本研究は、マンガやアニメーションで通常の物理法則に反するが、多くの人にユーモアをもって受け入れられる「マンガ物理学（Cartoon physics）」に着目し、MRによって実現するのが目的だ。本システムは、ナイフと崖面をデバイス化して、人が崖を滑落中にナイフを崖面に突き立て停止するというマンガ物理学ならではのシーンを体験できる。

主なシステム構成は、HMD（Oculus Quest）、底面に圧力センサーが設置され突き立てると刃が柄の中に引っ込むナイフ型デバイス、ベルトコンベアとDCモーターからなる崖面デバイス、圧力データを入力しコンベアに回転指示を出すArduino Uno、HMDにVR映像を出力するPC となる。

プレイヤーは面に押し当てる際の圧力の検出が可能なナイフ型デバイスを把持し、HMDにより提示される崖面を滑り落ちる仮想的な映像世界の中で、ベルトコンベアを有する可動式の崖面デバイスにナイフを押し当て、自身が滑落する代わりにナイフと接触する崖面が上昇することで、滑落から停止時の腕部周辺の体感を実現する。

プレイヤーが崖面デバイスに対峙してナイフを崖面に当てると、崖面のベルトコンベアが速度を上げる。ナイフをコンベアに押し当てて刃が柄の内部に沈むと、コンベアの速度が遅くなると同時に、HMDに表示される映像内の崖の移動速度も遅くなり、視触覚で落下速度が遅くなったことをプレイヤーに体感させる。さらにナイフを強く押し込むと、閾値を超えたところでコンベアが停止し、映像上もナイフを持つ身体感覚上も停止を体感させて終了する。