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深セン発スタートアップECOFLOWインタビュー

DJI出身のスタートアップECOFLOW——2.8億円を集めた大容量バッテリーとは

最大出力1600Wで容量1260Whのポータブル電源「EFDELTA」が、クラウドファンディングサイト「Makuake」で2億8000万円超の支援を集めた。これはMakuakeにおける過去最高の調達額(記事執筆時点)になるという。

クラウドファンディングサイト「Makuake」にて出品された「EFDELTA」

開発元のEcoFlow Technologyは、ドローンのトップメーカーDJI出身の技術者によるポータブル電源のスタートアップで、これまでもいくつかの製品を開発/販売してきた。

2018年に発売した「RIVER」はIndiegogoで1億2000万円以上の支援金を集め、日本では2019年12月から大手家電量販店で販売している。2019年9月に発表したEFDELTAも日本市場への販売に向けて準備を進めているという。

今回は、深セン市南山区にあるECOFLOW本社を訪問し、EcoFlow Japan専務取締役 兼 EcoFlow APEC セールスディレクターのBen Cui(崔斌)氏にお話を伺った。

EcoFlow Technologyが入居しているオフィスエリア。数多くのスタートアップが入居している EcoFlow Technologyが入居しているオフィスエリア。数多くのスタートアップが入居している

——なぜポータブル電源の会社を立ちあげたのでしょうか。

Ben氏:EcoFlowの創業メンバーは4人のうち3人がDJIの出身です。そのうちの一人、王雷(英語名:Bruce Wang)の専門分野はバッテリーです。ドローンにとってバッテリーは技術面において重要な位置を占めていますが、現在の社会は電気がどうしても必要です。そこで「大容量のポータブル電源を開発して人の生活を支えたい」と考え、DJIの同僚と共に会社を立ち上げました。

2019年9月に深センで行われたEFDELTA発表会で話す創業者の王雷氏。 2019年9月に深センで行われたEFDELTA発表会で話す創業者の王雷氏。

2019年初めに30人だった社員も、1年の間に75人と2倍に増えました。年齢層も若く、開発、セールス、マーケティング部隊の平均年齢は約28歳です。

——若くて勢いのある、まさに深センのスタートアップですね。創業メンバーがDJI出身とのことですが、そういった会社は他にもあるのでしょうか?

Ben氏:他にも元DJIの技術者が立ち上げたスタートアップは存在します。例えばダイソンよりも小さいドライヤーを開発したり、自動でペットに餌をあげるプロダクトを開発したりしているところもありますよ。

——今回の新製品EFDELTAは2019年9月に深センで発表されましたが、当時はまだ日本進出の準備中でした。現在(2020年1月)は中型モデル「RIVER」が日本の家電量販店でも取り扱われ、EFDELTAはMakuakeで史上最高額を記録して絶好調ですが、日本市場に合わせるためにどんな工夫をされましたか? また購買層はどのような方々ですか?

Ben氏:まず、電圧を日本基準(100V)に合わせ、PSE認証を取る必要がありました。マニュアルの日本語化も準備中です。日本のユーザーは非常に真面目なので、どんな仕組みなのかをきちんと説明する必要がありました。中型モデルRIVERは最大500Wですが、新モデルEFDELTAは最大出力1600Wなので電子レンジやドライヤー、冷蔵庫などほとんどの家電をカバーできます。

RIVERはドイツの2019年iFデザインアワードを受賞した RIVERはドイツの2019年iFデザインアワードを受賞した

「災害対策」と「アウトドア」にフォーカス

Ben氏:EFDELTAは定価が15万9500円と決して安くありませんが、Makuakeで20人限定の特別価格で出品したところ1時間で完売しました。その後50人、80人と拡大しましたが、それも1日で完売です。購買層は災害に対する意識が強い30〜40代の方がメインです。日本は自然災害が多いので、何か起きたときに安心して電力を供給できる製品として注目されていますね。特に電子レンジを使えるのが好反応です。アウトドア好きで車中泊をされている方の反応が良いですね。

——確かに、これ一つあればどこにでも行けますね。高出力は一番の売りだと思いますが、他社製品との違いや苦労した点などはありますか?

Ben氏:高出力のポータブル電源という発想は、3年前のECOFLOW発足時からありましたが、高出力になればなるほど、安全性の担保を技術的に維持する難易度も上がるため、先に中出力モデルRIVERを発売しました。

EFDELTAの特徴としては、充電しながら使用するパススルー機能や、1時間あれば80%まで充電可能な点、ソーラーパネル(110W)を4枚使用すれば快晴時なら4時間あればフル充電できること、そして1260Whの大容量で最後の2%になるまでドライヤーなどの高出力製品を使用できることです。

また、電気自動車なら5〜12km程度の走行ができる程度に充電できます。苦労した点としてはACアダプターを本体に内蔵した点です。ポータブル電源は熱の問題がつきまとうので、安全に内蔵できるようにするまで苦労しました。

2019年9月 EFDELTA発表会でのスライド。 2019年9月 EFDELTA発表会でのスライド。

今までは高出力のポータブル電源はガソリンを使って発電するものがメインでした。ガソリン式は一長一短ありますが、最近日本では身分証がないとガソリンの入手が難しくなっていると聞きますし、使用時に騒音や二酸化炭素も出ます。地球環境に優しい製品としてEFDELTAをアピールしていきたいと思います。

——バッテリータイプのポータブル電源は充電しても徐々に放電してしまうため、いざというときどれだけ電気を使えるのか不安になったりしますが、そのあたりはどうですか?

Ben氏:EFDELTAは、フル充電状態で1年間未使用のままでも95%の電力が残ります。またEFDELTAを800回使用しても、65%の容量は使用できます。そしてバッテリー劣化時にはセルの交換サービスを行うことも検討中です。

——日本市場にはどのような形でプロモーションをしていますか?

Ben氏:キャンプ系YouTuberにサンプルを送りました。3〜4人に送ったあたりで注目されて、他のYouTuberの方々から連絡が来るようになりました。インフルエンサーとしてだけでなく同時にモニターとして日本の環境下でテストしてもらってフィードバックをいただき、その都度改善していくことを繰り返しました。

——Makuakeのファンディングは大成功でしたが、今後はどのような展開を考えていますか?

Ben氏:現在、日本の代理店や商社の方からEFDELTAを扱いたいというオファーも来ていますが、商流は難しく販売ルートの整理をしているところです。まず、大手家電量販店で販売を行い、ゆくゆくは他の量販店やホームセンター、アウトドア専門店で販売できればと考えています。

——高出力のポータブル電源を業務に使いたい企業も多いのではないかと思いますが、業務用としては売れないですか?

実は今回のクラウドファンディングは一般の消費者にフォーカスして販売しました。理由は2つあります。法人の場合、5万円を超える商品は社内稟議が必要となること、そしてクラウドファンディングで会社が製品を購入するのはあまり例がないからです。しかし今後は法人向けに販売する可能性はありますね。

EcoFlowポータブル電源製品ラインアップ EcoFlowポータブル電源製品ラインアップ

——日本以外の海外展開はどのような感じですか?

アメリカでは2019年9月中旬に開始したKickstarterのEFDELTAのプロジェクトに、3億円を超える支援が集まりました。

——アメリカはキャンピングカーに住んでいる人も多いイメージですよね。確実に売れそうです。

Ben氏:そうですね。他にも東南アジアなど電力が不安定な地域にフォーカスしています。特に島が点在しているインドネシアでは、各エリアに電力が行き届いていないのでEFDELTAの需要は高いと思われます。私の生まれ育った中国の田舎では、かつて夜の19時から21時は多くの家庭が電気を使うため供給が不安定で、よく停電が起きていました。今後もバージョンアップを続け、当製品のサポートを集中して行なっていきたいと考えています。

2019年に旭化成名誉フェロー吉野彰氏らのノーベル化学賞受賞でも話題となったリチウムイオンバッテリーは応用範囲が広く、リサイクル技術も発達している注目の分野だ。EFDELTAは災害時に威力を発揮するだけでなく、環境にも優しく、途上国の生活も変えていく力を秘めているプロダクトなのかもしれない。

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