撮影できる巨大カメラ「ビッグカメラ」をラズパイで作る
家電量販店「ビックカメラ」の存在を知ってからしばらくの間、ビック(bic)ではなく「ビッグ(big)カメラ」だと勘違いしていた。巨大カメラである。
「♪ビッグ ビッグ ビッグ ビッグカメラ~」
そんなに主張するなんて、どれだけでっかいカメラなのだろうか。子どもながらに妄想が膨らんでいた。
でも、現実にはビッグカメラなんて存在しない。世の中にないならば、自分の手で作るべきだろうか、巨大なカメラ——ビッグカメラを。
ビッグカメラは抱えながら撮影する
——それはカメラと言うにはあまりにも大きすぎた。妄想の中のビッグカメラは、まさにこの大きさだった。
手のひらに収まらないサイズ感。もはや家電というより設備である。
シャッターを押すのも一苦労だ。重量はそれほどないものの、とにかく持ちにくい。グリップを握ることは不可能だし、本体を支えた状態だとシャッターまで指が届かない。最悪のUIである。
「撮りま~す。はい、チーズ!」
このカメラはただ巨大なだけじゃない。フィルムカメラのような操作性を持っていて、しかも実際に撮影できるのがポイントだ。
中には「Raspberry Pi」(ラズパイ)を組み込んでおり、シャッターを押すと写真が撮れる。「これだけデカいと、さぞキレイな写真が撮れるんだろうな~」と思うかもしれないが、ところがどっこい、画質は悪い。
レンズもめちゃくちゃデカいのかと思いきや、実際にはこの矢印の先にある極小の黒い部分がレンズとセンサーなのである。完全に見かけ倒しのカメラなのであった。
その他の詳細は、制作過程と一緒に紹介していきたい。
好きなカメラをモチーフに巨大化する
昔から写真が好きで、大学生のときはマニュアルフォーカスのフィルムカメラで撮影をしていた。
ニコンの「FE2」と、オリンパスの「OM-1」というカメラを大事に持っている。もうフィルムで写真を撮ることもなくなったが、この時代のカメラのデザインと操作性がすごく好きだ。
右手の親指でレバーを操作して、「ギギギギ」とフィルムを巻く。今では失われてしまったこの感触がたまらないし、「これから写真を撮るぞ!」という高揚感も生まれる。
巨大カメラを作るなら、モチーフはこのタイプのカメラにしたい。そんなことを考えながら、まずは3Dモデルを作成していった。
大きすぎて一回では3Dプリントできないので、7つのメインパーツと付属部品に分割。筐体の中にはラズパイなどの電子部品を入れることになるので、簡単に取り外してメンテナンスできるよう、接着剤やネジを使わずにジョイントできる工夫をした。
設計段階ではその巨大さを実感できないのだけど、さて印刷したらどうなるだろうか。
ビッグカメラを印刷する
今回作るのは体積がかなり大きい物体になるので、制作手段についてしばらく悩んでいた。スタイロフォーム(押出発泡ポリスチレン)を削り出して作るか? ダンボールで作るか? などなど。結局、一番キレイに作れそうな3Dプリンターで作ることにしたのだが、大方の予想通り、結構な時間と材料費がかかることになった。
所有している3Dプリンターは、印刷速度に定評のある「Bambu Lab P1S」という機種なのだが、それでも各パーツの印刷にはそれぞれ10時間前後かかった。
特に巨大だったのがレンズ鏡筒部分。約13時間、417gのフィラメント(約1200円分)を費やして出来上がったのは、コロッセウムみたいな物体だった。
手に持ってみると、そのデカさを実感すると同時に、「よくぞ生まれてきてくれた……!」という親みたいな感情が押し寄せる。
3Dプリンターなんて、勝手に印刷してくれるから待っているだけじゃないか、と思うかもしれない。でもいつ失敗するか分からないし、実際に何度か途中で止まったりもしたので、印刷中は常に気が張っている。長時間の印刷を経て手にした物体には、愛着も沸くというものだ。
結局、フィラメントを2kg以上使い(5000~6000円相当)、計62時間かかった末に全パーツが完成した。
右に置いてあるスマホと比べると、そのサイズ感が分かるだろう。どのパーツも異様にでかいので、とにかく物質感があって、今まで味わったことのない満足感があった。
では早速、これらを組み立てていこう。
ビッグカメラを組み立てる
各パーツを組み立てていく。果たして設計通りにはまるのか? 失敗していたら、最悪また62時間だぞ? という特大の不安をよそに、パーツはピッタリと合わさってくれた。実際には、ちょっと入りにくくて削った部分もあるけれど、大工事は必要なかったので合格点だろう。
この時点ですでに立派なカメラになっているが、何か物足りなく感じる。やはりクラシックスタイルのカメラには、グリップ部分に「アレ」が必要だろう。
とはいえグリップ部が大きすぎるので、人間の手ではグリップすることができない。巨人向けのグリップであり、気分は夜な夜な靴を作る小人である。
ちなみにグリップに貼り付けているパーツは、セルフタイマー用のレバーだ。巨大化したモデルを作るにあたって、見た目の印象にあまり寄与しないパーツは省略したのだけど、このレバーは好きなので残しておいた(ただし、飾りなので動作はしない)。
さて、次は右手で操作する部分。フィルムの巻き上げレバーや、シャッターボタンといったパーツを組み立てよう。
ビッグカメラのモチーフはフィルムカメラなので、デジカメのような背面液晶は付けていない。その代わり、ファインダー部分には液晶を組み込むことにした(EVFである)。
レンズ部分には、もちろんレンズを入れているわけはなく、ただアクリル板を貼っているだけである。
いつもは小さい筐体にいかにパーツを配置するか、ということを考えるのだけど、今回は筐体が巨大なので、パーツは適当に入れ放題である。逆にスカスカ過ぎて不安になる。
これがビッグカメラだ!
改めてビッグカメラの全貌と機能を紹介しよう。
作ったカメラは、見た目はフィルムカメラで、中身はデジカメである。「両者を融合させたらどうなるだろう?」と考えて、しっくり来たのがこの動作だった。
巻き上げレバーを引くことでフィルムが送られ、撮影が可能になる様子をデジタルで表現している(つもりである)。ちなみにレバーを最後まで引かないと、シャッターボタンを押しても撮影できない。フィルムを巻き上げてから撮影するという、往年のスタイルを引き継いでいるのだ。
正直なところ、面倒くさいだけで何の意味もないのだけれど、そもそもこのカメラ自体に意味なんてないのである。深く考えてはいけない。
よっこいしょ、とカメラを抱え、落とさないように支えながら、巻き上げレバーを引いてシャッターを押す。常に「落としそう」という不安がつきまとう、なんとも使いづらいカメラである。
持ち運ぶのも一苦労なのだが、せっかくなので外に持ち出して使ってみた。
ビッグ、ビッグ、ビッグ、ビッグカメラ!
撮影していると、通りかかった少年に「でっかいカメラだー!」と指を差されて、照れくさかった。そうだよ、でっかいカメラだよ。これこそが、ビッグ、ビッグ、ビッグ、ビッグカメラ♪ なのだ。
今回、長年抱えていたビック(bic)カメラに対するもやもやとした気持ちを、ビッグ(big)カメラの製作によって昇華することができた。持ち運びが大変すぎることを身をもって実感したので、今後はネックストラップを付けられるようにして首から下げていきたい。そしていつかやってみたい、「ビッグカメラと行く、ビックカメラ巡り」を!