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家電蒐集家 松崎順一インタビュー

ビンテージラジカセから見た、個人が世界を巻き込むものづくり

100億円市場をひとつ作る時代から1億円市場を100作る時代へ

そうした松崎さんのビジョンに共感したメーカーや流通を請け負う企業は少なくない。
現在では家電メーカー数社と契約して、松崎さんが欲しいと思う家電の企画・開発を新規事業として進めているという。

「メーカーも新たな市場を作り出さないと生き残ってはいけないと思います。今までは利益を上げるために、マス単位じゃないと製品化しなかったけど、これからの時代はひとつの製品に大量の人材を投入して何十億、何百億と売上を上げていくのは難しい時代。例えば2~3人で1億円市場規模の製品をメーカーが作り出し、それを100個つくることで100億円の市場を創出していかないと、海外のメーカーとの価格競争の中で生き残っていけないと思います。

僕がいいよねっていうものって、どちらかというとアナログなもの──70年代、80年代のメイド・イン・ジャパンという面白い遺伝子を僕なりに解釈して、いろんな製品の中に投入したときに今までにない製品ができるんじゃないかなと思っています。そういった中で個人に向けたニッチな市場を作る時代だと考えています」

企業とニッチな市場を開拓し、個人の考え方がよりクローズアップされるような世の中にしていきたいと話す一方で、個人でものづくりをしやすい環境になったと松崎さんは話す。

「ユーザーに向けて同じ製品を何十万、何百万台と売る手法は80年代までの話で、今の僕たちは昔の人と違ってほかの人と同じものは持ちたくないと思うんですね。

家電も自分のこだわりを感じるものを持ちたい、自分ってこういう趣味で感性だからこういうテレビを選びましたというような主張を感じるものを欲しがると思うんですよ。ユーザーが求めているものが細かすぎるので、大手メーカーがそうした人に向けて製品を出すのは難しい世の中になっていると思います。

そういう中で、個人がものづくりをして発信していくというのは、現代のニーズに非常にあっていると思いますね。

例えばAさんが作る家電が好きとか、大手メーカーがマスに向けて発信するものとは別に、ニッチでもユーザーがいればプロダクトとして成り立つという仕組みを成立させ、そういう人が何千人、何万人といて、非常に強烈なオリジナリティのあるものが何千、何万とあるほうが今の時代にあっていると思います。

これからは、個人発信で、それを気に入った人が買っていく、CtoCというのが主流になっていくと思いますね」 

買うまえに直すことを提案する家電の売り方があってもいい

松崎さんは家電の開発以外にも、家電売り場の売り方も変えたいと考えている。

「車でもレクサスは今までの車とは違うおもてなしの精神があって、コンセプトを売ってますよね。そういうものが台頭している世の中に、家電売り場って恥も外聞もなくメーカーから来た全てを置いているだけで、何の発信もせず価格だけの勝負って非常にナンセンスで、違う形での家電販売のアプローチができないかなと思います。」

松崎さんは日本の伝統工芸を例に挙げ、父から子、孫へと3代に渡って使われる家電の仕組みを作っていきたいと考え、企業と組んで家電を直して使うことを前面に出した新たな家電販売店のプロデュースを計画している。

「省エネとかエコロジーとかいいながら、製品サイクルが短すぎて壊れてなくてもごみとして捨てられている。エコロジーとは程遠い状況です。伝統工芸のようなサイクルを家電に投入して、壊れたら直すという仕組みをもう一度作りたい。売り場に全ての部品をそろえた“家電の病院”を置き、買い替える前に直せるものは直して、長くとことん使ってごみを出さないことを提案する店があってもいいと思います。その上で直しようがない状態であれば次の製品のために資源化していくという流れを作ることが本当のエコにつながると思います」

製品を真っ先に売らないというコンセプトに企業が共感する背景には、生き残りをかけたグローバルな競争がある。

「グローバル化した中でよそと同じものを作り、価格競争の中で負けているというのが、今の日本の家電メーカーの姿で、中国や韓国のメーカーに手も足も出ない。であれば日本のメーカーが生き残るには独自の視点でニッチな市場を開拓するしかない。そして、より個人の考え方がクローズアップされるような世の中にしていきたいんです。」

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