低コスト化が大変! 3Dプリンターでチャレンジ、オリジナルカプセルトイ作り
私はいま、スイカ型の球体多脚ロボットを開発しています。昨年からMaker Faireなどの展示会で出展していますが、スイカがパカッと割れて歩きだす姿は、多くの人から好評でした。
「欲しい!」といってくれる方もたくさんいましたが、完成度やコストの面で、販売に乗り出すのはなかなか難しいものです。そこで、まずは小型のオモチャを作ってみようと思い、オリジナルのカプセルトイ製作に取り組んでみました。
スイカロボのカプセルトイ
完成品がこちらです。手でつかんで球体にしたり、開いたりでき、本物のロボットと同じようなポーズに変形させることができます。ボールチェーンを通すことでアクセサリーにもなります。
このカプセルトイの外径は48mmです。これはガチャカプセルの標準サイズに合わせています。市販のLOVOTカプセルトイと並べてみましたが、ほぼ同じサイズでした。
このカプセルトイは別途カプセルに入れる必要がありません。球体のまま、ガチャマシンに投入できます。カプセルの無駄が削減できますし、ガチャマシンから出てくるときの感動も増すことでしょう。
最初はうまくできるか不安でしたが、思ったより良いものができてとても満足しています。
FFF3Dプリンターで試作
作り始めたのは3カ月前、2024年の4月のことです。設計としては、本物のスイカロボの変形機構を維持しつつ、できるだけシンプルな構造にしました。あまり小さな穴や突起があると3Dプリンターで造形しにくいので、一つひとつの要素が一定のサイズ以上になるように工夫しています。
設計終了後、自宅のFFF式3Dプリンターで造形してみました。外殻は緑色、中は赤色のフィラメントを使用することで、塗装の手間が省けました。
造形はとてもうまくいったのですが、いくつか問題がありました。FFF式特有の問題点です。
- 意匠:外装の積層面がギザギザしているのが気になります。デザイン性が悪く感じられるかもしれません。
- 品質:積層方向によって変形時に折れやすい箇所があります。耐久性に難があり、品質の確保が難しいです。
- 安全:サポート材をはがした部分に鋭利な箇所が残ってしまい、触るときの安全性に欠けます。もちろん仕上げ作業を行えばよいのですが、とても時間がかかります。
それならばと、今度は表面の仕上がりがきれいな光造形でやってみることにしました。しかし、自宅に光造形機がないため、3Dプリントサービスを利用することにします。
光造形3Dプリンターで試作
3DプリントサービスはJLC3DPに決めました。選定理由としては、日頃からJLCPCBの基板製造サービスをよく使用しており、操作に慣れているからです。また、短納期で安価にできるのも魅力的です。
サービスの利用方法は簡単です。造形したいSTLファイルをアップロードし、材料や色を決めるだけです。私は以下の設定で手配しました。
3D Technology | SLA(Resin) |
Material | 9000R Resin |
Color | Natural White |
Surface Finish | Sanding-General sanding |
JLC3DPではサイト上にある専用の3D Viewerでモデルをチェックすることができます。発注前にモデルにミスがないか確認できて便利です。せっかくなので一体造形にトライしてみます。部品を分割せず、全体を組み付けた状態での造形です。より低コストでできます。
待つこと約1週間、ついに製品が到着しました。確認したところ、FFF式で発生していた問題は解決できていそうでした。
しかし、新たな問題が発生しました。関節部の軸に対して穴が大きすぎたため、脚がフニャフニャですぐ曲がってしまうのです。そのため、カプセルトイを自立させることができません。
このまま自立せず元気がなさそうに見えるのは悲しすぎます。対策として、今度は関節の軸と穴のサイズをきつくして再発注してみました。
難しいぞ! 一体造形
また待つこと1週間、到着した品を確認したところ、今度は寸法公差が厳しすぎて関節が固着してしまいました。球体に変形することができません。前回よりも致命的な問題です。
最適な公差を追求したいところですが、そもそもロットやそのときの仕上げ品質で変わるかもしれません。とても安価なサービスなので、細かな品質まで求めすぎるのも厳しい気がします。そこで、潔く一体造形を諦め、分割造形で作ることに決めました。
目指せ! 500円
分割造形のデメリットですが、組み付ける手間が発生することはもちろんのこと、一体造形よりもやや割高になります。以下はカプセルトイを一体造形したときと分割造形したときのコスト比較表です。
安いほうがよいに決まっていますが、カプセルトイですし、市販品のようにワンコイン(500円以下)にしたいという目標が私にはありました。しかし、このまま分割造形すると一体当たりのコストは500円をオーバーしてしまいます。何かしらの工夫が必要です。
考えた結果、一つのSTLファイルにプラモデルのように複数パーツを配置することで効率良くコストダウンできることを思い付きました。一つずつ造形するよりも、1個当たりの価格が抑えられます。増やせば増やすほど安くなりますね。私は20個のパーツを一つのSTLファイルで発注する作戦にしました。
しかし、発注後しばらくすると、JLC3DPから1通のメールが届きました。どうやら、一つのSTLファイルに入れられる最大部品点数に制限があったようです。一つのモデルで10部品までならOKとのこと。ガイドラインはよく読みましょう。
ガイドラインに従い10部品以下で妥協しましたが、いま世間は超円安です。このままではまだギリギリ500円以下に届きません。そこで、自宅のFFF式3Dプリンターとの合わせ技でしのぐ作戦を思い付きました。きれいに見せたい外装や、滑らかにしたい関節部は光造形。平面的で目立ちにくいベース部品はFFF式で作ります。これでコストに対する目標を達成できそうです。
努力したかいがあって、ようやく思い通りのカプセルトイを作り上げることができました。やったー! ワンコイン達成です!
Maker Faire Kyotoでお披露目
ゴールデンウイークに開催されたMaker Faire Kyoto 2024で、製作したカプセルトイをお披露目してきました。とても好評で、中には購入してくださる方もいました。作品のファンも増え、作ったかいがありました。
カプセルトイの一番の目的は作品のファンを増やすことでしたが、実際にお披露目してみると、新たな発見もありました。まずは、本物のスイカロボットの構造説明がとてもやりやすい点です。モックアップの役割を果たしてくれます。本物は電源が入っているとなかなか触れることができませんが、カプセルトイは手のひらサイズですので、気軽に触りながら説明することができます。
特に子どもが積極的に触っていたのも印象的でした。レゴのように、小さくて触りやすいオモチャは子どもにとって遊びやすいものですね。たくさん触ってもらいましたが、イベント終了まで壊れずにいたのも、しっかり強度を考えて設計できた結果だと思い、安堵しました。
今後の展望
せっかくカプセルトイを作ったのですから、今後はやはりガチャマシンから出てきてほしいものです。展示会のブースにガチャマシンを置けたら、さらに本格的になりますね。
あるいは、BOOTHなどのネットサービスで販売してもよいかもしれません。自作のロボットを販売するのは大変ハードルが高いのですが、カプセルトイなら気軽に始められそうです。
3Dプリンターを使って、自分だけのオリジナルカプセルトイが作れるのはとても楽しいものですね。自分が作ったお気に入りの作品は、記念にどんどんカプセルトイにしてみてはいかがでしょうか。