「直射日光を浴びるとアイスが溶けるガジェット」をRaspberry Pi Picoで作る
暑い。とにかく暑い。この記事を書いているのは、夏真っ盛りの8月初旬である。毎日のように「全国各地で猛暑日」などという、聞くだけでぐったりするようなニュースが流れてくる。
そんな暑さにうんざりしたので、この強烈な日差しを逆に利用できないかと考えた。真夏の屋外で使用する、夏専用のガジェットをラズパイPicoを使って作ることにしよう。
日差しを避けて歩く、ゲーム要素のあるガジェットが誕生
夏、暑さ、日差し……そんなものを想像したとき、恋しくなったのはアイスキャンディーである。甘くて冷たい夏のお供だ。
でもアイスキャンディーは、この暑さだとすぐに溶けてしまう。買って帰るときには、できるだけ溶かさないよう、直射日光を避けて日陰を歩くだろう。子どもがよくやる「横断歩道の白いところだけを渡るゲーム」のように、日陰だけを歩く行為が少しゲームっぽいなと思った。むしろ、そのまんまゲームになるかもしれない。
そんなことを考えた末に出来上がったのが、この爽やかな色をしたおいしそうなガジェットなのである。
照度センサーは、当たった光の明るさを数値化するものだ。例えば、暗い屋内なら100ルクス(照度の単位)、曇りの屋外なら1万ルクスといったように、その場がどれだけ明るいかを測定することができる。
この値を見ることで、日差しの強い日なたにいるのか、それとも日陰にいるのかを判別できる。すると、「日なたにいるときだけアイスが溶ける」という動作も実現可能となる。
これでお分かりかと思うが、日差しを浴びていることが照度センサーで検知されると、それに連動して画面内のアイスが溶けていくのだ。
強い照明を当てることで、直射日光が当たったときと同程度の明るさを作り出すことができる。するとどうなるかというと……
外を歩くとき、このガジェットを持っていく。日なたにいるとアイスが溶けるので、できるだけ日陰を歩くようにする。そういう使い方を想定している。
画面上のアイスは、自分のダメージ度合いを表すヒットポイントのようなものだ。アイスが溶けるほど暑いところにいると、アイスと共に自分の体力も削られていく。いわば現実とリンクしたゲームなのである。溶けやすさは設定で変えられるが、とりあえず活動が限界を迎えそうな30分をタイムリミットに設定してみた。
ゲームオーバーはあるものの、特にクリア条件はないので、「アイスが溶け切る前に目的地に着けばクリア」というように、自分でルールを決めると楽しめるだろう。
炎天下を歩き続けるのは、熱中症のリスクがあり危険である。このガジェットを使うと、どれだけ日差しを浴びたかがアイスの溶け具合で分かる。つまり、長時間外を歩くことの抑止力になるので、熱中症予防のためのガジェットとして活用できるかもしれない。
ちなみに、太陽光を利用したゲームの先駆けとして、ゲームボーイアドバンスの「ボクらの太陽」をリスペクトしている。カートリッジに光センサーを搭載し、外で遊ぶとゲーム内にさまざまな影響が出るという斬新なシステムであった。
日なたと日陰の照度を測ってみる
このガジェットを作るにあたって、そもそも日なたと日陰でどれだけの照度差があるのかを知る必要があった。それを確認するため、プロトタイプを制作して実際に照度を測ってみることにした。
これでいろんな場所の照度を測って、日なたと日陰の閾値(しきいち)を探す作戦だ。まずは家のベランダで測定してみる。奥まっているため照度は比較的低く、1575ルクスだった。
日陰では場所によってばらつくものの、おおむね1000〜1万ルクス程度の値となった。それが日なたに出ると、一気にこのセンサーが検知できる上限値オーバーに。調べてみると、昼間の直射日光は10万ルクスくらいの照度があるそうだ。太陽エネルギーの強さを実感する。
実験の結果、2万ルクスあたりを閾値にすれば、日なたと日陰を判別できそうなことが分かった。センサーの精度や時間帯、季節によっても変わると思うので、汎用性を持たせるにはもっと検証が必要だが、とりあえず今の時期はうまくいきそうである。原理的に実現できることが分かれば、あとは作るだけだ。
アイスキャンディー型ガジェットの制作
ブレッドボードで作っていたプロトタイプを元に、全体のサイズと各パーツの位置を調整して本番用の基板を制作した。
制限がある中で、いろいろ考えてうまく収める作業が好きである。「ファミコンはROM容量を数十キロバイトに抑えるためこんな工夫をしている」とか、電子工作界隈(かいわい)でブームになった「フリスクのケースに収まるサイズのガジェットを作る」みたいな、そういう話にひかれる。
3Dプリンターを使うと、中身に合わせてどんなサイズの外装でも作れてしまう。でも今回は、先にアイスキャンディー型という外装の制限があって、それにうまく収まる回路を作る必要があった。まさに大好物なアプローチである。
「Raspberry Pi Picoと、単四形乾電池2本の電池ボックスのサイズが似ている」ということに気付き、それらを左右対称に配置することで、結果的にバランスが良くコンパクトな回路に仕上げることができた。アイスキャンディーの形にもピッタリと収まり、大満足である。
本物の棒を使っているおかげか、思ったよりもアイスキャンディーらしくなった。涼しげな色味も心地良い。
ただ、棒を持つとものすごく不安定である。中には単四形乾電池が2本入っているため、それなりの重量があり、この棒1本では支え切れない。よって以降は、不自然ながら棒ではなくアイスキャンディー部分を持って使うことにする。
そうして完成したアイスキャンディー型ガジェット「Sunny Ice」。実際に真夏の強烈な日差しを受けながら使ってみたので、その使い心地をお伝えしたい。
みるみる溶ける真夏のアイスキャンディー
この日は8月初旬。ニュースによると、今年一番の暑さとなった日らしい。とにかく、一瞬でも外に出ると「無理!」と言いたくなるような暑さだった。
玄関ですでにくじけそうになったが、がんばって外に出てみた。
何を思ったか、遮るものが何もない河原を歩いてしまった。暑すぎる。一瞬で汗が噴き出し、少し頭がボーッとしてくる。あ、これは長時間いたらダメな場所だ。
前述の通り、アイスキャンディーがすべて溶けるまでの時間を30分に設定していた。真夏なら30分くらいが限界だろうと適当に設定していたのだが、実際に外に出て分かった。10分でも無理だ……。
持っていると熱中症の予防にもなるかも? と思っていたこのガジェット。実際に真夏の炎天下で使ってみると、それどころではないことが分かった。外にいるだけで常に熱中症注意のアラートが頭の中で鳴っているので、このガジェットはあってもなくても変わらない、という結論となった。
ガジェットはうまく動いていたものの、それを軽々と超えてくる夏の暑さ。楽しく使える時期が来るまで、クーラーの効いた涼しい室内で眠っておいてもらうことにしよう。