタクト・コンバーターの入力に接続し、DIPスイッチを検出動作に合わせて設定します。現場での接続作業は15分程度で終わります。
ドライコンタクト・コンバーターは、接点の開閉回数をSORACOM Harvestに送信します。通常であれば、転倒升が作動して接点が離れた回数だけを測定すればよいのですが、今回は安定性の検証のために「接点が戻ったとき」も検出できるモードに設定しています。
なお、ソラコムのサービスを使用して、Sigfox規格のデバイスからデータを得るためにはユーザー登録(クレジットカードが必要です)し、
- Sigfox規格のデバイスのIDなどをSORACOMに登録する
- デバイスのデータ送信に合わせた設定を行う
- SORACOM Harvestの使用を申し込む
という手順が必要になります。
一連の設定に関しては、特別なプログラムの知識などは必要ありません。だいたい1〜2時間の設定作業でデータ送信の準備は完了します。
農園に設置する
畑に設置する際は、転倒升にカバー付けました。100均で購入した台所用の棚を使用したのは、デバイスを地面から距離を取って設置したかったためです。
実際の測定
DIY雨量計を試作・制作していた4月下旬は好天が続きました。そこで、天気が悪くなる予報を待って、5月のはじめにようやくDIY雨量計をIoT実験農園に設置しました。待望の雨は5月5日に降り、DIY雨量計からのデータ送信も確認できました。
雨量計からは、転倒升が作動したら「1」、転倒升が元の位置に戻ったら「0」のデータが送信されます。「1」のデータの数×0.2㎜が、その時点での降水量であると思われます。降水量に関しては、信頼性の高い雨量計と同位置・同時測定を行うべきですが、機材の都合上できませんでした。そこで、このデータ送信の裏付けとして地元の方に降雨の有無を同日確認したところ、データ送信のあった時間帯に降雨があったとのこと。付近のアメダス雨量計でも同日の14時台に0.5㎜の雨量が観測されており、DIY雨量計の観測データとも時間帯的に一致しています。降水量に関しては、今後精査が必要です。
まとめ
身近なもので制作したDIY雨量計をIoTの組み合わせることによって、自宅から離れた農園の様子をリアルタイムで知ることができるようになり、より良い農園の管理に一歩近づきました。雑草も作物も、雨のあとによく生育します。畑に行けない日にも農園に関心を持ち、農作業のタイミングを逃さないためにDIY雨量計は役立ちそうです。
自宅から離れた場所にある家庭菜園の降水量が分かると、現在の畑の状況を知る重要な手がかりを得ることができます。4〜5月には多くの作物の植え付けを行いました。植え付け後にどれくらい雨が降ったか、感覚ではなく「10日間で○○㎜しか降っていない」と数値で知ることができれば、何とか時間を作って畑に行こうと考えます。地元の農家の方は、雨を肌で感じて農作業の計画を立てますが、それができない筆者にとって、雨をWeb上で感じることができるDIY雨量計は非常に頼もしい存在です。
DIY雨量計を設置した当日、農園にサツマイモの苗を植えましたが、こういう瞬間ほど雨を恋しく思うことはありません。植えたばかりの苗はとても乾燥に弱いからです。幸い、数日後には雨量計から降雨のデータが送られてきました。去年以上により良い収穫のためにDIY雨量計が少しでも役に立てばと願っています。