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新デバイス「BONX mini」開発者インタビュー

過酷な環境でも安定する音声コミュニケーションデバイスを目指して——「BONX mini」開発の苦悩

2014年に創業したスタートアップBONX。2016年にスマートフォンと接続するだけで最大10人と同時通話ができる新たな音声コミュニケーションデバイス「BONX GRIP」を一般販売、雪山をはじめとするエクストリームシーンや商業施設、医療介護などの業務現場において新しい体験を提供することに成功した。

その後、音声グループコミュニケーションのニーズは、業務効率化を求められるビジネスシーンや日常生活のさまざまなシーンにもあると考え、2019年11月に新デバイス「BONX mini」の開発を開始。クラウドファンディング「GREEN FUNDING」で予約販売を開始した。2つのプロダクト開発にまつわる苦悩や製品の特徴について、スノーボーダーでBONX CEOの宮坂貴大氏とBONXの開発を担当するBATTLES DESIGN 代表取締役の百崎彰紘氏にお話を伺った。
(撮影:水戸秀一)

理想を追い求めて製品を全面的に改良

——BONX GRIPからどのような経緯でBONX miniが誕生したのでしょうか?

宮坂氏

宮坂氏

「2014年11月に創業して、2015年11月にGREEN FUNDINGでクラウドファンディングをスタートしました。その時はまだ製品名が「BONX」でした。BONXを量産してクラウドファンディングの支援者に向けて出荷できましたが、理想としていた製品のクオリティには程遠く、全面的な改良を決断しました。そして、2016年12月にテストマーケティング的に販売した後に、2017年のアプリの全面改修を待って本格展開を開始したのがBONX GRIPでした。」

BONX CEOの宮坂氏。東京大学大学院 総合文化研究科 地域文化研究専攻 修士課程を修了し、ボストン コンサルティング グループに入社。3年半在籍した後、新しい音声グループコミュニケーションデバイスを開発しようと決意してBONXを創業した。 BONX CEOの宮坂氏。東京大学大学院 総合文化研究科 地域文化研究専攻 修士課程を修了し、ボストン コンサルティング グループに入社。3年半在籍した後、新しい音声グループコミュニケーションデバイスを開発しようと決意してBONXを創業した。
宮坂氏

宮坂氏

「BONX GRIPはスノーボードや激しいアウトドアシーンで利用してもらえるように、耳をグリップして激しく動いても外れにくく、風切り音対策機能や防水性能もあります。しかし、販売開始してからは、業務シーンで使われることも多く、そうしたニーズを踏まえて法人向けサービス『BONX for BUSIENSS』をローンチしました。それによって業務シーンでBONXが利用されるシーンは大幅に増え、今では業務効率化やサービス品質の改善が求められる客室乗務員さんや商業施設、医療介護や工事現場でも使われていて、新しい需要が見えてきました。その状況を受けて、BONX GRIPからさらにマーケットを広げていくために、価格を抑えて、サイズをコンパクトにしたのがBONX miniです。さりげなく装着したまま会議もできます。さまざまな現場業務やデスクワーク、さらに日常生活でも最適な製品を目指しています。」

——商業施設や医療介護、工事現場ではどのように使われていますか?

宮坂氏

宮坂氏

「商業施設や医療介護、工事現場で働く方は、インカムトランシーバー(内線通話機器として使われる、ヘッドセット付きトランシーバー)を使って仕事しています。BONX miniを使えば、インカムトランシーバーよりコミュニケーションの質が格段に向上するだけでなく、音声チャットボット(テキストや音声を通じて会話を自動的に行うプログラム)などを使ったさまざまな機能を使うことができます。それによって業務効率化や仕事の質の向上が期待できるので、インカムトランシーバーから置き換えるメリットがあります。」

——BONX GRIPとBONX miniの違いは?

宮坂氏

宮坂氏

「BONX miniは小型化と軽量化を実現して価格も低く抑えています。デザインは、オフィスで装着していてもイヤホンに目線がいかないようにしました。」

百崎氏

百崎氏

「BONX miniは1つあれば左右どちらの耳にも装着できる構造になっています。デザインは部品の内容積を考えながら装着していても目立たないようにシンプルに、長時間装着しても耳が痛くならないように検証を繰り返しました。

風切り音対策はBONX GRIPのみの機能です。BONX GRIPはデュアルマイクでデジタルノイズキャンセリングを行っています。BONX miniはシングルマイクで、マイク部分に風防キャップで対策できます。

BONX GRIPはたくさんのユーザー検証を経ていますが、外れにくくするためにグリップを強くすると、どうしても耳との接触面が多くなって痛さを感じることがあります。BONX miniはその痛さを減らすために可能な限り接触面を減らしています。」

BONX創業当初から開発を担当するBATTLES DESIGN 代表取締役の百崎氏。 BONX創業当初から開発を担当するBATTLES DESIGN 代表取締役の百崎氏。

調査にデザイナーも参加して直接ヒアリング

——BONX miniは内製で開発していますか?

宮坂氏

宮坂氏

「ソフトウェアまわりはほぼ全て内製で開発しています。ハードウェアやファームウェアは外部企業に協力していただいています。良いものづくりができるかは、いかに社内と社外で緊密な関係を作れるかがポイントだと思います。」

——上部が少し曲っているのが特徴的ですが、どのような意味がありますか?

百崎氏

百崎氏

「曲った部分は、耳に装着したときに耳の内部で引っかかるようになっています。「長時間装着しても耳が痛くない」と「動いたら外れやすい」は対極の関係にあるので、とても絶妙なバランスを探る必要があります。このデザインに至るまでに何度も試行錯誤して、直径を導き出すだけでも数カ月も掛かりました。」

宮坂氏

宮坂氏

「海外展開を視野に入れたときに、一般的に日本人より身体が大きいし、耳も身体に比例して大きいだろうと仮説を立てていました。早稲田大学が外国人向けに開催しているサマースクールに登壇し、その講演中に全員にBONX GRIPを装着してもらって検証しました。百崎には、その場で後ろから写真を撮ってもらいながら、ヒアリング調査してもらいました。」

BONX mini試作品の数々。市販品からオリジナルデザインまでを検証を繰り返し、理想のデザインを追い求めた。 BONX mini試作品の数々。市販品からオリジナルデザインまでを検証を繰り返し、理想のデザインを追い求めた。
百崎氏

百崎氏

「ヒアリング調査の場にデザイナーがいることは重要でした。あとで調査結果だけ渡されて、問題点だけ聞かされてもイメージが湧かない。直接意見を伺えたことがデザインの工夫につながっています。

外国人の耳のサイズは結果的に小さい傾向にありました。よく考えたら外国人って日本人よりも小顔な方が多かったので耳も小さかった。デザインを作る上で、検証に付き添ってその場で身をもって体験できたのは大きかったし、答えを出すときにみんなで一緒に進められたのは良かったと思います。」

アパートの一室だったオフィスで深夜まで議論を重ねている風景。 アパートの一室だったオフィスで深夜まで議論を重ねている風景。

電波状況が悪くても使えるようにVoIPを独自開発

——通信面ではどのような工夫をされていますか?

宮坂氏

宮坂氏

「BONX miniが利用している通信は、本体とスマートフォンの間を接続するBluetooth通信と、スマートフォンとサーバー間をやりとりするモバイル通信です。まず、Bluetoothはデュアルモードというものを使っていて、音楽を聴いたりするときに使うBluetooth Classicと、IoTでよく使われているBluetooth Low Energyを同時に使っています。だからこそ、BONXはデバイスのボタン操作でプッシュトークなどが可能なんです。

もうひとつは、スマホとサーバー間の通信で、BONXはVoIPと呼ばれているインターネット上で音声通話を実現する技術を活用しています。同じ技術を採用しているサービスにはLINE通話やSkype通話があります。最近の雪山はどこでも携帯電波が届いているから、VoIPも使えそうだと思っていました。しかし実際は電波がとても不安定で、弱いところもあれば圏外の場所もあります。この環境下で滑りながら移動して使えるようにしなくてはいけない。既存のVoIPサービスやトランシーバーアプリを実際に滑りながら使ってみたら、電話回線の接続が切れちゃったり、遅延したりして全く使い物になりませんでした。そこで僕らは電波状況が悪くても使えるVoIPを独自に開発しています。」

デザインや開発の苦悩を語る百崎氏。 デザインや開発の苦悩を語る百崎氏。

——雪山で安定して会話ができるようにするのは難しそうですね。

宮坂氏

宮坂氏

「雪山は難しかったです。他社のVoIPサービスは使えず、理想のVoIPサービスが無いなら、自分たちで開発してみようと決めてからが地獄でした。エンジニアが雪山にPCを持参し、その場でコードを確認しながら、開発・検証をしていましたが、思うように開発が進まない。何度も雪山に出向いて検証を繰り返すという時期が続きました。電波は同じところでも弱かったり、途切れたりして、難しくて複雑でした。当初は雪山で検証していましたが、毎回、雪山に行くのが大変だなと。そこで、都内に地下鉄の階段の途中で雪山と同じように通信が途切れる場所を発見して、そこで検証を繰り返していました。」

百崎氏

百崎氏

「懐かしいですね。ずっと階段を往復して通信の検証を繰り返していた時期がありました。」

宮坂氏

宮坂氏

「高尾山周辺の山道で検証したこともありました。オフィスで電波を完全に遮断する電波暗室を作ることはできますが、単純に遮断してもだめ。0か100かではなくて、微妙に電波の弱い実地でテストしなければ意味がありません。」

検証に行った雪山での記念撮影。 検証に行った雪山での記念撮影。

開発の苦労を振り返る

——これまでで一番苦労した点はどこでしたか?

宮坂氏

宮坂氏

「苦労した点が多すぎて何を話していいか困りますね。経営者向きなのか、基本的にキツかったことはすぐに忘れるタイプですが、やっぱりものづくりは大変ですね。BONX miniも苦労していますが、最初に量産したBONX GRIPは特に大変でした。」

百崎氏

百崎氏

「BONX GRIPは本当に大変でした。もともと僕はこれまで開発実績としてはイヤホンをいくつも開発してきていますが、こんなに過酷な環境で使うものを開発したことはなかった。自分自身もそんなにスノーボードをするわけではありませんが、通信テストの検証のときに雪山に行って、スノーボードが上手な人たちの後ろを滑りながら追いかけて、使用感について意見を集めていました。耳から外れる体勢や動きを教えてもらいながら、一つ一つ自分自身でも体験しながら改良していました。」

雪山での開発や検証の日々を語る宮坂氏。 雪山での開発や検証の日々を語る宮坂氏。
宮坂氏

宮坂氏

「BONX GRIPは会社で最初の製品だったこともあって、開発体制も十分ではなかったし、中国の製造ベンダーとのやりとりも初めてで苦労しました。工場に見積もりを依頼して金額を提示されても、妥当な金額なのかどうか分からない。リードタイムも間に合うのか不安だったし、ひとつひとつが手探りでした。BONX miniは、GRIPの知見が生きていて進めやすかったです。

会社の代表としてお金と人を集めることが仕事だと考えていますが、まず人を集めることに苦労しました。日本はものづくり大国と呼ばれていますが、最近は量産できるところは少ないし、開発者もいない。ほとんどが中国になってきています。工場は中国ってイメージを持っている人が多いと思いますが、ソフトウェア開発の技術も中国が進んでいると感じています。」

——今後の展望を教えてください。

宮坂氏

宮坂氏

「BONX miniは海外でも販売する予定ですが、BONXはハードウェアとソフトウェアを組み合わせたプロダクトなので、ハードウェアを購入した後からソフトウェア的な機能が追加されていくという良さがあります。特に最近はBONXシステムと外部システムを連携させる「bonx.io」もリリースしたので、業務シーンから遊びのシーンまで様々な体験の拡張がしやすくなりました。今後の構想では、業務シーンでは音声BOTを活用した通知やFAQなど様々な音声ソリューションを展開する予定ですし、遊びのシーンでも同じエリアにいるBONXユーザー同士が会話できるようなマッチング機能など、サービスの幅が広がるようにどんどんプロダクトをアップデートしていきたいと思います。」

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