航空機エンジンの騒音をヘアドライヤー並みに——エアロゲル超軽量防音材料を開発
2021/08/24 07:30
英国バース大学の研究チームが、航空機エンジンなど様々な分野で発生する騒音レベルを最大16dB低減できる超軽量材料を開発した。酸化グラフェン(GO)とポリビニルアルコール(PVA)から構成され、多数の気泡を含むエアロゲル材料であり、0.79という高い吸音率を示すとともに、重量密度が2.1kg/m3で他の吸音材料に比べて著しく軽量だ。航空機を始めとした自動車や船舶などのエンジンの防音用途、さらに建築や建設分野にも適用できると期待される。研究成果が、2021年5月19日の『Nature Scientific Reports』誌に公開されている。
大都市では、しばしば頭上を飛行する航空機の騒音に悩ませられることがある。航空機の騒音問題は悪化の一途をたどり、航路に近い地域の地価に影響を与えることもある。航空機エンジンも含めた様々な騒音問題は、地球温暖化のように人類に対する普遍的な脅威とまでは言えないが、直接影響を受けている人々の聴覚に対して極めて有害であることは間違いない。騒音レベルの低減は、社会を住みやすくする上で重要な技術のひとつであり、これまでに発泡材や繊維含有材などの多孔質吸音材料が用いられてきたが、多くは低周波数帯で充分な吸音特性を持たず、また航空機エンジン用途には十分に軽量とは言い難い。
様々な酸素官能基を有した酸化グラフェンは、数μmサイズの2D形状を有するとともに、安定した懸濁液を形成することから、気泡と組み合わせて吸音機能を持たせることも期待されている。研究チームは、GOとPVAから構成され、多数の気泡を含むエアロゲル材料を作成し、広範囲の周波数帯域において優れた吸音特性を有する、超軽量の新材料を開発することに成功した。ともに親水性があり親和性の高いGOとPVAを高せん断ミキサーによって混合し、気泡を多数含んだ混合液体を、ハニカム状のコア構造中に液体窒素温度で凍結鋳造することにより、多孔質エアロゲル材料を作成した。GOとPVAの混合比率およびプロセス条件を適正化した結果、400~2500Hzの広範囲の周波数帯域において、吸音率は0.79、音響透過損失は15.8dBという優れた吸音特性を実現した。また、重量密度は僅か2.1kg/m3で、これまでの吸音材料と比較して最も軽量であった。
「簡単に言うと、製造技術はメレンゲを作るために卵白を泡立てるのに似ていて、環境にも優しい。開発したエアロゲル材料は、航空機離陸の際に発生する105 dBの騒音を、ヘアドライヤー並みに低減できる」と、研究チームは説明する。次の目標は、航空機メーカーと共同で実際のジェットエンジンにおける防音材として試験し、18カ月以内に製品化することだ。また、構成比率やプロセス条件を調整することで吸音特性を制御でき、自動車や船舶分野および建築や建設分野にも応用できると考えている。また、耐熱性や耐火性、EMI遮蔽特性など、他の機能特性を持つ可能性もあり、継続して検討する予定である。
(fabcross for エンジニアより転載)