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一人で農作業をしてる人を見守るIoTデバイスをつくってみた! ~熱中症アラート+SOS通知~

真夏の暑さの中での作業は、たとえ家庭菜園の短時間作業でも体力的に大変つらいものがあります。兼業農家や専業農家の方は夏場でも毎日作業しています。この夏、慣れない作業のせいもあり、私は非常に暑い中の作業にリスクを感じました。そこで、IoTの技術を応用して「熱中症アラート」を農家さんのスマホに送信する見守りデバイスを試作してみました。

※この作例は試作につき、実際の農作業等で使用する際にはご自身の判断にてお願いいたします。暑さ指数の計算式等に関しては執筆時点で入手した文献からの見解となります。

真夏に、一人で農作業をすることのデメリット

私は250坪程度の家庭菜園を、地主さんと共同で耕作しながら管理しています。時折、IoTデバイスの試験などを行いつつ様々な作物を育てています。今年の5月にはサツマイモを植えましたが、その頃はちょうど雨が降らない日々が続いて植えたばかりの苗が心配でした。しかしその後は非常に多くの雨に恵まれ、サツマイモは無事に収穫を迎えました。

 

植えたばかりのサツマイモの苗(左)。雨が降らず、弱々しくなりました。しかし、その後の雨のおかげで立派に育ちました(右)。 植えたばかりのサツマイモの苗(左)。雨が降らず、弱々しくなりました。しかし、その後の雨のおかげで立派に育ちました(右)。

サツマイモを育てたのはこれで2年目ですが、ジャガイモに比べると非常に手のかかる作物であることがわかりました。サツマイモは地面に蔓(つる)を這わせて成長しますが、世話をしなければ蔓がうまく育ちません。 このために、畑に行くたびに蔓返しという作業を行いました。地面に這っている蔓の方向を変えてあげるのですが、これがなかなかの重労働です。

加えて、今年の夏は非常に暑い日が続きました。手作業中心の農作業は大変です。雨も多く雑草もよく育ち、農作業の多くの時間を雑草との戦いに費やすことになりました。つまり、機械化できる作業は非常に少なく、手作業が多かったのです。

私の場合は週末だけの作業ですが、兼業農家や専業農家の方々は毎日のようにこの作業を行っています。慣れない作業がしんどかったせいもあり、非常に暑い中の作業に私はリスクを感じました。

実は、暑さだけが夏の農業のリスクではありません。収穫以外の時期は、一人で作業をしている方が多いのです。収穫以外は一人で作業……妙に納得してしまいました。私の家庭菜園の周辺をよく見回すと、規模の大小にかかわらず農作業を一人でやっている人を多く見かけます。 おそらくは兼業農家の方や、先祖代々の小規模な畑を営んでいる方が多いのでしょう。

作業の内容は手作業であったり機械を使ったりといろいろです。 涼しい日であればそれほど問題はないのでしょう。しかし猛暑日が続く中、一人で毎日作業を続けるというのはできれば避けたほうがいい。自分が酷暑の中で作業しているときにそう感じました。誰かと作業をしていれば、「暑いから休もう」と話し合うこともできます。それに不調をきたしても、もう一人の仲間に助けてもらえる可能性が高くなります。

何よりも、一人で作業をしていると「気づかないうちに」酷暑の中でだんだん体力を奪われていく可能性があります。

来年に向けて

来年はいよいよ第3シーズンに突入します。IoTで自分を含めた農家の方に貢献できるテーマを選び、何か試作したいとこの夏に考えました。しかし何よりも強く浮かんだのは「暑い!」の文字です。涼しく作業をする工夫ができれば一番ですが、無理せず農作業をし、適度な休憩や万が一の際に役立つ通知の仕組みも、きっと大切なはずです。

そこで、来年の夏に備えて「農作業と熱中症リスクの回避」「農作業者の見守り」というテーマを解決するために、『熱中症アラート+SOS通知』のシステムをIoTを利用して作ることにしました。

システムの構成

このデバイスで達成したいことは次の3つです。

  1. 畑の真ん中に設置しても、温湿度を測定し熱中症アラートを計算によって算出できるデバイス(電池駆動)。
  2. 非常に簡単な仕組みでクラウドに接続し、熱中症アラートを農作業中の方のスマホにLINEで送ることができる。
  3. 万が一体調不良に陥った場合、デバイスに設置されたボタンを押すだけで家族などのLINEにアラートを送ることができる。

特に重要なのが2でした。1に関してはマイコンにM5stackを選定すれば、バッテリー駆動で安定して計測が可能になります。2に関しては少ない消費電力でアラートを送信するデバイスを探し、今回はソラコムのIoTデバイス「SORACOM LTE-M Button Plus」を選定しました。
https://soracom.jp/store/5207/

SORACOM LTE-M Button Plus(ソラコムのホームページより) SORACOM LTE-M Button Plus(ソラコムのホームページより)

達成するための機器構成

今回は、「畑の真ん中でも使用できる熱中症アラート+SOS通知」を実現するために、バッテリーで駆動可能なデバイス2種類と、センサー/リレーを組み合わせて図(1.1)のような機器構成でシステムを組みました。また、図(1.3)は実際に構成図通りに組んでみたものを撮影したものです。なお、バッテリーは試行錯誤の末、IoTデバイス用バッテリーという、保護回路のないものを選定しました。こちらに関しては検証を続けています。

図(1.1)今回のハードウェア構成図 図(1.1)今回のハードウェア構成図
図(1.2)構成部品リストと価格 図(1.2)構成部品リストと価格
図(1.3)実際に組んでみたところ(写真)動作確認のために、テスターを接続中。 図(1.3)実際に組んでみたところ(写真)動作確認のために、テスターを接続中。

動作の仕組みは以下の通りです。

  1. 6分に1回、M5stackとENV IIセンサーによって、温湿度を測定。測定時以外はM5stackはDeepSleepモードに入り電池を節約。この機能を使用するために、実稼働に合わせてモバイルバッテリーをIoT用のものに変更。
  2. 測定された温湿度をもとに、M5stackで暑さ指数(WBGT)を算出。今回は専用の測定器を使わない簡易的な計算方法として、後述のドキュメントを参考にして計算式を採用した。
  3. もし、WBGTが28.0(℃)を超えた場合、リレーを作動させてSORACOM LTE-M Button Plusの接点をON(ダブルクリック)にして、LINEに通知を送るためのトリガーをSORACOM Harvestに送る。
  4. なお、SORACOM LTE-M Button Plusのボタンをシングルクリック/長押しした場合にも別の用途のアラートが送信できるように工夫(これは、ハードではなく、SORACOM側での設定で実現)。
図(1.4)今回のIoTのフロー 図(1.4)今回のIoTのフロー

図(1.4)は今回のIoTの仕組みのフローです。今回はインターネットにアラート信号を送り、LINEにメッセージを送信するプロセスではプログラミングを一切していません。もちろん、SORACOMのサービスの種類によってはその前後でプログラミングの要素が必要となる場合もあります。今回使用したSORACOM LTE-M Button PlusでIoTの仕組みを構築する場合には、データ蓄積サービス「SORACOM Harvest」、可視化およびアラート管理サービス「SORACOM Lagoon」を組み合わせることによって、ほぼ設定だけで構築を完了できます。

  • また、LINEへのメッセージ送信にはSORACOMのLTE-M Button Plusを使って通信し、LINE Notify経由でご家族/農作業者のスマホにアラートが到達する仕組みです。 
  • SOSボタンだけは大切な仕組みなので、外部ボタンを使用しています。

コードの概要

今回、温湿度計測とWBGTの算出、リレーを介して熱中症アラートのトリガーをLTE-M Button Plusに送る役割をM5stackが担っています。動作のためのコードをここに示します。今回はVisual Studio Code + Platform IO IDE を使用して作成しました。コ ードは下記に記載されています。
https://github.com/publicev4828/mimamori2021-10-25

コードを書くうえで、M5stackの技術的な情報が幅広く網羅されている下島健彦先生の「みんなのM5stack入門」を参考にさせていただいています。また、クリックタイプをリレーで制御する方法は、ソラコムの下記のサイトに情報があります。
https://users.soracom.io/ja-jp/guides/iot-devices/lte-m-button-plus/arduino/

コードを書くうえで工夫した点は下記のとおりです。

  • SORACOM LTE-M Button Plusは1(シングルクリック)、2(ダブルクリック)、3(長押し)の3種類の信号を送信できるので、熱中症アラートはコード上でリレーを「ダブルクリック」のように動作させ、2の信号を送信できるようにした。
  • (後述)LTE-M Button Plusのダブルクリックは「2秒以内に2回クリック」と決められているので、リレーの動作もそれに合わせている。
  • 温湿度の測定に使用したENV Ⅱのライブラリはリリースされていないので、ENV Ⅲ用のライブラリを使用した。
  • ENVⅡのためにGROVEコネクターを使用するので、拡張ユニット「M5GOBaseLite」をボトムに配置し、RELAY UNITは26番PINを指定して接続。

なお、測定→計算→発報の一連の動作を確認するための試験を行った際の動画を用意しました。アナログ式のテスターの針の動きから、ダブルクリックのタイミングを体感いただければ幸いです。

熱中症アラートの計算

熱中症アラートを計算するには、一般的に「暑さ指数」という指数を使用します。暑さ指数や計算方法については、国野 亘先生が運営している「ボクにもわかる電子工作のブログ」の、下記を参照して作業を進めました。
https://bokunimo.net/blog/ichigojam/29/

暑さ指数を計算するためには、湿球黒球温度WBGTは、国際規格化されている暑さ指数の一つです。WBGTの単位は℃なので、直感的に分かりやすい指標です。しかし、その測定には湿球黒球温度計という専用の計測器が必要です。また、より簡易な方法で測定する方法として、温度と湿度から推定する方法があります。

今回は上記の専用の機器を使用せず、汎用的な温湿度センサーを使用しています。そのほかの条件(屋外で使用)等を考慮して、簡易的に計算する方式を使用しています。

前述のサイトから引用しますが、今回使用した暑さ指数の計算式は下記のとおりです。

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なお、計算式の詳細はここでは説明しませんが、ご興味があれば引用元の記事内のリンク等から情報を得ていただければ幸いです。

今回、WBGTを身近に測定できる要素だけで計算できる式がなかなか見つかりませんでした。この試行錯誤の過程ではソラコムのユーザーグループ、SORACOM UGのKenichiro Wada氏に多くのヒントをいただきました。この場をお借りして感謝申し上げます。

アラート送信から、LINEに通知が行くまでの仕組み

アラートデータをクラウドに~2つの送信パターンとSORACOM Harvest~

今回の試作では、「熱中症アラート」と「SOS(ボタンを押して送信)」の2つのアラート・トリガーをSORACOM LTE-M Button Plusのボタン入力を使用して送信できます。

「シングルクリック」「長押し」はケースの上面から直接LTE-M Button Plus本体のボタンを押せるように工夫しました。緊急事態に陥った方が「シングルクリック」「長押し」どちらのアクションでも緊急事態のアラートが送信されるようになっています。

LINEに通知が送信されるまでの工程ではプログラミングを一切せず、SORACOM HarvestとSORACOM Lagoonの2つのサービスを使用して実現しています。LTE-M Button Plusは、3つの入力パターンに対応しています。ダブルクリックのほかに、「シングルクリック」「長押し」です。

図(2.1)数値データとして可視化されたクリックタイプ(SORACOM Harvest使用) 図(2.1)数値データとして可視化されたクリックタイプ(SORACOM Harvest使用)

SORACOM LTE-M Button Plusが非常に便利なのは、e-SIMが内蔵されており、電源を入れた瞬間から各種IoTサービスが使用可能な状態になることです。上の写真は今回使用したSORACOM Harvestの可視化機能を使用して、LTE-M Button Plusから送信されてくる3種類の入力パターン(クリックタイプ)を可視化したところです。1から3の入力パターンは、このように数値として送信されSORACOM Harvestに蓄積されます(必要に応じて可視化もできます)。

SORACOM Harvest使用までの手順は下記の通りです。
https://users.soracom.io/ja-jp/guides/iot-devices/lte-m-button-plus/

LINEへの通知~SORACOM Lagoon

SORACOM Harvestで蓄積されたアラートのデータをもとに、LINEに通知を送信する役割をするサービスが、SORACOM Lagoonです。SORACOM Lagoonはデータをグラフ化する際に使用する可視化ツールですが、データをもとにアラートを発報する便利な機能もあります。今回はLINEにアラートを送信することを目的に使用しました。
https://soracom.jp/services/lagoon/

LINEに通知を送信するためには「LINE Notify」という、LINEが無料で提供しているサービスを使用します。サービスを使用する際のトークンは下記のページから入手することができます。

LINE Notify
https://notify-bot.line.me/ja/

図(2.2)データとして可視化されたクリックタイプ(SORACOM Lagoonを使用)。各グラフの赤い帯はアラートの閾値を示している。 図(2.2)データとして可視化されたクリックタイプ(SORACOM Lagoonを使用)。各グラフの赤い帯はアラートの閾値を示している。

上の写真は、3つの入力パターン(クリックタイプ)がいつクリックされたかを可視化したグラフです。同じグラフが3つあるのは、3つの入力パターンに応じてアラートをそれぞれ設定しているためです。それぞれのグラフの、赤い部分がアラートの閾値になります。この範囲に数値が入ったときに、アラートがLINEに送信されるのです。

最終的にご家族と農作業者のスマホに通知が届く仕組みになっています。

図(2.3) アラート通知の例 図(2.3) アラート通知の例

作ってみた! 

以上が、今回試作したデバイスの概要ですが、ここからは実際に畑で仮組した試作機で実験したり、ケースに入れて最終形にもっていくまでの様子を示します。なお、この段階ではDeepSleepを機能させておらず、普通のモバイルバッテリーで実験しました。

畑でのテスト(仮組)

写真(3.1)仮組での試験 写真(3.1)仮組での試験

夏の日差しのまだ残る9月の農作業日に、まずは仮組した試作機でのテストを行いました。この家庭菜園での2例目の実験になります。畑に試作機を放置して動作確認をしました。WBGTは熱中症アラートとして使用する場合は、今回の数式だと28.0(℃)以上でアラートが出るように設定します。しかし、今回は夏に比べて日差しも優しく、22(℃)程度に設定をして実験を行いました。結果、LINEにアラートが送信され、実験は成功しました。

実験後に、試作機を使用した感想を、農業を指導してくださっている地主さんに伺うと、

  1. WBGTがアラート条件を超えた状態が続くと、頻繁にアラートがLINEに届くので間隔を長くする。
  2. SOSの押しボタンはSORACOM LTE-M Button Plusのボタンをそのまま使用したい。
  3. 持ち運べた方がいい。

などの意見が出ました。

ケースに実装

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写真(3.3-5)ケース(お弁当箱)に実装する。バッテリーをIoT用の、保護回路が内蔵されていないものに変更。 写真(3.3-5)ケース(お弁当箱)に実装する。バッテリーをIoT用の、保護回路が内蔵されていないものに変更。

畑での試験を踏まえ、ケースへの実装を行い、いよいよ最終形が見えてきました。上記の②SOSの押しボタンはSORACOM LTE-M Button Plusのボタンをそのまま使用したい、③持ち運べた方がいい、の意見を活かしつつ最終形を作るために、今回はお弁当箱(100円均一)で購入したものを使用しました。また、電池も乾電池式のスマホ充電用のものから、IoTデバイス用のものに変更しました。ただし、IoTデバイス用のバッテリーは、バッテリー本体のスイッチでON/OFFする必要があり注意が必要です。

農作業をする人に使ってもらうには、サイズは大切なポイントです。何度か試行錯誤を繰り返しながら、すべての構成要素がきれいに収まるよう工夫し、電池交換やメンテナンスがしやすいように固定用にベルクロ(マジックテープ)を多用しています。

実際に稼働するのは来年の夏になりますが、実用的な形になりました。

地主さんが試作機を手に取っている様子。ちょうどこの日にガラケーをやめ、スマホを使い始めた。 地主さんが試作機を手に取っている様子。ちょうどこの日にガラケーをやめ、スマホを使い始めた。

夏は終わり、そしてまた来る

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大きく育ったサツマイモ(上)。今年は4箱ぐらいの収穫。収穫の日は思いがけず暑かった(下)。熱中症アラートも午後2時ごろ私のスマホに届いた。 大きく育ったサツマイモ(上)。今年は4箱ぐらいの収穫。収穫の日は思いがけず暑かった(下)。熱中症アラートも午後2時ごろ私のスマホに届いた。

今年の家庭菜園の収穫は、サツマイモが締めくくりとなりました。本業の方々に比べれば、小さな収穫です。しかし、収穫物は周りの方々に喜ばれ、私自身の励みになっています。

収穫日は10月なのに暑く、私のスマホにも熱中症アラートが到達しました。そこで少し休憩。真夏だと、秋よりも頻繁に休憩をとる必要があります。実際、作業を続けるには午前だけでも何回かの休憩が必要です。

作業をしているから、というわけではありませんが年々夏の日々を暑く感じるようになりました。もしかすると、現実に暑くなっているのかもしれません。

このデバイスを熱中症予防に使用するのは、来年の夏になります。いまは秋になり涼しくなりましたが、そのころには猛烈な暑さがまたやってきます。畑を涼しくすることは不可能でも、身を守るための術はいつも持っておく必要があります。次の夏には、このデバイスで身を守りつつ、よりよいコンディションで農作業に望みたいと願っています。

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