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「ハクト」インタビュー

「ハクト」インタビュー(後編)秋葉原に売っている部品で宇宙へ行く——設計の基本方針です

宇宙開発。その言葉から、最先端の科学技術と天文学的な資金を投じて挑む国家プロジェクトが浮かんだとしたら、認識を改めたほうがいい。なぜなら、袴田武史氏の率いる宇宙開発チーム「ハクト(白兎に由来)」は、既存の技術を応用して調達可能な資金を元手に活動している民間企業だからだ。
インタビュー後編では「秋葉原に売っている部品で無人探索機を作る」という意外な設計思想などプロジェクトの詳細について伺った。(撮影:水戸秀一)

前編はこちらから

——月面でミッションを遂行する予定のローバーは、現在プロトタイプモデルの開発を終えた段階と聞きました。どのような特徴を持ち、どんな先端技術が搭載されているのでしょうか?

「全体のコストを抑えられる理由にローバーのコンパクト化・軽量化を挙げましたが、もう一つポイントがあります。それは、“民生品”で対応するということです。
これまでの宇宙開発は通常、信頼性を高めるために部品を1点1点オリジナルで設計することが多く、CPUも一から開発することがあります。

ただ、宇宙でのミッションが1週間程度であれば、民生品がかなり使われているのが実情です。今までは、宇宙環境に耐えられる設計がされていないので使えないと言われてきました。

しかし、実際には十分機能するということが証明されてきています。大学の研究室で学生が打ち上げる超小型衛星もやはり民生品を利用していて、1年や2年は動いていたりするわけです。性能が上がってきた証しですね。特別な改良が必要なものといえば、システムを構築している電子部品ですね。放射線や振動や熱の問題があるからです。宇宙空間は-170度近い世界で、月面では大気がないので太陽光が当たると熱放射で100~200度くらいまで一気に上昇しますが、そういった環境に耐えうるシステムになっていれば問題はありません。

実際の性能や形状などを決めるためのデータ収集用プロトタイプモデル。障害物を乗り越える大きな4つの車輪と、360度を見渡せる上部に突き出たカメラが特徴だった。

開発中のローバーですが、最大の特徴は“2輪”で走らせること。これは今までにないコンセプトです。走行性能を考えると通常は、昨年NASAが火星に送ったローバーのように6輪だったりしますが、今回は質量を軽くしてコストを下げたいという狙いもあって車輪を大胆に減らしました。

月面を500m以上走行するというのが今回のミッションですが、大きな障害物を乗り越え急な坂を上れるような性能は求められていないので、十分耐えられると考えています。車輪には、断熱のために発泡系の素材を使います。走行中に障害物を避けるために、カメラ画像の画像認識で障害物などの検知を行う計画です。指定されたHD動画や静止画を地球に送信するというミッションに対しても、やはり民製品のカメラを搭載する予定で、現在選定中です。

ちなみに一時期話題になった小惑星探査機“はやぶさ”ですが、映像を地球に送るロボット用のカメラは、市販のノ-トパソコンから抜き取ったものがベースになっていたりします。つまり、革新的な技術や部品はあまり使っていないのです。極端にいえば、“秋葉原で売っている部品で作る”というのが我々の設計における基本方針です」

そして最新のローバーがこれだ。軽量化のために2輪駆動を採用。ホイール径をなるべく大きくし、軟弱地盤でも走行できるように工夫されている。月面での移動に自由度を与える上下対称のボディ形状を採用。後部には走行時にバランスをとるための突き出たスタビライザーが突き出ている。

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