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ラズパイの有力な対抗馬「ROCK 5A/5B」を試す

教育やホビー向けなどに使われている「Raspberry Pi」(以下、ラズパイ)だが、今ではそういった目的以外にIoTデバイスを制御するSBC(シングルボードコンピューター)などとしても多く使われている。しかし企業向けの産業用コンピューターとして利用しようとした場合、長期間の使用に耐えないという声もあるようだ。こうした際の対抗馬として昨今光が当たっているのが、今回紹介する「ROCK 5」シリーズである。

全世界的な企業であるRSグループ傘下のOKdoがROCKシリーズを開発し製造、販売しているが、日本ではアールエスコンポーネンツが総代理店となって販売している。

ROCK 5B(左)とROCK 5A(右)。 ROCK 5B(左)とROCK 5A(右)。

ラズパイと同じ大きさのROCK 5A

ROCK 5シリーズは「ROCK 5A」と「ROCK 5B」という2つの製品からなる。ROCK 5Aは、ラズパイとほぼ同じ大きさで85×56mm。インターフェースもRaspberry Pi 4に準拠している。SoCとして「Rockchip RK3588S」を搭載しており、2.4GHzで動作する「Cortex A76」と1.8GHzで動作する「Cortex A55」の2つのクアッドコアを内蔵する。

メモリは4GB、8GB、16GB LPDDR4の3種類から選べる。Micro HDMI出力ポートは2つ用意されているが、ラズパイが4K×2であるのに対し、ROCK 5Aは1つのMicro HDMIポートが8K出力に対応する。GPIO出力端子もラズパイ互換だ。ディスプレイ用のDSI端子とカメラ用のCSI端子は0.3mmピッチのコネクターとなっている。

ROCK 5シリーズの大きな特徴が、Wi-FiユニットをM.2 E Keyで利用する点だ。このため技適などの問題に関わらず本体が利用できる。電源はUSB Type-C PD2.0(9V/2A、12V/2A、15V/2A、20V/2A)およびUSB Type-C 5V~20Vに対応しており、M.2 SSDを利用しない場合は24W以上、利用する場合は30W以上の電源が推奨されている。GPIO2番ピンと4番ピンへの5V供給でも動作可能だ。

利用できるOSはROCK 5シリーズの公式サイトにイメージが掲載されており、ROCK 5A/5B共にDebianのほか、Android 12も利用できる。

Raspberry Pi 5(左)とROCK 5A(右)。 Raspberry Pi 5(左)とROCK 5A(右)。
中央にあるのが「Rockchip RK3588S」。その右にM.2 E Keyコネクターが、その右隣には電源ボタンが配置されている。 中央にあるのが「Rockchip RK3588S」。その右にM.2 E Keyコネクターが、その右隣には電源ボタンが配置されている。
ROCK 5A背面。中央右にはeMMCを取り付けられるスロットが用意されている。 ROCK 5A背面。中央右にはeMMCを取り付けられるスロットが用意されている。
USB Type-Cの電源コネクターとMicro HDMI出力ポート×2、オーディオ入出力コネクターが並ぶ。 USB Type-Cの電源コネクターとMicro HDMI出力ポート×2、オーディオ入出力コネクターが並ぶ。
左からUSB 2.0ポート×2、USB 3.0ポート×2、RJ-45ポート。有線LANはギガビットイーサネットに対応している。 左からUSB 2.0ポート×2、USB 3.0ポート×2、RJ-45ポート。有線LANはギガビットイーサネットに対応している。

フルサイズのHDMIポートを備えるROCK 5B

ROCK 5BはROCK 5Aよりも大きなサイズで、100.15×74.25mm。「Jetson Nano 開発者キット B01」とほぼ同じ大きさだ。SoCは「Rockchip RK3588」で、ROCK 5Aと同様、2.4GHzで動作するCortex A76と1.8GHzで動作するCortex A55の2つのクアッドコアを内蔵する。こちらもメモリは4GB、8GB、16GBの3種類だ。

ROCK 5B(左)とJetson Nano 開発者キット(右)。 ROCK 5B(左)とJetson Nano 開発者キット(右)。

インターフェースがROCK 5Aとは異なり、フルサイズのHDMIポート×2が用意されており、どちらも8K出力に対応しているほか、Micro HDMI入力ポートも備える。Wi-FiはROCK 5BもM.2 E Keyでの対応となる。こちらもディスプレイ用のDSI端子とカメラ用のCSI端子として0.3mmピッチのコネクターが配置されている。このほか大きくラズパイと異なるのは、「NVMe M.2 SSD」を利用できる点にある。microSDメモリーカードよりも大容量かつ高速な動作が期待できるので、さまざまなシーンで応用が利く。

中央の銀色のチップがSoC。右上にM.2 E Keyが配置されている。 中央の銀色のチップがSoC。右上にM.2 E Keyが配置されている。
ROCK 5B背面。上部にはM.2 SSD(2280サイズ)を取り付けるためのスロットが配置されているほか、中央下にはeMMCスロットも用意されている。 ROCK 5B背面。上部にはM.2 SSD(2280サイズ)を取り付けるためのスロットが配置されているほか、中央下にはeMMCスロットも用意されている。
左から、オーディオ入出力コネクターと電源用のUSB Type-Cコネクター、HDMIポート×2、USB 2.0ポート×2、USB 3.0ポート×2、RJ-45ポート。有線LANは2.5GbEに対応する。 左から、オーディオ入出力コネクターと電源用のUSB Type-Cコネクター、HDMIポート×2、USB 2.0ポート×2、USB 3.0ポート×2、RJ-45ポート。有線LANは2.5GbEに対応する。
こちらは反対側。中央左のGPIO出力端子横にMicro HDMI入力ポートが配置されている。 こちらは反対側。中央左のGPIO出力端子横にMicro HDMI入力ポートが配置されている。

電源だが、ROCK 5BもUSB Type-C Power Delivery(USB PD)2.0(9V/2A、12V/2A、15V/2A、20V/2A)およびUSB Type-C 5V~20Vに対応している。ただ、相性問題が存在するようで、一部のUSB PD対応電源は再起動を繰り返してしまうとのこと。これは出力電圧を設定するUSB PDのネゴシエーションでタイムアウトが発生すると、一度電源がオフになってしまうことが原因と言われている。

Radxaはこの課題を認識しており、ブートローダーの修正に取り組んでいるとのこと。詳細はFAQにある「Power Supply」の項目を参照してほしい。またRadxa Power PD 30Wを利用すればこの問題を回避できるので、問題が起きる場合はこれを利用する方がよいだろう。

なおM.2 SSDを利用しない場合は24W以上、利用する場合は30W以上の電源が推奨されるのはROCK 5Aと同様だ。

UnixBenchによるラズパイとの比較

では「UnixBench」を利用して、Raspberry Pi 5と性能比較をした結果について紹介しよう。下のグラフのような結果になった。シングルコアではRaspberry Pi 5に軍配が上がっているものの、コア数の違いからかマルチコアでのスコアは圧倒的にROCK 5A/5Bの方が勝っている。なおROCK 5A/5BはmicroSDメモリーカードとeMMCカード、NVMe M.2 SSDを換えてテストしたが、大きな差はなかった。

UnixBenchの結果。 UnixBenchの結果。

当初、ROCK 5BにM.2 NVMe SSDを装着してテストしたところ、SoCの発熱量増加によるサーマルスロットリングが発生し、スコアが伸びなかった。ROCK 5B用の冷却ファンを使って冷却し、再テストをしたのだが、デフォルトの設定ではこのファンが動作しない。これらの設定を含め、ROCK 5A/5Bの活用方法については改めて解説したい。

アールエスコンポーネンツにインタビュー

アールエスコンポーネンツ 簑田史朗氏(左)と伊藤敦氏(右) アールエスコンポーネンツ 簑田史朗氏(左)と伊藤敦氏(右)

アールエスコンポーネンツの担当者にインタビューをしてきたので、ここからはその内容について紹介していこう。テクニカルサポート・エグゼクティブの簑田史朗氏とプロダクト&サプライヤマネジメントマネージャー 日本・韓国担当の伊藤敦氏に話を聞いた。

——ROCK 5シリーズの概要についてお聞かせください

簑田氏:ご存じの通り、Raspberry Piシリーズは日本でも非常に売れている商品です。Raspberry Piも「4」から「5」に移行していくフェーズですが、ROCKシリーズは若干先行してROCK 5シリーズを展開しています。Raspberry Pi 5がまだ浸透していない段階で、なんとか先行して売り込んでいこうというのが今のわれわれの取り組みです。

ROCK 5シリーズはWi-Fiを切り分けて利用できます。このため技適と関係なく販売できるのが強みです。技適を取得しているWi-Fiモジュールを搭載すればよいので。またROCK 5BではNVMe M.2 SSDを搭載できるのが一番の差別化ポイントです。こうした点を中心にアプローチしています。

また、Raspberry Piは教育用として開発されたのがスタートですが、ROCK 5シリーズは純粋にIoT機器などとして産業系で活用するための製品です。

Raspberry Pi 4はだいぶ製品が出回るようになりましたが、かつてのようには潤沢ではありません。それに対してROCKシリーズのSoCであるRockchipは、中国系のスマートフォンに載っているようなチップを採用していますので、供給面での不安はありません。またRaspberry Piよりもグレードが上がっており、代替として十分に機能します。

なお、GPIO出力端子はRaspberry Pi互換をうたっていますが、Raspberry Pi用として販売されているHAT系を全て検証しているわけではないため、動作保証はありません。

——Raspberry Piよりも高性能なんですね

簑田氏:はい。メモリ搭載量もRaspberry Piが8GBまでなのに対して、ROCK 5シリーズは最大16GBまで搭載モデルを用意しています。またHDMIポートも8Kに対応しているので、映像系のお客様にサイネージなどの需要でご検討いただいています。ストレージも先ほど挙げたM.2 SSDのほか、eMMCの需要も結構あります。OSの起動も、肌感覚でmicroSDメモリーカードの倍くらい違いますね。

——市場ターゲットは産業系が中心なのでしょうか

伊藤氏:はい。以前私たちもRaspberry Piを販売していましたが、グループ全体としては、その時の考えとはちょっと違っています。われわれのベースとなるマーケットプレースがやはり産業系で、製造などのR&Dのお客様がベースになっていますので、産業オートメーションやEV充電、スマートビルディング、スマート農業まで幅広いアプリケーションを開拓しています。Raspberry Piは個人のお客様が非常に強いですが、われわれはビジネスのマーケットプレースに対してアプローチしている点が異なりますね。

簑田氏:弊社へのファーストコンタクトは、Raspberry Piからの置き換えが多いですが、半導体不足による製品の供給不足があり、すでに設計を終えてしまってあとは載せるだけという場合に、セカンドソースとして考えてみるという方も増えてきているようです。

Raspberry Piの互換製品は他にもありますが、ある程度まとまったボリュームで、しっかりと在庫を持って供給できるメーカーとして、信頼や安心感を持って検討していただけます。

伊藤氏:半導体に関しては、今後の販売の需要と予測を考えますと、在庫もかなり積み増しされていまして、日本だけでいうと当初は3割ほどしかなかった在庫が、今は半導体全般で80%から90%近くになっていますので、もうすぐかなり飽和に近い状況になるんじゃないかと考えています。

また、弊社の営業の武器はヒューマンタッチなんですね。eコマースでの販売は当然ですが、ヒューマンタッチという武器を使ってわれわれのリセラーを開拓したり、さまざまなメーカーにアプローチしたりしていますので、そういった面では隠れたポテンシャルがあるというか、引き合いが日に日に増えてきている。

売上にはまだ直接つながっていませんが、開発スピードで半年から1年かかるお客様もいらっしゃいますので、注文量が一気に増えたというスケジュールは立っていませんが、案件は着実に増えていますね。

——個人向けのサポートやコミュニティーで盛り上げるといったことは考えていらっしゃいますか

簑田氏:日本ではDesignSparkなどのコミュニティーでSNSのインフルエンサーの方に記事を書いてもらったりして、コミュニティーを作っている途中です。また共同開発しているRadxaが運営するフォーラムがありまして、英語ではありますが、そちらで世界中のユーザーとコミュニケーションできます。

ROCK 5シリーズに関しては、2023年10月から販売したばかりなので何も立ち上がっていませんが、個人的には、今後ユーザーイベントなどもできればいいなと思っています。

(取材協力:アールエスコンポーネンツ)

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