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時刻表に合わせてリアルタイム更新! 「電光掲示板ガジェット」で旅情を味わう

東海道新幹線に乗っていると、たびたび目にする「ただいま○○駅を通過」という電光掲示板の案内。あれを見ると「旅に出ているんだなぁ」と実感する。

確かに自分は移動していて、いまこの瞬間どこかの街を通り過ぎているのだ。過ぎていく時間、過ぎていく街——。ただの文字列を見ながら、そんなものに思いをはせてしまう。

あの感覚をもっと手軽に味わいたい。どこにいても旅気分に浸れるガジェットを考えて作ってみた。

新幹線の電光掲示板をハンディ端末にする

いまこうしている間にも、全国でたくさんの列車が走っていて、どこかの街を通過している。東海道新幹線のホームに行くと、ひっきりなしに行き交う新幹線の数にいつも驚かされる。

つまり、数分に一回は誰かが「ただいま○○駅を通過」という表示を眺めて、同じように感慨にふけっているはずである。自分がうかがい知ることのできないところで、たくさんの旅情が生まれている。

いままで何本の新幹線が掛川駅を通過してきただろう いままで何本の新幹線が掛川駅を通過してきただろう

特に日が暮れたあとは、車窓から景色がほとんど見えないので、電光掲示板の案内を見て現在位置を把握することが多い。

「ああ、次は京都なのか」というのも、電光掲示板の表示を見て初めて実感できる 「ああ、次は京都なのか」というのも、電光掲示板の表示を見て初めて実感できる

「ああ、次は京都なのか」というのも、電光掲示板の表示を見ると実感できる。言い換えると、この文字情報だけで自分がどこにいるかを判断しているのだ。ならばたとえ家にいたとしても、自作の電光掲示板に「ただいま掛川駅を通過」と流れたのを見ると、掛川駅を通過したと錯覚して旅情を感じたりしないだろうか。

そんなことを思って作ったのが、このガジェットだ そんなことを思って作ったのが、このガジェットだ

これは、東海道新幹線「のぞみ」の電光掲示板みたいな動作をするガジェットである。どんな機能を持っているのか、順に説明していこう。

時刻表に合わせてリアルタイム更新される電光掲示板

この電光掲示板ガジェットの特徴は、実際の時刻表とリンクしてリアルタイム更新されるという点である。どういうことかというと……。

ガジェットがWi-Fi接続されており、ネット(駅すぱあとAPI)から時刻表の情報を取得する ガジェットがWi-Fi接続されており、ネット(駅すぱあとAPI)から時刻表の情報を取得する
そして現在時刻に合わせて、乗車する新幹線が自動選択される そして現在時刻に合わせて、乗車する新幹線が自動選択される

例えば、上の写真のように現在時刻が13:47とする(これは現実の時刻)。

ここでネットから取得した時刻表を参照し、次に出発する新幹線が13:57に新大阪駅を出発する「のぞみ390号 東京行」だと特定する(上りの場合。下りも選択できる)。

以降は、この「のぞみ390号」に乗っているという前提で、現在時刻に合わせてリアルタイムに電光掲示板の表示が更新されるのだ。

現在時刻が、新大阪の出発時刻13:57を越えると 現在時刻が、新大阪の出発時刻13:57を越えると
「今日も新幹線をご利用くださいまして……」という、出発直後の表示が流れる 「今日も新幹線をご利用くださいまして……」という、出発直後の表示が流れる

新幹線に乗っているとよく見るやつだ! と自分で作っておきながら若干興奮してしまった。旅が始まるワクワク感を、こんな単純な文字列だけでも感じ取ることができるのだ。

そして京都駅が近づいてくると、「次は京都」という表示になり、 そして京都駅が近づいてくると、「次は京都」という表示になり、
ほどなく「まもなく京都です。」という案内に変わる ほどなく「まもなく京都です。」という案内に変わる

現実の時刻が進むたび、電光掲示板の表示が新幹線の現在位置に合わせて更新されていく。自分は新幹線に乗っているわけではないのに、あたかも「のぞみ390号」に乗っているかのような錯覚に陥る。それがこの電光掲示板ガジェットなのだ。

そして京都駅を出発してからしばらくすると、お待ちかねの、あの表示が出てくる。

「ただいま 米原駅を通過。」の表示 「ただいま 米原駅を通過。」の表示

14:31ごろ、のぞみ390号は米原駅を通過した。その表示を家にいながらにしてリアルタイムで見ることができるぜいたくさよ。

このガジェットは、机の上に置いて放置しておくだけでいい。何もしなくても時間は刻々と進み、新幹線は終点に向けてひた走っていく。その様子をたまに眺めて、いま自分がいない場所でも同じように時間が進んでいることを実感するのだ。

そして時は進み、岐阜羽島を通過したあと名古屋に到着 そして時は進み、岐阜羽島を通過したあと名古屋に到着
その後は、怒濤(どとう)の9連続・通過駅ラッシュだ その後は、怒濤(どとう)の9連続・通過駅ラッシュだ

名古屋~新横浜間はのぞみ通過駅が9駅もあり、平均すると10分に1駅ほど通過することになる。このガジェット一番の見せ場である。

なかなか降りる機会がない駅は、いつも通過するたび「どんな駅なんだろう?」と想像が膨らむ。15:40ごろ、新富士駅を通過 なかなか降りる機会がない駅は、いつも通過するたび「どんな駅なんだろう?」と想像が膨らむ。15:40ごろ、新富士駅を通過
その後は新横浜、品川に停車したのち、終点の東京へと滑り込んだ。長らくのご乗車、お疲れさまでした その後は新横浜、品川に停車したのち、終点の東京へと滑り込んだ。長らくのご乗車、お疲れさまでした

電光掲示板を流れる文字列を見ながら、いま日本のどこかを走っているであろう新幹線と、その土地に思いをはせる。ものすごく高度な旅の楽しみ方である。時刻表を見ながら旅をしている気分になる「机上旅行」という趣味があるのだが、それのデジタル版といえるかもしれない。

注意点としては、あくまで時刻表を参照しているだけなので、実際の「のぞみ390号」の運行状況とは多少のずれがある点だ。特に通過駅の時刻は公開されていなかったので、駅間距離を元に自分で算出した。よって運行シミュレーター的な使い方ではなく、単に旅情を楽しむツールとして使う想定である。

続いてこのガジェットの中身を紹介していきたい。

電光掲示板ガジェットの中身

よく見る新幹線の電光掲示板は、LEDを2次元に並べてドットを構成する「LEDドットマトリクス」という方式である(新型のN700Sを除く)。本物にこだわるならLEDにした方がいいか? とも考えたが、半面どうしてもサイズが大きくなってしまう。

今回は手のひらに収まるサイズ感にしたかったので、液晶を使ってそれっぽいものを作る方針にした。

3Dプリンター製の本体をパカッと開けると 3Dプリンター製の本体をパカッと開けると
液晶が1枚現れる 液晶が1枚現れる

中の液晶は1枚で、外装を被せることによって2つ液晶があるように見せている。かつて「ニンテンドー2DS」というゲーム機が、同じように1枚の液晶で2画面を作っていた。あれに感動したので、いつか自分の作品にも使いたいと温めていたアイデアである。

裏側。メインのマイコンは、「Raspberry Pi Pico W」というWi-Fi機能を搭載したボードを使用した 裏側。メインのマイコンは、「Raspberry Pi Pico W」というWi-Fi機能を搭載したボードを使用した
横から見たところ。厚みもあまりないコンパクトサイズ 横から見たところ。厚みもあまりないコンパクトサイズ
裏面は特に何もないが、マルチカラー印刷ができる3Dプリンターで2色プリントしている 裏面は特に何もないが、マルチカラー印刷ができる3Dプリンターで2色プリントしている
手のひらに収まるポケットサイズ。このサイズ感を実現したかったのだ 手のひらに収まるポケットサイズ。このサイズ感を実現したかったのだ
バッテリーは内蔵していないので、電源はUSBで供給する バッテリーは内蔵していないので、電源はUSBで供給する

動作としては、まず前述のようにWi-Fi経由で「新幹線のぞみ」の時刻表を取得する。取得元は「駅すぱあとAPI」を使用している(通過駅の時刻は、駅間距離により簡易的に算出)。

注意したいのは、フリープランのAPIでは取得できない情報になるので、課金が必要な点だ。

このガジェットをキット化しても面白いかなあと考えていたが、リクエスト数による従量課金となっているため、あえなく断念……。

その後は、NTP(時刻サーバー)に接続して現在時刻を合わせれば起動完了 その後は、NTP(時刻サーバー)に接続して現在時刻を合わせれば起動完了

2つ付いている黒いボタンの説明をしよう。これを長押しすると、新幹線の上り(新大阪発)と下り(東京発)を切り替えることができる。

現在時刻は18:33で、新大阪18:39発の「のぞみ104号」に乗車している 現在時刻は18:33で、新大阪18:39発の「のぞみ104号」に乗車している
ここで「東京発」のボタンを長押しすると、 ここで「東京発」のボタンを長押しすると、
東京18:39発の「のぞみ251号」に切り替わった 東京18:39発の「のぞみ251号」に切り替わった

同様に「新大阪発」を長押しすると、次に出発する新大阪発の新幹線に切り替えることができる。これにより、例えば一日中ひたすら東京~新大阪間を往復し続けることも可能だ。現実には厳しい乗り方でも、家にいながらにして(気分だけは)限界に挑戦できる。楽しみ方は無限大である。

ちなみに今回は東京~新大阪間の「のぞみ」しか実装できておらず、新大阪~博多間には乗車できない。仮に全国の鉄道に対応したものが発売されたら、自分なら即買いするガジェットになるだろう。かなり大変な制作になるとは思うが、夢は広がる!

動作の様子を動画でどうぞ

文字がスクロールする電光掲示板なので、GIFだけではイメージが伝えづらい。最後に動画にまとめたので、ぜひこの「家にいながらにして体感できる旅情」というものを味わっていただきたいと思う。

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