名工大と都産技研、3Dプリンター用ステンレス鋼粉末を開発
2022/07/12 11:40
名古屋工業大学の渡辺義見教授・佐藤尚准教授の研究グループは、東京都立産業技術研究センターの大久保智博士と「ヘテロ凝固核粒子を含有させたステンレス粉末の作製とそれを用いた積層造形」に関する共同研究を実施し、従来のステンレス鋼粉末と比べ、小さなエネルギーで高速造形が可能な新規金属粉末の開発に成功したと発表した。
今回の研究では、異質核生成理論を金属3Dプリンティング技術に応用した。本手法は、母材金属よりも高い融点を有し、かつ母材金属の初晶となる相に対して原子配列の整合性の良いヘテロ凝固核粒子を添加して3Dプリンティングを行う点に特徴がある。母材金属粉末とヘテロ凝固核粒子の混合粉末を用いて3Dプリンティングを行うと、凝固が均一に発生するため、内部欠陥の発生が抑えられ、密度の高い造形体が得られるという。
従来SUS316Lとヘテロ凝固核粒子を添加した発明品を用いて3Dプリンティングで造形した材料をアルキメデス法により測定すると、エネルギー密度を下げても、相対密度があまり低下しない。発明品を使うことにより、小さいエネルギー密度で造形が可能となり、従来SUS316Lと比較して微細化しているという。
従来のSUS316L粉末を使った3Dプリンティングでは、スキャン速度(造形速度)を速くすると相対密度と造形性が下がっていたが、発明品の粉末を使用すると高速造形を行っても、あまり密度低下が発生しないため高速造形が可能となった。
引張り強さでは、スキャン速度200mm/秒で造形した場合、従来SUS316L粉末は576MPaであったのに対し発明品は599MPa、スキャン速度600mm/秒で造形した場合、従来SUS316L粉末は551MPaであったのに対し発明品は605MPaになり、強度が向上していた。ビッカース硬さでは、従来SUS316L粉末を用いた造形体の硬さはスキャン速度をあげて造形すると下がる傾向があるが、発明品を用いた造形体の硬さはスキャン速度にあまり依存せず、特に高速造形を行った場合に有効な技術だという。
今後、骨接合材、脊髄固定器具、人工関節、骨頭など医療分野への応用が可能だとしている。