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子どもたちが試行錯誤を楽しみながら新しいモノやコトを創造する力を育む──組み立て知育玩具「TEGUMII」に込めた思い

「TEGUMII(テグミー)」というおもちゃをご存じだろうか。「組み立て玩具」といわれる種類のもので、国産MDF(中質繊維板)を使用したブロックのようなおもちゃだ。

クラウドファンディングサイトのCAMPFIREで2022年1月15日にプロジェクトを開始し、最初の1時間で目標金額30万円を達成。2月28日までの1カ月半で、最終的に約215万円もの資金を集めた。

「創る人を育む」という触れ込みで登場したこのTEGUMIIを開発するのは、2021年8月の設立当時名古屋大学の学生だった2人が立ち上げたエドギフトという会社だ。同社の共同代表取締役である越川光氏と村松美穂氏の2人に、起業に至った経緯やTEGUMIIを開発した狙いについて聞いた。(撮影:加藤タケトシ)

シンプルで奥深いTEGUMIIの根底にある思想

TEGUMIIのパーツは正方形、長方形、円形という基本的な形のパーツが5種類。薄くて硬い国産MDFから作られた板状のパーツには複数の溝が入っており、溝同士を直交させて差し込むことでパーツをつなぎ、いろいろな形のものを作って遊べる組み立て玩具だ。

恐竜、乗り物、家など、創意工夫でいろいろな形を作り出せる。 恐竜、乗り物、家など、創意工夫でいろいろな形を作り出せる。

単純に遊んで楽しいだけのおもちゃだったら、クラウドファンディングで200万円以上にも及ぶ大きな支援を集めるには至らなかったかもしれない。

TEGUMIIのWebサイトを訪れると最初に目に飛び込んでくる「創る人を育む」という言葉は、エドギフトが掲げているミッションでもある。彼らの定義で「創る人」とは、「自ら考えて新しいモノやコトを生み出す人」のことだ。

失敗と成功を繰り返し、試行錯誤をした先に「新しいモノやコト」が生まれる。その度重なる試行錯誤の経験が、さらなる挑戦への意欲につながるはず。そのような考えが、TEGUMIIの根底にある。

「私たち2人とも、子どもの頃はその場にある限られたものでいかに楽しく遊ぶかを『試行錯誤』してきた経験があります。その辺で拾ってきた木の実や葉っぱを使ってネックレスを作ってみたり、牛乳パックでおもちゃを作ったり。そういう原体験があったからこそ、今私たちがいろいろなことに挑戦できていると思っているんです」と村松氏は話す。

エドギフト代表取締役 村松美穂氏 エドギフト代表取締役 村松美穂氏

それと同じように、正解のないところに「試行錯誤」を重ねて何かを作る、成し遂げるということを、TEGUMIIで遊ぶことによって子どもたちに楽しみながら体験してもらいたい、そんな思いがTEGUMIIには込められているのだ。

ものづくりへの情熱と教育に対する強い思いから生まれたエドギフト

2人が共同代表としてエドギフトを設立したのは、2021年8月30日のこと。当時越川氏は名古屋大学経済学部に籍を置き、教育に関心があったことから名古屋の教育団体に所属して、教育イベントの企画・運営などの活動をしていた。

一方の村松氏は、同じく名古屋大学大学院工学研究科の修士課程で材料の研究をしていた。子どもの頃からものづくりが好きで、常に手を動かして何かを作っていたという村松氏は、宇宙への興味が強く、サークル活動でロケットの開発などをしながら子ども向けにロケット教室を開いていた。

2人が出会ったのは、越川氏が所属していた教育団体のイベントに村松氏が講師として呼ばれたときのこと。事前の打ち合わせで話したときから意気投合し、それぞれに「2人で何か面白いことができるんじゃないか」という予感があった。

「自分はずっと教育に関心を持ち続けて、教育に対する強い思いを持っていた。それと、村松が持つものづくりへの情熱がぴったり合わさった」と越川氏は話す。

エドギフト代表取締役 越川光氏 エドギフト代表取締役 越川光氏

しかし意気投合したとはいえ、いきなり「一緒に起業しよう」とはならないのが普通だろう。具体的に起業へ向けて動き始めるきかっけとなったのは、村松氏が越川氏の行動力を目の当たりにしたことだった。

「もともと私は、ロケット教室を別の会社と一緒にやっていたのですが、事情によりその会社でのイベントができなくなってしまいました。ちょうどそのタイミングで越川と出会い、その話をしたところ、『ロケット教室をもう一度やろう。俺が一緒にやってくれる会社を探してくる』と言ってくれて。その3日後には、本当に一緒にやってくれる会社を見つけてきてくれたんです。『こいつすごい奴だな!』と驚き、一緒に仕事をしようと思いました」と村松氏は振り返る。

そのロケット教室を運営していく中で、いろいろな壁にぶつかった。例えば、受講者から参加費をもらう形にしていたが、ロケットを作るための材料費は安くはなく、参加費の額をどう設定すべきかといったお金の問題もその一つだ。

「自分たちの思いや教育を持続的に届けていくためには、ボランティアでは難しい。事業としてやっていくのが理想だと思うようになったことが、会社設立の契機です。だから起業当初はTEGUMIIを開発しようとは考えてはおらず、それまでやっていたロケット教室に近い、子ども向けのものづくりワークショップなど、ものづくりを絡めた教育イベントをメインの事業にしていました」(越川氏)

思いを載せて子どもたちに届ける「メディア」としてのプロダクトを

そうやってイベント事業を軸に立ち上がったエドギフトが、なぜ玩具を開発することになったのか。その経緯を、村松氏はこう話す。

「イベントも、子どもとじかに接する機会という意味では大事。でも、私たちの思いをもっと多くの人に届けるために、私たちが子どもたちに直接会わなくても届けられるようにしていきたいね、という話を越川としていました。じゃあどうすればそれを実現できるか。考えるうちに、全ての子どもが必ず一度は手に取るおもちゃでなら思いを伝えられるのではないかという発想に至りました」

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単に遊んで楽しいおもちゃではなく、2人の思いを乗せて届けることができ、かつ教育的に意味のある知育玩具を作ろう──ここからTEGUMIIの開発が始まった。

できるだけシンプルなパーツ構成にするための試行錯誤

板を溝に差し込むタイプの組み立て玩具を作ることは、そこまでの過程でほぼ決めていたのだという。理由は、TEGUMIIの素材である国産MDFをワークショップで使っており、「これを使ってもっと発展的に遊べそうだ」という感触を得ていたからだ。むしろ悩んだのは、どのような形やサイズのパーツをそろえるかだった。

「いろいろな組み立て方ができる自由度の高いおもちゃにしたい思いがあった一方で、大人の意図をなるべく介在させず、子どもたちの試行錯誤を邪魔しないパーツのラインアップにしたい思いもありました」と村松氏は話す。

最初は20種類近い形のパーツを用意してみた。その後、クラウドファンディングを実施するまでの3カ月ほどの間に、形が違っても果たす役割が同じパーツはどちらか一つにするなどして7種類にまで絞り込んだ。現在は、さらに削ぎ落として5種類に落ち着いた。

5種類のパーツと人型。クラウドファンディング時は正三角形1種類と円形がもう1種類あったが、代用可能なものに絞り込んだ。 5種類のパーツと人型。クラウドファンディング時は正三角形1種類と円形がもう1種類あったが、代用可能なものに絞り込んだ。

「この5種類さえあれば、思い描くほとんどの形を生み出せると思っています。逆に、これ以上パーツの種類を増やしても、表現できる形は増えていかない」と越川氏は話す。

パーツの形は1種類ずつ意匠権も申請しており、20×40mmの一番小さなパーツ2種類についてはすぐに意匠権を取得することができた。

こうした試行錯誤を経て厳選されたパーツのラインアップのおかげで、組み立て方や組み立てる順序によってイメージ通りに組み立てられないことがある。「パーツを差し込んでみてうまくいかなかったら、一度取り外して別の順序やパーツの組み合わせを試してみる。それを繰り返すことで、プログラミング思考が育まれると考えています」と越川氏は話す。

子どもだけでなく大人も熱中するTEGUMIIの魅力

もともとイベントを主軸に起業したエドギフトは、ユーザーの反応をじかに見られるのが強みでもある。子どもたちにTEGUMIIを渡して遊んでもらうと、その遊び方でタイプが分かってくるのだという。

「見本通りに作りたい子と、自分の思ったとおりに作りたい子で大きく分かれますね。それと、溝と溝をかみ合わせることが直感的に分かって、きちんと差し込めているかチェックしながら組み立てる子もいれば、溝じゃないところに差し込んで好きなようにどんどん組み立てる子もいます」(越川氏)

TEGUMIIで遊ぶ子の親からよく言われるのが、「うちの子がこんなに熱中しているのを見たことがない」「シンプルだけど奥深い」という言葉だそうだ。「奥深さがあるからこそ熱中する──私たちもそれを狙って作っているので、とてもうれしいです」と村松氏は話す。

以前、親子でTEGUMIIを使って遊ぶイベントを実施したときに、普段は自動車メーカーでクルマの設計をしている父親が熱中するあまり、「これ貸しなさい」と我が子のパーツを奪おうとする場面があったそうだ。ものづくりを仕事にしているエンジニアを熱中させるほど、TEGUMIIが魅力的ということなのだろう。

「大学時代、教育事業やイベント活動を通じて、子ども自身が判断する選択肢を持てること、自己決定感を持つことが、熱中するために必要な要素だと学びました。TEGUMIIは、『この作品を作りなさい』というものがなく、何を作るか、どうやって組み立てるのかも自分で決めていくもの。それが熱中してもらえるポイントなのかなと思っています」(越川氏)

手応えを確かめながらTEGUMIIを教育プログラムに組み込んでいく

現状では、TEGUMIIの生産はクラウドファンディングで得た資金で購入したレーザーカッターを用いて社内で行っている。販売チャネルはTEGUMIIのWebサイトでのECが基本で、155ピースを1セットにしたものを販売している。

155ピースセットを購入すると、布袋に入って届く。平面の板だからきれいにそろえてしまえばかさばらず、軽いため持ち運びにも便利だ。出かけた先などで、子どもにおとなしく集中しておいてほしいときにTEGUMIIを取り出して遊ばせている親も多いそうだ。

2022年9月12日には、プラスチック製のTEGUMIIの新商品発表をした。赤、青、黄、白色のパーツがあり、表現の幅も広がる。将来的には、年齢などに応じてパーツの組み合わせを変えたセットを作ったり、販売店やECプラットフォームへと販売チャネルを広げたりしていきたいという。

「まずは自分たちと近いところで購入していただいて、フィードバックやデータを集めながらTEGUMIIというプロダクトを研ぎ澄ませていくことを優先しています」と越川氏は話す。

そのために、TwitterやInstagramに「#テグミー」のハッシュタグを付けて作品の写真や動画を投稿してもらうよう呼びかけ、その投稿にコメントするなどの取り組みを行っている。

ユーザーがどのように遊んでいるかを知ってプロダクトの改良に役立てるとともに、ユーザー同士のつながりを促す取り組み。 ユーザーがどのように遊んでいるかを知ってプロダクトの改良に役立てるとともに、ユーザー同士のつながりを促す取り組み。

「さらに、お客さまに個別にお願いして、より深くヒアリングさせていただくこともあります。何より大事なのはお客さまがどう思っているかだと思うので、こうした取り組みは大事にしていきたいですし、これをせずにTEGUMIIの発展はないと思っています。まずは、TEGUMIIを本当に好きで遊んでくれるファンを増やしていきたい」と村松氏は話す。

現状では、TEGUMIIというプロダクトが目立っている形だが、2人はプロダクトが売れることそのものには、実はあまりこだわっていない。なぜなら、このTEGUMIIを用いた教育プログラムを確立させていくことに重きを置いているからだ。

「TEGUMIIというハードがある程度煮詰まってきたら、どのような教育プログラムにしていくのかというソフト面の開発に力を入れる考えです。デジタル技術などを掛け合わせながら、『子どもたちが試行錯誤を楽しむ』というところにとことんこだわった教育プログラムを作り上げていきたい」と、越川氏は将来の展望を語った。

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