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ネオンを編む!? サイバーパンクな編み物で、輝くニット帽を作ってみた

ELワイヤーという柔らかい発光素材を使って、ネオンサインのように光るニット帽を編んでみました。編むのには悪戦苦闘しましたが、暗闇でひときわ目立つ帽子が出来上がりました。

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はじまりは素朴な「編めるんじゃない?」

私はネオンサインが好きです。近所のお店でもネオンサインが使われていてかわいいのですが、お店によって光り方が違うような? 調べてみると、昔ながらのネオン管に加えて、LEDを使ったものが最近では主流のようです。さらに、ELワイヤー(ネオンワイヤー)という柔らかいネオン管のようなものを発見。車の装飾などによく使われるそうです。私は最近編み物にハマっていて、糸状のものを見ると編んでみたくなります。よし、帽子を編もう、ネオン光り輝くニット帽がどんな風になるのか見てたい。製作スタートです。

「無機ELワイヤー」ってどんなもの?

さて、ELワイヤーと呼んでいますが、その正体は無機EL素材をチューブ状にしたもの。有機ELテレビは聞いたことがありますが、無機ELは聞きなれないですね。電圧をかけると物質が発光する現象をEL(Electro Luminescence:電界発光)と呼び、その物質の素材が有機物であれば有機EL、無機物であれば無機ELといいます。無機EL(素子)では硫化亜鉛などを発光体として使い、主に交流電源で発光させます。ワイヤーを分解すると図のような構造でした。電池で使うには(交流に変換するための)インバーターが必要ですが、専用のコントローラーが付属していることが多いようです。

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Amazonで「ネオンワイヤー」や「ELワイヤー」と検索するとたくさん商品が出てきます。大体1000~2000円前後で、太さや長さ、そしてカラーにバリエーションがあります。編むのが目的なので、できるだけ細くて長いものを選びました。2.3㎜、10m(5m×2)のものを購入しました。

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届いたものにはコントローラーが付いていて、電池を入れてスイッチを押すと点灯、数回押すと点滅します。LEDとは光り方が違い、明るいところでは光っているのが分からないくらいに淡く、全体に均等に光ります。温度感がない光で、ライブなどで使うサイリウムに似ています。試しに編んでみると……編めました。同じ太さの充電ケーブルよりは少し硬いくらい、光るものとしては驚きの柔軟性です。

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3Dプリンターで編み針を作る

YouTubeの編み方動画を参考にしてニット帽を編みましたが、その動画で使われている編み針を持っていませんでした。Thingverseで探して3Dプリントします。輪針という、棒針をつなげたもので、ニット帽や靴下など輪っかになっているものを編みやすい道具です。本体は3Dプリント、紐の部分はTPUフィラメントを使います。

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道具の準備ができたら、ELワイヤーを巻きなおします。短い(5m)ため巻きなおす必要はあまりないのですが気分が盛り上がりますね。光る毛糸玉ができたら準備万端、編み始めます。

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25m分のELワイヤーを編む

帽子は1回編んだことがありますが、毛糸で編んでいるときと感覚が違い、「これで合っているんだろうか」という不安を感じます。しかも、予想はしていましたが普通の毛糸に比べて編むのは大変。柔軟性があるとはいっても普通の毛糸よりはだいぶ硬いので、一目ごとにえいや! えいや! と編み物にふさわしくない気合が必要です。

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さて、5m分編んでみたものの、どうにももじゃもじゃとして、形になりません。失敗した3Dプリントのような有様。ここで気が付いたのですが、輪針が参考動画で指定された太さよりもだいぶ太い。しかも参考動画の毛糸よりELワイヤーは細いため、スッカスカになってしまっていたのでした。

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そこで細い輪針を作り直し、太さを増すためにELワイヤーに3Dプリント用フィラメントを加え3本まとめて編んでいきます。編み物では3本取りというのですが、まさかELワイヤーと3Dプリント用フィラメントで3本取りする日が来るとは……。この変更で少し形が整い始めました。しかし編むのはより硬く、より難しく。お湯に漬けて柔らかくすることで少し編みやすくなります。「なにをやっているんだろう」という気持ちになりつつひたすら編んでいきます。

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計算では15mくらいで完成するはずだったのですが、かぶるのには小さすぎたのでさらに10m分追加しました。時間がかかるのでいろいろ時間を見つけては編んでいきます。クリスマスの居酒屋でももくもくと編みます。

クリスマスイブの近所の飲み屋では、他にお客がおらず集中してもくもくと編める。クリスマスメニューでチキンがあったのですが、店主が寝坊して肉がまだ届かないとのことで食べられませんでした。 クリスマスイブの近所の飲み屋では、他にお客がおらず集中してもくもくと編める。クリスマスメニューでチキンがあったのですが、店主が寝坊して肉がまだ届かないとのことで食べられませんでした。

恐ろしいことに、編んでいるとだんだん縮んで小さくなってきました。かぶると西遊記の猿が頭に付けている輪っか、緊箍児(きんこじ)のように食い込みます。しかしここで引き返すのはかなり厳しい。知らないふりをして編み進めます。25m分を編み切り、絞って帽子の形にしました。小学校のプール分の長さの ELワイヤーを使うと(小さめの)ニット帽が編めるという知見を得ました。

ポンポンを作って完成!

ニット帽といえばてっぺんにつけるポンポン。ELワイヤーでもぜひ作りたい! と意気込むものの、毛糸で作るやり方は使えません。 ELワイヤーは切ってしまうとその部分は光らないので、 つながったまま何とかポンポンの形に見せる必要があります。

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球体に穴を開けた殻状のものを3Dプリントし、ELワイヤーを通していきます。これはポンポンでしょう! 自分のことを天才だなと思った瞬間でした。ニット帽本体にポンポンを付ければ完成です。

完成! キリっと自立する、力強いニット帽になりました。コントローラーが4つ、単4乾電池8本付きの帽子です。

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ネオン帽子をかぶって夜の街へ

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ネオンニット帽の本番は夜。ニット帽をかぶって出かけましょう。明るいところで見ると光っているのをあまり感じられないELワイヤーですが、やはり暗いところではしっかり輝いて見えます。全体が光り、帽子が浮き上がるような不思議な感じ。点灯させるとパチンコ屋の看板のような趣です。

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平日夜には店が開いていない田舎では、暗闇で光るのは街灯と信号と私の帽子くらい。

かぶっている状態だと自分ではついているかわからないので、「今光ってます?」とカメラマンに確認しながら歩いていました。自覚できないのに、この一帯で一番目立っています。 かぶっている状態だと自分ではついているかわからないので、「今光ってます?」とカメラマンに確認しながら歩いていました。自覚できないのに、この一帯で一番目立っています。

かぶって歩くのは恥ずかしいかなあと思ったのですが、自分では光っているのが見えないし、まったく気になりません。なにより人がいません。元々は出会った人にどう見えたか感想を聞く予定だったのですが、誰にも出会わないまま、頭を輝かせて街を一周して帰ることに。ただ、車で通り過ぎる人がこっちを見ているような気はしました。目立つのでこれをかぶっていたら車にひかれないのでは? 夜の安全にネオンなニット帽、どうでしょう?

この日は寒かったのですが、ELワイヤーでは毛糸の帽子のような空気の層はできず、さらに無機ELは光っても熱を発しないため、頭は全然暖かくありませんでした。 この日は寒かったのですが、ELワイヤーでは毛糸の帽子のような空気の層はできず、さらに無機ELは光っても熱を発しないため、頭は全然暖かくありませんでした。

本来看板などで使われるネオン管はガラス製なので、当然編んで帽子にすることはできません。代替品というか、別ものだからこそできたネオンなニット帽。紐を使うものには広く応用できそうで、アイデアが広がりますね。

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