吸水性を備えたポリエチレン繊維を開発——運動着から宇宙服まで
2021/05/31 07:00
MITを中心とする研究チームは、ビニール袋などの素材であるポリエチレンから、衣類に使用できる吸水性のある繊維を作ることに成功した。開発したポリエチレン繊維は、綿やナイロンなど他の素材の布地と比べてエコロジカルフットプリントが低く、環境への負担が低いことが示唆された。研究の詳細は、『Nature Sustainability』誌に、2021年3月15日付で公開されている。
ポリエチレン製の素材には、薄くて軽く材料コストが低いうえ、リサイクルできるという特徴がある。また熱を逃がすため他の繊維製品と比べて涼しさを保つことができ、衣料用繊維の素材として注目されている。しかし、疎水性のため水や他の分子を弾くという特性から、汗を吸い取って蒸発させることができず、衣類の素材として利用するためには課題もあった。
今回、研究チームは、合成繊維を製造する一般的な装置を用いて、粉末ポリエチレンを原料として繊維を作った。この方法では、溶解した粉末ポリエチレンを、細い孔から押し出して繊維化するが、押し出す過程でポリエチレンがわずかに酸化して繊維の表面エネルギーが変化、その結果弱い親水性を備えるようになった。
さらに、別の一般的な紡糸装置を使ってポリエチレン繊維を束ねた糸を製造したところ、繊維と繊維の間で毛細管現象が生じ、繊維の表面に吸い寄せられた水分を受動的に吸収した。
研究チームは、吸水性を上げるために繊維の太さや並べる向きを最適化したポリエチレン糸を作り、布地に織り上げた。ポリエチレン布は、綿、ナイロン、ポリエステルなどの一般的な布地と比べて、水分を早く吸収し蒸発させた。繰り返し水に濡らすことで、ポリエチレン布の吸水性は低下したが、素材をこすったり紫外線に当てたりすることで吸水性は復活した。
また、ポリエチレンがインクや染料などに含まれる分子と結合しづらいという特性を利用して、乾式で着色する方法も開発した。従来のように刺激の強い化学薬品の溶液に浸して着色するのではなく、ポリエチレンの粉末に着色粒子を混ぜて繊維状に押し出す。着色粒子は、ポリエチレン繊維の中に閉じ込められて色を着けているだけなので、布地をリサイクルするときに溶かして遠心分離すれば、着色粒子を回収して再利用できる。
この着色プロセスに加えて、繊維を製造するときに熱を加えなくて良いことや、汚れが付きにくいため使用段階で洗濯や乾燥に必要な水やエネルギーが少ないことから、ポリエチレン繊維は綿やポリエステルから作った繊維よりも環境への負荷が低いと算出された。また、ポリエチレン繊維はビニール袋などからリサイクルして作れるため、サステナブルな素材といえる。
研究チームは、ポリエチレンが軽量で自然に涼しさを保つことから、運動着や軍服、さらに有害なX線を遮蔽することから宇宙服への利用も視野に入れている。
(fabcross for エンジニアより転載)