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教授も愛した名シンセ「Prophet」を自作しちゃった現役大学生、福岡に現る

自作の名アナログシンセサイザーを演奏する動画がTwitterやYouTubeで公開され、話題になっています。シンセサイザーの名前は「Prophet-4」(プロフェットフォー)。
約40年前に発表され、YMOはじめ多くのミュージシャンが愛用した「Prophet-5」をほぼ再現しています。その再現度の高さにSNSユーザーのみならず、シンセマニアや楽器業界の関係者も驚きの反応を示しています。

そこでProphet-4の作者に開発の経緯、そしてArduinoや3Dプリンターを活用して再現したという制作秘話を、自身もシンセマニアで1980年代の音楽に造詣の深いpolymoogさんが取材しました。

※本取材はオンラインで実施しました。(編集部)

Prophet-4とは何か

1978年発表のSequential Circuits(※1)「Prophet-5」は、ポリフォニック(※2)&プログラマブル(※3)という当時としては画期的な機能と多彩な音作りで一世を風靡したアナログシンセの名機だ。

YMO、オフコース、パット・メセニーグループ、ホール&オーツ……国やジャンルを問わずあらゆるステージやPVに登場し、当時の価格は170万円という、まさに憧れのシンセサイザーだった。そんな Prophet-5、ならぬ “Prophet-4” を自作してしまった現役大学生が福岡にいるという。その大学生、福田 雄(ふくだゆう)さんが作った“Prophet-4”とはどんなシンセなのか? まずはその姿と音を聞いていただこう。

ウッドパネルが特徴的な筐体やロゴなどの見た目もさることながら、Prophet-5のサウンドをご存知の方であれば、まさに“あのサウンド”であることに驚くのではないかと思う。
しかしながらご本人いわく「実機は楽器店や展示会で見たことはあるが、弾いたことはおろか触ったことすらない」と言う。しかも、中身は本家と同じチップなども多用した生粋のアナログシンセであることは間違いないものの、本家は5音ポリフォニックだがこちらは4音と、厳密な意味でのクローンではない=本家の回路図をそのまま引き写したものではないと言う。

これは一体どういうことか? そもそもなぜ21歳の現役大学生が、いにしえの名機に憧れ自ら作り上げたのか? 湧き上がる疑問をご本人にぶつけてみた。

※1 Sequential Circuits:1974年設立のサンフランシスコを拠点とするアナログシンセメーカー。1987年にヤマハが買収するも現在は創業者の Dave Smith氏が設立した Dave Smith Instruments に内のブランド「Sequential」として復活し、「Prophet-6」を生産している。

※2 ポリフォニック:和音が出せること。初期のアナログシンセは単音しか出せないモノフォニックタイプが主流だった。4音ポリフォニックなら、4音までの和音が出せる。

※3 プログラマブル:音色が記憶できること。初期のアナログシンセは音色を保存することができなかったので、紙にツマミの位置をメモしたりしていた。

なぜProphetが欲しかったのか

作者の福田 雄さんは現役大学生。 作者の福田 雄さんは現役大学生。

福田さんがProphetの魅力に取りつかれたきっかけは、子どもの頃の体験だった。

「小学校に入る前、父がカーステレオでYMO(※4)をよく聞いていました。その後、小3くらいに両親が離婚して僕は母方に引き取られたので、しばらく聞いてなかったんです。小5の時に母がYMOのベストアルバムを買ってくれて『これ知ってる』と再会し、車で遊びに出かけた時のことを思い出して、懐かしさもあり、YMOの大ファンになりました。

で、中3になって『microKORG』(※5)を買ってYMOのコピーをやり、そこから『KingKORG』やソフトウェアシンセサイザーの『Synth1』に触れていくにつれて、『Prophetの音はProphetじゃないと出せない』と感じたんです。フィルターの特性とかエンベロープカーブ(※6)が関係あるんでしょうけど、浮遊感のある自然音っぽい感じで。そういう経緯で欲しくなりました」

お母さんの影響でエレクトーンを習っていたことで音楽好きになったほか、工作好きだったお祖父さんの影響でラジオやロボットを自作する電子工作が好きな子ども時代だったそうだが、そうは言ってもそれだけでいきなりProphetを作ることができるはずがない。その短くも(なにせまだ21歳なのだ)濃厚な道のりとは。

※4 YMO:イエロー・マジック・オーケストラ。「ライディーン」などの楽曲で有名なテクノポップのオリジネーターとも言うべきバンド。メンバーは細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏の3人。

※5 microKORG:2007年の発売以来大ヒットとなったコンパクトなコルグ製デジタルシンセ。デジタル音源ながら音作りにはアナログモデリング方式を採用している。

※6 アナログシンセで一般的な、減算方式の音作りは、オシレーターで生成された音声信号をローパスフィルターでカットし、そのカットする周波数をエンベロープジェネレーターなどで生成される変調信号で動かして音色に時間的変化を与える構造となっていて、これらの部品やその変化の仕方が機種ごとの音色の特徴を大きく左右する。

モジュラーシンセキットAnalog 2.0

「最初にシンセを作ったのは高2の時で、『Analog 2.0』(※7)でした。高校生でお金がなく、キットを買わずにユニバーサル基板で作ったのでめちゃくちゃ大変だったんですけど、なんとか完成しました。しばらくすると、エンベロープやオシレーターを増やしたいと思い、2017年に大学に入ってすぐ改造しました。ちょうどその頃Prophet-5に使われていたオシレーターチップ、Curtis(※8)の『CEM3340』のセカンドソース版(Cool Audio『V3340』)が市場に出回り始めたので、それを使ったんです」

この時CEM互換チップの存在を知ったことが、「Prophet-4」を作ることになるきっかけの一つとなる。

自作したモジュラーシンセキットAnalog 2.0 による「東風」の演奏動画。4歳から中3 くらいまでエレクトーンを習っていたというだけあって、演奏の腕前はなかなかのもの。

「で、次にネット上でPollard Syndrum(※9)の回路図を見つけて、それを元にしたクローンを作ったんです」

この頃になるとさすがにユニバーサル基板ではなく、『EAGLE』などのCADを使って基板を設計したり、Elecrowなどの基板製造業者に基板を発注するなど、知識や経験を積んでいった。

※7 Analog 2.0: GitHubで回路図や作り方が公開されているアナログモジュラーシンセキット。設計者のGanさんは「学研大人の科学マガジン シンセサイザークロニクル」 のふろくアナログシンセの設計者でもある。

※8 Curtis Electromusic Specialties:VCO、VCFなどのアナログシンセサイザー用カスタムチップを量産していたメーカー。1988年にOnChip Systemsと合併。社名に由来するCEMの型番で知られ、国内海外を問わず各社が採用していた。Prophet-5では後期型に使われていた。同様のメーカーにSSM(Solid State Music)がある。

※9 Pollard Syndrum:YMOのライディーンでドラムソロなどに使用された初期のドラムシンセサイザー。

回路図発見でPrphet 4製作開始。しかし……

「その次も、最初はCEMの互換チップ(Alfa RPAR製『AS33x0』シリーズ)を使って、『Pro One』(Sequential Circuitsのモノフォニックシンセ)のような構成のモノフォニックシンセの設計を始めたんですが、しばらくしてネットでProphet-5の回路図が詳細に載っているサービスマニュアルのPDFを発見したんです。そこでポリフォニックに方向転換したんですが、基板はもう注文してしまっていたので、中身はPro Oneが4つ入ったような構成になってしまったんです」

こうして後にProphet-4となる、CEMの互換チップを使用したポリシンセの製作が始まった。しかし、サービスマニュアルはポリモジュレーション(※10)など、Prophet-5の独自パラメーター構造については参考にはなったが、その中身はほぼ独立したモノシンセが4台入っているような、Prophet-5とは異なる構成となった。そして、さらなる大きな相違点が。

Pro One相当のモノシンセ×4台分のボイスカードを内蔵する実験の様子。各ボイスカードはほぼ独立したシンセとしても動作する。 Pro One相当のモノシンセ×4台分のボイスカードを内蔵する実験の様子。各ボイスカードはほぼ独立したシンセとしても動作する。

「一番の大きな違いは音色が保存できる=プログラマブルっていうこと。でも基板は注文してしまっているので、もともとプログラマブルではないシンセをプログラマブルにする、ということをしなければならず、余計難しくなってしまいました」

※10 ポリモジュレーション:Prophet-5独特の音色パラメーター。フィルターエンベロープとVCO2で、VCO1とVCFに変調をかけることができ、Prophetの個性的な音色の要因の一つとなっている。

どうすればプログラマブル化できるのか

アナログシンセで音色を保存するには、パネルのツマミの位置が示す電圧をADコンバーターで数値化し、メモリーに記憶する。保存した音色を呼び出すときは、DAコンバーター(DAC)によってメモリー内の数値から制御電圧を生成する。これらの動作には、マイコンによる制御が欠かせない。Prophet-5が画期的だったのは、音声系は純然たるアナログ処理でファットなサウンドを実現しつつ、制御系は黎明期のマイコンによるデジタル技術が取り入れられる(※11)、その嚆矢となったことにもあった。

「回路図で(部品などの)実装部分は分かるけど、マイコンに書き込まれているプログラムは載っていない。自分は電子工学科ではないので、素人といえば素人なんです。なので20数個のパラメーターの電圧をマイコンで思った通りに制御する方法が分かりませんでした。

最初は素人考えでDACがたくさんあれば電圧を作れるだろうと思ったわけですが、それではコストもかかるしマイコン1個じゃそんなにたくさん制御できないので、検索していろいろ調べました。すると、サンプル&ホールド(S&H)(※12)っていう回路を使えばDAC1個でもマルチプレクサー(※13)を使うことでたくさんの電圧を生成できることを発見したんです。で、よくよくProphet-5のマニュアルを見たら『S&Hがあるじゃないか!』ということで、自分は全く別の道筋でしたけど、昔の人も同じ考えに至ったんだなと思って感動しました」

この大量の部品は全て手作業で接続している! 場当たり的(?)に増築した設計によって複雑さを増したが、さすがに仕事は丁寧。このあたり、勢いの良さと根気強さのバランスがProphet-4誕生の秘訣か。 この大量の部品は全て手作業で接続している! 場当たり的(?)に増築した設計によって複雑さを増したが、さすがに仕事は丁寧。このあたり、勢いの良さと根気強さのバランスがProphet-4誕生の秘訣か。

Prophet-5が使用しているマイコンは、Z80(※14) だったが、Prophet-4ではどのように処理することにしたのだろうか?

「Z80ではなくArduinoです。中学生の頃ロボットを作ったんですが、その時にJapanino(※15)を使ったので、その経験が生かせて簡単そうだしっていうことで選びました。その結果は……全然簡単ではなかったですね(笑)単純にArduinoにプログラムを書いたのでは余計な関数を呼び出したりして処理スピードが遅くなるので、高速化するための工夫をまた検索して調べました。ポートを直接操作したり、ADCのサンプリングレートを変えたりしました。そういう情報が簡単に手に入るのは助かります」

Prophet-4に使用したArduinoは「MEGA2560」互換機(CV制御、音色保存用)の小型版と Arduino UNO互換機(キーアサイン用)とのこと。写真は開発時の実験の様子。 Prophet-4に使用したArduinoは「MEGA2560」互換機(CV制御、音色保存用)の小型版と Arduino UNO互換機(キーアサイン用)とのこと。写真は開発時の実験の様子。

※11 Prophet-5:はマイコン制御を導入することで、音色の保存を始め、鍵盤からの電圧を複数のVCOに割り振りポリフォニック化するキーアサイナー、複数のVCOのピッチをそろえるオートチューニングなどの機能も実現し、後期モデルではMIDIインターフェースも搭載された。

※12 サンプル&ホールド:入力電圧(アナログシンセの場合は制御電圧=CV)の値をA/D変換して、次に記憶すべき信号が来るまでの間、一時的に保持したり、その間の電圧を一定に保つ回路。

※13 マルチプレクサ—:複数の電気信号を1つの信号にして出力する機構/回路。

※14 Z80:Zilogの8ビットCPU。Intel 8080を開発した嶋正利さんらがその開発に携わり、当時の家庭用パソコンがこぞって採用した。現在でも組み込み用途など各所で互換CPUが多用されている。

※15 Japanino:「学研大人の科学 vol.27」ふろくのArduino互換マイコン。偶然だがこの誌面にはGanさんも登場している。

何事も見た目が肝心。その出来栄え

まるでアナログシンセの進化の歴史を駆け足でなぞるかのようにして出来上がっていったProphet-4の中身だが、驚くべきはProphetの風格ある姿を再現した見事な外観にもある。鍵盤とベンダーホイール以外全て自作したという筐体は、どのように製作したのだろう。

「ホームセンターで木材とアルミの板と買ってきて、ベランダで穴を開けたり鋸で切ったりしました。パネル面が斜めなのでその寸法を計算して、木材をその通りにカットするのが難しかったですね。パネルの白線はマスキングテープとアクリル絵具で引いてます。白い文字はホワイトペンで手書きしました。ロゴは光造形3Dプリンターでステンシル型を作り、スプレー缶で文字を入れました。左端のベンダーホイールの箱の部分も3Dプリンターで出力しています」

アルミパネルに下地の黒い塗装を施し、マスキングテープを引いてアクリル絵具で白い枠線を入れた。 アルミパネルに下地の黒い塗装を施し、マスキングテープを引いてアクリル絵具で白い枠線を入れた。
パネル面の小さな文字はフリーハンドで3日かけて書き上げた。 パネル面の小さな文字はフリーハンドで3日かけて書き上げた。
ロゴの文字だけは仕上がりにこだわり、そのために購入した光造形の3D プリンターでステンシル型を作った。 ロゴの文字だけは仕上がりにこだわり、そのために購入した光造形の3D プリンターでステンシル型を作った。

Prophet-4の鍵盤とホイールは、リサイクルショップで購入した壊れたMIDIキーボード(※16)を分解して使用した。外部インターフェースはMIDI IN/OUT、オーディオアウトがL/R、そしてUSBだ。

「本家はモノラル出力ですがコーラス(※17)を内蔵したのでステレオ出力にしました。USB はMIDIのためではなく(Arduinoの)プログラム書き換え用に使っています」

※16 ALESIS「Q49」を使用

※17 BOSSのコーラスエフェクター「CE2」をステレオ化した回路を内蔵。Prophet-5のテープインターフェースがあった位置にツマミとスイッチを付けた。

YouTubeがリファレンス

電子工作、プログラミング、さらには木工や金属加工と、さまざまな工作スキルを駆使して出来上がったProphet-4。だが、肝心の音の方は、大好きなYMOや坂本龍一のアルバムを聴きまくったとはいえ、Prophet-5を触ったこともないというのにどうやって確認したのか?

「YouTubeにProphet-5を演奏している動画(※18)がたくさんあるので、そういうものをとにかく片っ端から見ました」

その結果、Prophet-4の演奏動画やSNSのリプライには「まさにProphetの音だ」とか「すごすぎて訳が分からない」といったコメントが多数寄せられたという。

このようにして見た目も出音も往年の名機そのもののProphet-4が誕生した。しかしその過程は、回路図やサービスマニュアルはネットから入手し、設計はCADを使い部品はネットで注文。マイコンはArduinoで、筐体製作には3Dプリンターを使用。果ては実機の出音もYouTubeで確認と、現代ならではの手段を多いに利用し、往年の紙メディアによるクローン製作記事や同好の士の情報を活用した時代とは一味違う道程となった。

※18 musictrack(シンセサイザー奏者の氏家克典さんの演奏動画が有名)、SynthMania、Perfect Circuitなど。

スーパー大学生、そのいまどきの悩み

最後に、福田さんの現在、そしてこれからについて聞いた。

「今は九州大学工学部で造船の勉強をしています。乗り物、特に飛行機が大好きなんですけど、飛行機でも船でも自動車でも、ものづくりをする視点からは基本的な学びの部分で全部つながっているので、じゃあ船舶コースに行くかと。次に何を作るかは決めてないんですけど、Prophet-4では紆余曲折を経たので、次はきっちりと目標を持って作りたいですね。それから学校で軽音楽サークルに入っているので、そのライブでProphet-4をぜひ使いたいです。いまはライブハウスが全部ダメなので」

一見時代錯誤にも見えるProphet-4を作ってしまった21歳の若者は、電子工作やプログラミング、木工のスキルに加え、大学で船舶を学ぶ、メカにも明るいスーパー大学生(?)でもあった。その悩みの種は、今を生きる現代の若者(若者でなくとも、だが)ならではのもの。しかしその悩みは、いずれきっと解決される日が来ることだろう。その時ライブハウスに響き渡るProphet-4の爆音と、ユニークすぎる福田さんの今後の活躍に注目したい。

写真提供:福田 雄さん

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