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DIYの粋がギュッと詰まった、正統進化な3Dプリンター——Original Prusa MK4 実機組み立て&レビュー

Prusaは2010年にオープンソースモデルとして生まれた熱溶解積層方式の3Dプリンターだ。Josef Průša氏が後継機種を定期的にリリースし、現在は同氏が率いるPrusa Research(本社:チェコ共和国)が製造と販売を行なっている。黒とオレンジを基調としたボディを、国内外のMaker Faireなどで目にしたことがある人も多いのではないだろうか。

長い歴史を持つPrusaの3Dプリンターから、その最新機種である「Original Prusa MK4」に触れる機会を得た。キット価格で799ドル(約11万8300円)、組み立て済み価格で1099ドル(約16万2700円)と、同系統の3Dプリンターと比べて決して安くはない価格だが、果たしてその性能はどのようなものだろう。従来機種「Original Prusa i3 MK3S+」との比較も交えながら、実機レビューを行っていきたい。

Prusa Researchが扱う3Dプリンターや関連商品(公式サイトよりスクリーンショット)。 Prusa Researchが扱う3Dプリンターや関連商品(公式サイトよりスクリーンショット)。

組み立て中に感じる進化

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段ボール箱に詰めこまれ、MK4のキットがやってきた。テープを剥がし中を開けると、そこには金属製のフレームや3Dプリント製の各種パーツ、電子部品や制御基板のほか、組み立てに必要な各種工具も含まれている。組み立ての合間に食べるグミとして、ハリボーのゴールドベアーが同梱されているのもおなじみだ。

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ガイドに従い、各種部品を組み合わせていく。基本的には言われた通りに作業すればよく、大きくつまずくところはなかった。オンラインのマニュアルには高解像度の写真や動画も掲載されているので、気になる方はチェックしてみてほしい。構造が似たMK3S+と比較して、ケーブルを取り回しやすくするための治具などが追加され、組み立てやすさが向上しているように感じられた。

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また、駆動部周りでの特徴的な変化にも気がつく。ステッピングモーターの間にゴムシートが加えられたり、ベアリングを固定する金具に緩衝材が添えられたり。金属部品と3Dプリント以外の部材が追加されているのは、造形時の安定性や静かさを意識してのことなのだろう。

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オープンソースのDIY感を遺伝子に持つPrusaらしさを感じたのがこのパート。ベアリングに潤滑剤を塗るために、3Dプリントされた専用の治具を用いるのだ。オレンジ色の治具を付けてチューブを押し込むと、細かく開いた穴から潤滑剤が正しい位置に塗布される仕組みだ。工夫を凝らした3Dプリント部品や治具は他にも登場し、その造形や役割のバリエーションに、製作者たちの心遣いと遊び心を感じられる。

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1日数時間ずつ作業を進め、およそ3日がかりで完成。作業はわかりやすいが工数自体は多いので、「キットが届いたその日に使える」とは思わない方が良いだろう。慣れた人が集中して作業しても、半日くらいはかかるはず。同梱されたグミを時折つまみながら、じっくり組み立てていくのがおすすめだ。

フィラメントは大理石のようなテクスチャが特徴の「Prusament PLA(Marble Grey)」を使用した。人物の3Dデータはスミソニアン博物館が公開している「James Garfield」。 フィラメントは大理石のようなテクスチャが特徴の「Prusament PLA(Marble Grey)」を使用した。人物の3Dデータはスミソニアン博物館が公開している「James Garfield」
3Dプリント用データ(G-code)の生成にはPrusaSlicerを用いた。樹木のように構築されるOrganic Supportの形状はユニークながら剥がしやすさも良好だ。 3Dプリント用データ(G-code)の生成にはPrusaSlicerを用いた。樹木のように構築されるOrganic Supportの形状はユニークながら剥がしやすさも良好だ。

組み立て完了後、同梱されたSDカードでネームタグの造形データを選択すると、10分ほどで綺麗な仕上がりのサンプルが完成した。また、Z軸方向に21cm程の高さを持つ印刷データを制作したところ、11時間の連続造形も問題なく行えた(レイヤー高さ0.3mm、インフィル15%)。シートにスティックのりやマスキングテープも用いず、Z軸の調整もマシン任せでこの安定感とクオリティが出せることに、Prusaらしい信頼感を感じられた。

ネットワーク接続が標準搭載

ここからは従来機種との比較を中心に、さらにMK4ならではの特徴を詳しく見ていこう。

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MK4は標準でネットワーク接続が可能になっている。従来機種でもユーザーの手による機能追加は可能だったが、別途Raspberry Pi Zero Wなどを用いたセットアップが必要だった。組み立て完了時点で、Wi-Fiまたはイーサネット接続の設定が行えるのは、地味ながらも順当な進化と言えるだろう。

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遠隔で制御する場合、ローカルネットワーク用のPrusaLink、もしくはリモートプリント用のPrusaConnectという無料のクラウドサービスを利用する。PrusaConnectのアカウントを制作した上で、ネットワークに接続した3Dプリンターを登録すれば、ブラウザー上からマシンの状況が確認できるようになる。

PrusaConnectの管理画面の例。登録した3Dプリンターの状態確認や、印刷データの管理が行える。 PrusaConnectの管理画面の例。登録した3Dプリンターの状態確認や、印刷データの管理が行える。
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PrusaConnectにG-codeをアップロードしたら、本体に問題ないことを確認して印刷開始。温度変化や進行度もリアルタイムでブラウザーからモニタリングできる。使用環境にもよるだろうが、いちいちSDカードに書き出さずともプリントを開始でき、過去の履歴なども確認できるのはうれしいポイントだ。

ノズル交換も簡単、新方式のエクストルーダー

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従来機種との大きな変化の一つが、フィラメントを送り出すエクストルーダー部分の形状だ。遊星ギアを用いた特徴的な形状で、公式には「Nextruder」と呼ばれている。

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MK3S+のエクストルーダーと比べると、厚みが薄くなり、パーツ点数も削減されたことがよくわかる。エクストルーダーを触る機会は主に、素材を変更するときや、詰まりを解消するときだろう。フィラメントがノズルの先端で折れてしまったり、ギアの間に飲み込まれたりして、エクストルーダーを丸ごと分解して組み立て直す辛さを経験した人も少なくないはずだ。

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その点、MK4のNextruderからノズルを取り外すために必要なのは、向かって左側のファンを開け、縦に並ぶ2つのネジを手で緩めるだけ。分解に手間をかけることなく、2種類のケーブルと合わせてノズルを取り出すことができる。「クイックスワップノズル」と呼ばれるこの仕組みによって、メンテナンスはもちろん、径の太いノズルへの交換などもストレスフリーで行えるだろう。

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弾性フィラメント「PolyFlex(ホワイト)」で印刷。使用モデルは「TPU Rival conveyer belt for Khaos, nemesis etc」と、3Dietrichによる「Cable Tie (flex)」。 弾性フィラメント「PolyFlex(ホワイト)」で印刷。使用モデルは「TPU Rival conveyer belt for Khaos, nemesis etc」と、3Dietrichによる「Cable Tie (flex)」

素材は一般的なPLAやABSのほか、柔らかなフレキシブルフィラメントなどにも対応している。PrusaSlicerにデータとして登録されていない素材の場合、自分で印刷パラメーターを調整する必要がある。スライサーで設定するほか、印刷中にもディスプレイの表示を見ながら、プリント速度、ノズル温度、ヒートベッド温度、吐出量などを最適化していくのがおすすめだ。

フルカラーになったパネルは見やすく、操作もしやすい。 フルカラーになったパネルは見やすく、操作もしやすい。

ファーストレイヤーにも安心感。テクスチャ豊かなプレート

使用したモデルは「Christmas Tree」。 使用したモデルは「Christmas Tree」

造形可能なサイズは250×210×220 mmまで。Z軸方向の上限に近いサイズでクリスマスツリーのモデルを印刷したところ、第一層のツルリとした仕上がりに驚いた。公式サイトの表記によれば「精密なロードセルセンサーにより、(中略)プリントの開始時に、プリンターはノズルでシートを格子状に叩いて距離を測定し、正しいオフセットを計算します」とのことで、印刷で苦戦しがちな第一層の定着にも配慮がなされているようだ。

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ビルドプレートには標準で付属する「Smooth PEI Steel Sheet」のほか、「Textured Powder-coated Steel Sheet」や「Satin Powder-coated Steel Sheet」などのシートが利用できる。いずれも本体とは磁石で固定され、人力で簡単に着脱可能だ。

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3種類のシートごとに、接地面の仕上がりをまとめたのが上の画像だ。標準の「Smooth PEI」ではツヤツヤとした光沢のある仕上がりとなり、「Textured Powder-coated」では独特な凹凸がややマットな印象を見せる。「Satin Powder-coated」はその中間という風合いで、利用する素材との相性や好みに応じて使い分けるのが良いだろう。

印刷時間はコンスタントに短縮されていく

“超高速”を謳う機種が登場するほど、小型の熱溶解積層方式3Dプリンターにおける印刷速度の向上はめざましい。MK4も以前の機種と比較すると、高速化が果たされているようだ。

MK3S+とMK4で印刷した「3DBenchy」と印刷時間。 MK3S+とMK4で印刷した「3DBenchy」と印刷時間。

MK3S+とMK4を用いて、同じモデルをPrusaSlicerの標準プリント設定「0.20mm SPEED」で印刷した結果が上の写真。高さ5cm程度のサイズということもあり、クオリティに一目でわかるほどの大きな差はないが、印刷時間では76分から62分、割合にして20%ほどの短縮が達成されている。

ALPHA版として公開されている「InputShaper」をPrusaSlicerで選択。 ALPHA版として公開されている「InputShaper」をPrusaSlicerで選択。

さらにMK4の新機能として、プリンターの共振をなくして印刷時間を短縮させる「InputShaper」技術が開発されている。現在ALPHA版として公開されている設定を用いて同じモデルを印刷したところ、印刷時間は38分と大幅に短縮されたものの、印刷のクオリティに一部乱れが見られた。時間の短縮は魅力的な要素だけに、今後のさらなる最適化や、スライサーの機能向上に期待したいところだ。

組み立てから楽しむMakerへ

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高速で安価な3Dプリンターも増えている昨今。Prusaは昔ながらの機構を踏襲しているが、組み立てのしやすさや印刷精度の向上、ネットワーク接続やカラーLCDの標準搭載など、時代に即した順当な進化を続けていた。MK4の印刷クオリティは家庭用として申し分なく、印刷速度もさらに短くなることが予想される。アップデートを続ける3Dプリンターとして、信頼に足る一台と言えるだろう。

何より、3Dプリントされたパーツを組み立てるなかで、「こんな工夫があったのか」という驚きや、「よく考えるなぁ」という感心が味わえるはずだ。もちろん3Dプリンターは製造手段の一つではあるが、10年以上注がれた創意工夫を感じ取れるメディアとして、DIY精神の粋を感じ取ってみることもおすすめしたい。

初回テストを終えると「Happy printing!」と送り出してくれる、そんな身近さも心地よい。 初回テストを終えると「Happy printing!」と送り出してくれる、そんな身近さも心地よい。

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