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自作キーボードを委託販売してみた

前回の記事で自作キーボードを設計しました。せっかく作ったので、販売して自作キーボード設計者の仲間入りをしたい! ということで、キットを遊舎工房で委託販売してみました。販売方法やどんな準備をしたのか、苦労した点、実際いくらくらいコストがかかって、いくつ売れたのか? などなど初めて同人ハードウェアを販売した体験をレポートします。

自作キーボード、設計したら販売もしてみたい

自分で設計したキーボード「Hatsukey69」。 自分で設計したキーボード「Hatsukey69」。

私は、友人を自作キーボード沼に沈めるべく、キーボードを設計しました(「自称Mac信者の友人を自作キーボード沼に沈めたい」)。初めて作る&初めて分割キーボードを使う人のためのシンプルなキーボードです。前回の記事では未完成でしたが、基板を再発注して完成させました。自分でも使ってみたところ、なかなか快適です。そして手元には基板が余っています。販売してみよう!

どこで販売するか、それぞれのメリット

では、どこで販売するのがいいでしょうか? 大イベント、個人での通販、委託販売の3つが選択肢に挙がります。イベントであればコミックマーケットや技術書典などがありますが、新型コロナウイルス感染症の影響により、開催が不安定な状態です。個人通販の場合、メジャーかつ手軽なのは販売プラットフォームBOOTHを使う方法で、自作キーボード関連の出品も多数あります。また、メルカリやヤフオクを通じて販売する人や個人のECショップを立ち上げて販売している人もいます。最後に委託販売ですが、自作キーボード専門店の遊舎工房で、キーボードキットの委託販売とレンタルボックスでの販売が可能です。

販売方法比較表

※1 自宅から発送の場合 ※1 自宅から発送の場合

今回のキーボードは自作キーボードが初めての人に向けたものなので、これから始める人が一番よく目に留めそうな遊舎工房での委託販売を選びました。委託販売は1個から可能で、通販は売上金額の20%、店頭販売は15%の販売手数料がかかります(2022年1月現在)。

キットを準備、何もかも悩ましい

自分で作る際には手持ちのパーツを使用していました。でも、キット販売するとなると価格も気になってきますし、「このネジだと初めての人には少し組み立てにくいかも?」といったことも気になります。また、梱包材など販売するからこそ必要なものもあり、部材を再検討することに。ちょっとした選択でも、「こっちの方がいい感じに仕上がるけど、価格が上がる」など、いちいち悩んでしまい、意外に時間がかかりました。

もう1つ悩ましかったのは発注数。部材のなかには100個から販売のものもあり、どれくらい買うのかも悩ましかったです。そして追加分の基板をいくつ発注するかも悩みどころ。一度にたくさん作る方が1つ当たりの値段は安くなります。でも「そんなに売れるのか」「何かミスしていたら」という不安もあり、始めは10枚の発注にとどめました。

そんな悩みまくりのフェーズを乗り越え、キットに必要な物が全て揃ったらキット組みです。パーツを数えてパッキングし、を繰り返します。私はミスなく単純作業をするのが苦手。チェックリストや作業用の治具を作り、入れ忘れがないよう気をつけます。

梱包すると「販売するんだな」という気分が高まります。 梱包すると「販売するんだな」という気分が高まります。

販売に必要なものをいろいろ準備する

キット自体を準備できても、それで終わりではありません。自分で使うだけなら必要ないけれど、販売にあたって、決めたり準備したりするものがあります。遊舎工房の委託販売の場合、下記のものが必要でした。

  • 組み立て説明ページ
  • 店舗展示用ポップ
  • 販売ページ用の商品テキストと商品画像
  • キット同梱紙(組み立て説明ページへのリンク、内容物、連絡先などの記載)
  • 店舗展示機
  • ファームウェア
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意外に手こずったのが商品の名前を決めることでした。初めての人向けキーボードだからと「Virgin69」とか「DoTei69」などと呼んでいたのですが、「店でお客さんに言わせるのは忍びない……」ということで「Hatsukey69(ハツキーロクキュー)」という名前に落ち着きました。
さらに、組み立て説明ページを作ったり、ファームウェアを初心者でも使いやすいものに変更したりと、他の人が作って使えるものにするために必要な作業がたくさんありました。

価格を決めるのはもっと悩ましい

さらに悩ましかったのが価格の決定。材料費を計算してみると1つ当たり2500円程度。そこに手数料や作業にかかる自分の人件費、開発費などを入れると原価は4000円ほどになります。売り値はだいたい原価の2~3倍くらいかなという感覚から8000~1万2000円で設定することに。また、他の同程度のキー数のキーボードキットは1万円程度のものが多いのですが、それらに比べると「Hatsukey69」はプレートがなく単純な構造のため、少し安い方が良いと思いました。結果、8000円ほどが妥当かなぁと考えたのですが、「初めて用のキーボードだしハッピー感のある値段にしよう!」という勢いと「高いと売れないのでは」という不安により、7777円という値段に決めました。

しっかりラッキー7の価格が載った商品ページ。 しっかりラッキー7の価格が載った商品ページ。

価格については、よく考えたつもりでしたが、部材の変更や基板の価格が想定より高くなってしまったこと、展示機の作成費など考慮に入れていなかった費用があり、当初計算したより原価が上がりました。初めての場合は、想定漏れがどうしても出てくるので、原価の計算はバッファを持たせておいた方が良かったですね。
部材を取り寄せる際の送料が前回(引っ越し前)の倍かかったとか、安い部材に変えたら質が良くなくて全てロスになったとか、「マジか~」とつぶやくことがいろいろありました……。

いよいよ販売開始!

遊舎工房に販売ページ用の商品テキスト、商品画像、ポップのデータを送り、キットと展示機を納品して販売開始を待ちます。

店頭に展示され商品となった自分のキーボード。 店頭に展示され商品となった自分のキーボード。

売れた数量は月ごとに報告されるので、それまで待たないと分かりません。が、やはり気になる! 通販ページを何度ものぞいてカートに入れて売れていそうか確かめたり、買った人がいないかSNSで検索してみたり。そして月初に前月の販売数報告のメールが届きます。ドキドキの瞬間です。

何台売れた? 黒字? 赤字? 販売結果

初回11月の納品分は3台と少なめだったこともあり、1週間ほどで売り切れました! 想像より早く売れたので、嬉しいながらも焦りが。その後、12月に17台納品し、合わせて20台が12月中に全て売れました。クリスマスや年末の影響があったとは思いますが、想定より売れ行きが良かったので安心しました。手数料を引いた売り上げは約12万7千円。通販の方がよく出ていますが、実際に商品に触れられる店頭でも売れているのは嬉しいです。

売り上げが上がったのは嬉しいですが、売り上げは売り上げ。利益出たの? が気になるところかと思います。材料の仕入れや製造にかかった費用が約7万円。内訳は、基板の製造費が約3万円、それ以外は部品や梱包材の代金です。では「5万円儲かった! やった!」となるかというとそうでもなく。販売準備や問い合わせの対応に結構時間がかかりましたが、そういった人件費はここに含まれていません。試作にも3万円ほどかかっていますし、開発している間の人件費を計算すると、最低賃金でも赤字になる計算でした。開発は趣味で、自分用のキーボード作りのためと割り切り、販売にかかる部分だけを考えれば赤字にはならないけど、開発から商売までと考えると厳しい。価格設定はもう少し高めにしておいた方が良かったですね。これは反省。

「自分が作れる」から「みんなが作れる」へ。大変だけど楽しい

気軽に「販売してみよう!」とやってみましたが、想像していたよりも大変でした。「他の人が使う」ことを考えた時にどうするのが良いのか、設計、材料選び、値段など何を決めるのにも悩んでいた気がします。そして心配でした。商品内容にミスはないか、問題なく組み立ててもらえるのか、売れ残ったらどうしようか……。でも、ふたを開けてみれば大きな問題もなくほぼ順調。何より、SNSなどで組み立てて使ってくれている様子を見るとちょっと恥ずかしくも嬉しく、「販売してみて良かった! もっと作りたい!」という気持ちに。お金の面でもモチベーションの面でも「作ったものを(小さくとも)売る」は、メイカーを続けていくための方法の1つだなと実感しました。(この記事はHatsukey69で執筆しました)

お店に行ったときにポップをじっくり見ている人がいてドキドキしました。 お店に行ったときにポップをじっくり見ている人がいてドキドキしました。

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