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日本のファブ施設調査2024——10年を振り返る

fabcrossでは2015年から国内のファブ施設(メイカースペース)の動向を調査しています。今年も編集部による調査を基に、日本各地のファブ施設の運営状況をまとめました。

2024年に確認できた施設数は160、4年連続の純増

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2024年11月時点で日本に存在するファブ施設は、2023年から6件増(新規オープン4カ所、既存施設2カ所追加)の160件、4年連続で純増という結果でした。

2015年の調査開始から10年がたち、ファブ施設が日本各地で着実に根付いていることがうかがえる結果になりました。この10年を振り返ると日本のファブ施設動向はいくつかのフェーズに分類できます。

ファブ施設の10年を振り返る

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調査を開始した2015年から2018年の4年間はファブ施設が日本各地に広がったことがグラフからうかがえます。2011年に日本初のファブラボである「ファブラボ鎌倉」と「ファブラボつくば」がオープンしていることを踏まえると、2010年代に入ると同時にファブ施設の勃興期が始まり、Makersムーブメントによって都市圏を中心にファブ施設が誕生し始めた2015年ごろを起点に一気に施設数が増加。その波は2018年まで続きました。

2019年に入ると採算性の問題から日本各地でファブ施設の閉鎖が相次ぎ、調査開始から初めて減少に転じます。当時の取材を振り返ると、利用者数が想定していたよりも少なかったケースや、マネタイズが思うようにできずに撤退したケースが多かったようです。

また2020年には富士通が出資して立ち上げた「TechShop」など比較的大規模なファブ施設が相次いで閉鎖、コロナ禍の影響も重なり施設数はさらに減少します。一方で2017年あたりから既存の施設の中にファブ施設を設ける事例が増えるなど、ファブ施設の在り方にも大きな変化が起きていたことを忘れてはいけません。

カインズが運営する「カインズ工房」(2016年撮影) カインズが運営する「カインズ工房」(2016年撮影)

ホームセンターや電子パーツ販売店で買ったものをその場で加工できる工房付き店舗は、この10年で浸透しつつあります。2022年には無印良品が再生材フィラメントを活用した3Dプリントサービスを店舗内で開始するなど、大手の小売りでもデジタルファブリケーションによるカスタマイズを提案する事例も生まれています。また、図書館などの公共施設や、企業や学校にファブ施設を設けるケースも増えています。仕事や授業に関係なく、自由にものづくりをできる環境を提供したいという背景からスタートした施設が当初は多かった印象がありましたが、ここ数年は素早く事業を立ち上げる人材育成の場としてファブ施設を導入するケースも増えています。

こうした「施設内ファブ施設」はファブ施設調査の対象には含まれていませんが、この10年の歩みから派生した流れとして、今後も取材を続ける予定です。

コロナ禍以降のファブ施設——キーワードは地域と教育

東京 下北沢にある「シモキタFABコーサク室」 東京 下北沢にある「シモキタFABコーサク室」

2020年以降は小規模なファブ施設が増加し、地域のものづくりコミュニティを支える役割を担っています。この背景にはいくつかの要因が絡んでいます。一つはデジタル工作機械の低価格化がさらに進んでいることが挙げられます。3Dプリンターは5万円以下で導入でき、消耗品も大手ECサイトで簡単に手に入るようになりました。レーザーカッターも当初は100〜200万円台の大型レーザーカッターがメインでしたが、近年は卓上サイズで50万円以下のものを導入するケースも目立ちます。

神奈川県横浜市にある「Little Hopper」は子ども向けの教室も兼ねたファブ施設 神奈川県横浜市にある「Little Hopper」は子ども向けの教室も兼ねたファブ施設

二つ目にはプログラミング教育の本格化に伴って、電子工作やデジタルファブリケーションを学ぶ子ども向けの教室が増えていることも挙げられます。2020年代に入って、小中学校と高校でプログラミング教育が必修科目となりました。これを期に、MinecraftやScratch、micro:bitなどを使ったプログラミング教室が増加。プログラミング教育ポータルサイト「コエテコ」に登録されているロボット/プログラミング教室は約1万5000件と、その急成長ぶりがうかがえます。こうした流れを受けて、デジタルファブリケーションや電子工作を取り入れる教室も徐々に増えており、一般利用可能なファブ施設として運営するケースも出始めています。

一方で今年は「DMM.make AKIBA」が施設運営をクローズ。長きにわたってクリエイターやスタートアップを支援してきた日本の代表的なファブ施設の終了を惜しむ声がSNS上でも話題になりました。大型のファブ施設は減少しているようにも見えますが、東京都が運営する「TIB」や愛知県の「STATION Ai」など、行政が運営するオープンイノベーション拠点に工房機能を設ける動きが進んでいます。

来年以降、ファブ施設をめぐるエコシステムがどのように発展するかを見守りつつ、今後も調査と取材を継続したいと思います。

最後に今回のファブ施設調査と連動して、fabなびでファブ施設を取材する傍ら、運営する立場を担うことになったライター淺野義弘さんにインタビューを実施しました。こちらも併せてご覧ください。

取材先を募集しています

この記事をご覧になった方の中で、ファブ施設運営者の方や関係者の方がいましたら、お気軽にお問い合わせフォームからお声がけください。取材の条件としてはオープンから1年を経過していることと、一般の方が利用できるファブ施設を対象としています。

なお、関東圏以外の取材については、すぐに実現できない場合もあります。あらかじめご了承ください。

調査概要

本調査は、2023年12月24日から2024年12月1日にかけて、主にこれまでの取材記録やインターネット検索、プレスリリース、Eメールおよび電話での取材を基にしたものです。

対象施設

有料/無料を問わず工作機械が利用可能な施設
利用者が自ら工作機械を操作できる施設

対象外施設

社員や生徒などに利用者を限定する企業/学校内施設
利用者が機械を直接利用できない制作/加工に特化した施設や店舗
ホームセンター内の施設など、小売店の一機能として提供している施設(2020年度調査より)

調査結果をまとめたグラフはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示–非営利–改変禁止 4.0 国際)の範囲であれば、ご自由にお使いいただけます。

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